新品種候補　　　　　　　　　　　　　　　（作成　平成１３年１月２４日）
課題の分類
新品種候補名　　てんさい「Ｈ　１２６」
試験場所名　　道立十勝農試、北見農試、中央農試、上川農試、根釧農試、北海道農試
　　　　　　　　　北海道てん菜協会(日本甜菜製糖㈱、北海道糖業㈱、ホクレン農業協同組合連合会)

１．来歴および試験経過
　「Ｈ　１２６」は、オランダのバンデルハーベ種子会社が平成７年に育成した三倍体単胚の一代雑種である。平成８年にホクレン農業協同組合連合会が輸入し、平成９年から12年に北海道立十勝、北見、上川、中央農業試験場並びに北海道農業試験場において輸入品種検定試験、てん菜協会において品種連絡試験を行った。平成11年から12年に、十勝農試、中央農試、根釧農試において各種特性検定試験、全道各地において現地検定試験を行った。

２．長所及び短所
　長所　１）褐斑病抵抗性は「アーベント」より強い“強”である。
　　　　　２）根腐病抵抗性は「アーベント」よりやや強い“中”である。

３．特性及び奨励品種として採用する理由
　１）「Ｈ　１２６」は、葉姿は「アーベント」と同じ“やや開平”、葉長は“やや短”、葉数は“中”で「アーベント」並である。葉形は“楕円形”、葉面縮は“中”、葉身の大きさは“中”で「アーベント」と同じである。クラウンの大きさは“小”で「アーベント」並、根形は「アーベント」と同じ“円錐”、根周は“中”で「アーベント」並である。分岐根は“少”である。
　２）根重は「アーベント」よりやや多く、根中糖分は「アーベント」よりやや低く、糖量は「アーベント」並であった。また、褐斑病の発生及び根腐症状の発生が「アーベント」より少なかった（表１）。
　アミノ態窒素、カリウムは、「アーベント」並で、ナトリウムは、「アーベント」よりやや高かった。不純物価は「アーベント」並であった（表２）。

　抽苔耐性は「モノホマレ」、「アーベント」と同様の“強”である（表２）。
　褐斑病抵抗性は「モノホマレ」、「アーベント」より強い“強”である（表２）。
　耐湿性は「モノホマレ」よりやや強く「アーベント」と同様の“中”である（表２）。
　根腐病抵抗性は「モノホマレ」、「アーベント」よりやや強い“中”である（表３）。
　黒根病の発生は「モノホマレ」、「アーベント」並である（表３）。

　現地試験の結果、根重が「モノホマレ」より多く、根中糖分が「モノホマレ」並で、糖量では「モノホマレ」より多かった。「アーベント」の供試場所では、「Ｈ　１２６」は「アーベント」と比較して、根重が多く、根中糖分が低く、糖量では多かった。また、褐斑病の発生が「モノホマレ」、「アーベント」より少なく、根腐症状の発生が「モノホマレ」並で、「アーベント」より少なかった。（表４）。

　３）以上のことから、「Ｈ　１２６」は、「アーベント」と比較して根重がやや多く、糖量では同等であるが、根中糖分はやや低い。褐斑病抵抗性が強いことから褐斑病の発生が少ない。また、根腐病抵抗性が「アーベント」よりやや強く、根腐症状の発生が「アーベント」より少ない。
　以上のことから、「Ｈ　１２６」を「アーベント」の一部に替えて北海道一円に普及することにより、てんさいの安定生産に寄与できる。

表１　農試及びてん菜協会における成績（平成９〜12年）
場
所		 系統名
・品種名		 褐斑病
発病程度		 根腐症
状株率		 抽 苔
株 率		 根 重
(t/10a)		 根中糖分
( ％ )		 糖　 量
(kg/10a)		 「モノホマレ」比
根重 糖分 糖量
農
試		 Ｈ　１２６
モノホマレ
アーベント		 0.2
0.5
0.6		 0.1
0.9
0.6		 0.0
0.0
0.0		 7.22
6.75
7.10		 16.83
16.69
17.28		 1,210
1,122
1,113		 107
100
105		 101
100
104		 108
100
109
協
会		 Ｈ　１２６
モノホマレ
アーベント		 0.0
0.1
0.2		 0.1
0.1
0.8		 0.0
0.2
0.0		 7.23
6.78
7.03		 16.11
16.08
16.63		 1,162
1,089
1,167		 107
100
104		 100
100
103		 107
100
107
全
平
均		 Ｈ　１２６
モノホマレ
アーベント		 0.1
0.3
0.1
0.6
0.7		 0.0
0.1
0.0		 7.22
6.76
7.07		 16.55
16.45
17.02		 1,191
1,109
1,201		 107
100
105		 101
100
103		 107
100
108

