成績概要書　　　　　　　（作成　平成13年1月）

１．目的
　ダイズわい化病抵抗性を構成する因子のひとつである媒介者ジャガイモヒゲナガアブラムシ（以下アブラムシとする）に対する抵抗性について、その性質を明らかにするとともに実際的な検定方法を確立し、それを用いてわい化病抵抗性系統を育成する。またより広範囲の遺伝資源から抵抗性育種素材を探索し、既存の抵抗性品種系統と異なる遺伝背景をもったわい化病高度抵抗性育種素材を作出し、育成場に提供する。

２．方法
（１）アブラムシ抵抗性とその有効性
平成5、6年に遺伝資源センター場内の温室および圃場においてアブラムシ接種検定を行った。また場内圃場接種検定および伊達市現地圃場でのわい化病抵抗性検定にアブラムシ抵抗性/感受性の系統を供試し、アブラムシ抵抗性によるわい化病の発病抑制効果を確認した。
（２）新規遺伝資源の探索と抵抗性要因の推定
平成5、6、9?12年にのべ約700点の新規遺伝資源について、芦別市新城と伊達市の現地わい化病多発圃場、遺伝資源センター場内多発圃場、および圃場接種、温室内接種等によるわい化病抵抗性検定を実施した。また新規抵抗性遺伝資源の一部についてアブラムシ抵抗性検定を実施した。
（３）アブラムシ抵抗性検定を用いたわい化病高度抵抗性系統の作出
①19点のわい化病抵抗性遺伝資源を交配親に用いてのべ75組合せの交配をおこない、アブラムシ抵抗
　性検定を含むわい化病抵抗性に関する選抜を繰り返し実施した。
②育成された系統のうちF₆?F₈世代の5組合せ8系統を伊達および十勝のわい化病多発現地試験圃場に
　おける検定に供試すると同時に実用農業特性に関する調査をおこなった。

３．結果の概要
１）既報のわい化病抵抗性品種「黄宝珠」と「Adams」ではアブラムシに対する反応が異なり、ダイズわい化病に対する抵抗性には、ウィルスに対する抵抗性とは独立してアブラムシ抵抗性が関与していることが明らかになった（図1）。アブラムシ抵抗性は実際の圃場においてわい化病の発病率をある程度低下させ（図2）、検定手法および処理可能点数の面からもわい化病抵抗性育種における選抜指標のひとつとして有効である事が示された。
２）アブラムシ抵抗性を持つものおよび既報のわい化病抵抗性遺伝資源よりウィルスに対する抵抗性が明らかに強いもの等を含む新規抵抗性遺伝資源が多数見いだされた（表1）。
３）本試験において、複数の現地多発圃場検定において既存抵抗性品種より高度なわい化病抵抗性を安定して示す系統が育成された。またこれらの系統は一般農業特性についても交配親である抵抗性遺伝資源と比較して改良されている（表2）。

図1 初生葉にｱﾌﾞﾗﾑｼ1頭を接種した後の増殖頭数の日時変化

図2 「Adams」×「黄宝珠」（植交9201）F5世代38系統の圃場接種

表1　複数年次、検定方法でわい化病抵抗性と判定された新規遺伝資源　および試験実施方法

登録 番号 等	品種 系統名	原産国	ｱﾌﾞﾗﾑｼ 抵抗性	試験方法	試験I		試験F		試験D
					発病率 (%)	発病 程度	発病率 (%)	病徴	発病率 (%)	発病 程度
21085	WILIS	ｲﾝﾄﾞﾈｼｱ	×	G,I,J	0	0.00
16950	黒鼻青	中国	×	I,J	9	0.75
16910	長坦苑屯小天鷲旦	中国	△	G,I	47	1.00
16911	?城气死泥豆	中国	△	G,I	55	2.00
16913	済源尚庄水白豆	中国	×	G,I	35	0.75
16921	紅陰黒豆	中国	△	G,I	40	1.50
16925	?県紅毛油	中国	△	G,I	57	2.00
16926	無錫六月枯	中国	×	G,I	70	1.50
18066	檀山青豆	中国	×	G,I	60	1.75
13454	灰色大粒	韓国	○	A,F			37.5	＋−
13446	SS77011-BF4ｰ21	韓国	×	A,F			50	＋−
13456	KLS 305	韓国	○	A,F			0	−
13458	YONGGOK	韓国	×	A,F			66.7	＋
16956	虎林八月忙	中国	○	C,D,H					20	0.5
収6138	宝安大豆	中国	×	C,D					40	1
16969	白花	中国	○	C,D,H					0	0
比較	黄宝珠	中国	×		50	2.25	62.5	＋−	75	1
比較	Adams	ｱﾒﾘｶ	○		90	3.00	54.5	＋−	15	0.3

試験 略称	試験 年次	試験場所	感染方法
A	平5	芦別市新城	自然発病
B	平6	芦別市新城	自然発病
C	平9	場内圃場	ｸﾛｰﾊﾞ圃
D	平9	場内圃場	人工接種
E	平9	温室	人工接種
F	平9	温室	人工接種
G	平10	伊達	自然発病
H	平10	場内圃場	ｸﾛｰﾊﾞ圃
I	平11	伊達	自然発病
J	平12	伊達	自然発病

注)アブラムシ抵抗性欄の○は抵抗性，×は感受性，△は要再検討を示す。

表2　育成系統の交配組合せ、2000年わい化病抵抗性検定結果および中央農試における一般特性調査の結果

	種子親	花粉親	伊達			十勝			ｱﾌﾞﾗﾑｼ 抵抗性	中央農試における一般農業特性
			発病率	発病程度	伊達判定	大樹発病率	発病程度	十勝判定		伸育型	成熟期 (月.日)	倒伏指数	主茎長 (cm)	主茎節数 (節)	子実重 (kg/a)	百粒重 (g)
トヨコマチ			100%	3.67	弱	100%	4.3	弱	×	有限	9.23	2.5	53.5	10.0	33.7	33.4
トヨムスメ			99%	3.67	弱	98%	4.8	弱	×	有限	10.2	1.8	54.2	11.3	41.3	35.5
ツルコガネ			55%	2.25	ヤ強	83%	2.0	強	×	無限	10.5	2.0	75.8	16.0	40.3	37.3
Adams			91%	2.25	ヤ強	78%	1.0	強	○	無限	10.5	3.0	104.3	15.7	35.8	18.7
9201-207-3-1-1	黄宝珠	Adams	52%	1.50	強	73%	1.3	強	○	無限	9.21	1.8	68.4	14.2	27.4	20.1
9307-37-1-2-1	Adams	メチタ	48%	1.25	強	53%	0.8	強	○	有限	9.19	2.0	68.4	12.6	31.8	18.0
9307-146-1-2-1	同上	同上	62%	2.00	強	64%	1.3	強	○	分離	10.6	2.0	68.2	14.6	36.4	19.8
9401-74-5-3	Adams/ﾒﾁﾀ	ﾂﾙｺｶﾞﾈ/Calland	71%	2.25	ヤ強	81%	1.8	ヤ強	○	有限	10.2	1.5	54.7	13.3	42.8	26.0
9403-24-1	Adams/ﾒﾁﾀ	中育35号/Calland	79%	2.75	中	83%	1.0	ヤ強	○	有限	10.2	1.0	55.2	13.7	36.7	28.2
9408-32-2-3	Adams/ﾒﾁﾀ	ﾒﾁﾀ/中育35号	33%	1.75	強	75%	0.8	強	○	中間	10.12	3.0	76.5	15.4	42.7	20.9

４．成果の活用面と留意点
　１）アブラムシ抵抗性およびその検定は、わい化病抵抗性育種において有効かつ導入可能である。
　２）本試験で新たに見いだされた既存抵抗性品種より明らかに強いわい化病抵抗性を持つ遺伝資源は、わい化病極強抵抗性育種において交配母本として有望である。
　３）本試験において作出されたアブラムシ抵抗性を備えた系統は既存抵抗性母本より強いわい化病抵抗性を持っており、今後交配母本として有用である。

５．残された問題点とその対応　
　１）アブラムシ抵抗性およびウィルスに対する抵抗性の機作の解明
　２）アブラムシ抵抗性の遺伝様式の解明とDNAマーカーの確立
　３）新規抵抗性遺伝資源の探索および抵抗性要因の解明
　４）わい化病真性抵抗性遺伝資源の探索および育種素材化