注１）農　試：十勝、北見、中央、上川農試、北農試の５カ所４カ年平均（中央農試は３カ年）。
　２）協　会：日甜（帯広市）、北糖（本別町）、ホクレン（女満別町）の３カ所、４カ年平均。
　３）全平均：農試及びてん菜協会の８カ所、４カ年平均（中央農試は３カ年）。
　４）根腐症状株率：指数４以上。

表２　品質調査、特性検定試験（平成９〜12年）

系　統　名
または
品　種　名		 品質調査(Ｈ9〜12年) 褐斑病抵抗性
（十勝農試）
発病程度		 抽苔耐性
(根釧農試)
抽苔率（％）		 耐湿性
(中央農試)
腐敗度
有害性非糖分
(meq/100g)		 不純
物価
(％)
アミノN Ｋ Ｎａ ９上 10上 判定 Ｈ11 Ｈ12 判定 Ｈ11 Ｈ12 判定
Ｈ　１２６
モノホマレ
アーベント		 2.04
2.20
2.00		 4.31
4.47
4.28		 0.48
0.62
0.42		 4.54
4.87
4.34		 0.61
1.72
1.43		 1.73
3.55
3.75		 強
ヤヤ弱
弱		 0.0
0.0
　-		 0.0
0.0
　-		 強
強
(強)		 86.7
91.9
− 		31.9
62.4
− 		中
ヤヤ弱
( 中 )
注１）品質調査は農試及びてん菜協会の８カ所、４カ年平均（中央農試は３カ年）。
　２）不純物価(％)＝(3.5×Na(%)＋2.5×K(%)＋10×Amino-N(%))÷根中糖分（％）×100
　　　Na：ナトリウム　Ｋ：カリウム　Amino-N：アミノ態窒素
　３）褐斑病発病程度は平成10〜12年の３カ年平均値。抽苔耐性、耐湿性の（）は以前の結果。

表３　根腐病抵抗性特性検定試験、黒根病調査（平成９〜12年）
系　統　名
品　種　名		 根腐病発病程度
（十勝農試）		 黒根病発病程度
中央農試 現地試験
Ｈ11 Ｈ12 判定 H9〜11平均 Ｈ11 Ｈ12
Ｈ　１２６
モノホマレ
アーベント		 2.51
2.62
−		 2.61
2.93
−		 中
やや弱
(やや弱)		 0.1
0.5
0.3		 0.2(0.1)
0.2(0.1)
−(0.2)		 0.2(0.0)
0.3(0.1)
−(0.2
注１）根腐病は病原菌を接種、黒根病は無接種。
　２）根腐病抵抗性の（）は以前の結果。
　３）現地試験はＨ11：15カ所、Ｈ12：13カ所、（）内は「アーベント」を供試した場所（H11：４カ所、H12：３カ所）の平均。

表４　現地検定試験成績全道平均（平成11〜12年,２カ年平均）
系　統　名
品　種　名		 褐斑病
発病程度		 根腐症状
株率(％)		 根　重
( t/10a)		 根中糖分
（％）		 糖　量
(kg/10a)		 「モノホマレ」比（％）
根　重 根中糖分 糖　量
Ｈ　１２６ 0.6
( 0.3)		 1.9
( 0.7)		 6.51
(6.87)		 15.50
(15.40)		 1009
(1052)		 108
(111)		 101
(102)		 109
(113)
モノホマレ 1.0
( 0.6)		 2.3
( 0.4)		 6.05
(6.17)		 15.35
(15.06)		 929
( 927)		 100
(100)		 100
(100)		 100
(100)
アーベント −
( 0.6)		 −
( 2.9)		 −
(6.35)		 −
(15.92)		 −
(1013)		 −
(103)		 −
(106)		 −
(109)

注）Ｈ11：15カ所、Ｈ12：13カ所の平均。（）内は「アーベント」供試した場所（H11：４カ所、H12：３カ所）の平均。

４．配布可能種子量
　平成１３年度　５００ｋｇ　 平成１４年度　２，０００ｋｇ 　平成１５年以降　５，０００ｋｇ

５．適応地帯および普及見込面積
　北海道一円
　平成１３年度　５００ｈａ　平成１４年度　２，０００ｈａ　平成１５年以降　５，０００ｈａ

６．栽培上の注意
　　１）褐斑病抵抗性は“強”であるが、薬剤防除が必要な場合があるので、本病の発生推移を観察し、　防除の要否を判断する。