成績概要書       (作成 平成13年1月)
課題の分類:
研究課題名:いちご夏秋どり栽培における高温障害対策  
予算区分:道単
研究期間:平12年
担当科:道南農試 研究部 園芸環境科
協力・分担関係:

1.目 的
 近年、北海道では四季成り性いちごを用いた夏秋どり作型での栽培面積が増加している。夏秋どり作型のいちごは雨よけを必要とすることからハウス内で栽培されるが、北海道といえども夏期の高温の影響は大きい。そこで、いちご夏秋どり栽培における奇形果発生の機作について調査し、さらに高温期における確収技術の検索、すなわち花房および果房摘除(以下、摘果房)終了期の調整や露地トンネル栽培の可能性について検討した。また、地温上昇の抑制技術により株疲れが抑えられ、安定確収が可能になるかについても調査した。

2.方 法
1)高温処理が雄ずいおよび雌ずいの稔性、果実形成に及ぼす影響
試験処理 処理温度4水準(無処理、35℃、40℃、45℃)×品種2(エッチエス-138、ペチカ)
試験方法 15cm径のポリポット(黒)で育てた苗を35、40もしくは45℃に調整したインキュベーターに移し、1日当り3時間処理した。35℃区は5日間、40℃区は4日間、45℃区は3日間処理を行った。

2)摘果房終了期の違いと収量性
試験処理 摘果房終了期3水準(6月15日、7月5日、7月20日)×品種2(エッチエス-138、ペチカ)
一区株数・反復数:4株、3反復
耕種概要 栽植密度:120cm×30cm、2条千鳥植え、施肥量(N-PO-KO):基肥2.0-2.0-1.8(kg/a)、追肥0.8-0.8-0.8(kg/a)(基肥はS-555、ロング70日タイプ、ロング100日タイプを1:1:1の比率で用いた。)
苗仮植期:4月4日(ペチカ)、4月20日(エッチエス-138)、定植期:5月1日
芽数調整:栽培期間中2芽に調整(6月20日と8月31日の2回実施)
寒冷紗被覆期間:7月14日〜8月18日

3)露地トンネル栽培における収量性および果実品質
試験処理 品種3(エッチエス-138、ペチカ、エバーベリー)
露地雨よけトンネルマルチ栽培、一区株数:10株、反復数:2反復
耕種概要 定植期:5月18日(トンネルは定植から収穫終期まで設置し、裾を常時開放した。)

4)いちご夏秋どり栽培における地温上昇抑制処理の効果
(1)地中冷却処理と生育および収量性
試験処理 地中冷却処理2水準(有、無)×品種2(エッチエス-138、ペチカ)
一区株数・反復数:4株、3反復、処理期間:7月3日〜9月4日
試験方法 成形した高畝の頂部に19mm径のハウス用の鋼鉄製直管パイプを敷設し、その中に水道水を通して畝部分を冷却した。頂部から5cm深の部分の地温が25℃を越えた時に自動的に水道水が流れるように調整した。

(2)マルチの違いが生育、収量性および果実品質に及ぼす影響
試験処理 マルチの種類5水準(白黒ダブルマルチ、裸地、黒マルチ、紙マルチ、アルミ蒸着光反射型マルチ(サニーマルチ))×品種2(エッチエス-138、ペチカ)、一区株数:4株、反復数:3反復

3.結果の概要
1. 35℃以上の高温によって果実の「先詰まり」等の奇形果が発生するが、花粉の発芽率の低下だけでなく、雌ずいの受粉能の低下も一因になっていることが示唆された(表1、図1)。

2. 摘果房終了期を遅らせることで収穫のピークをずらすことができることがわかった。しかし、供試した両品種ともに8月上旬から9月上旬にかけて奇形果が発生し、その傾向は摘果房終了期の違いや品種の違いとは関係がなかった。

3. 夏季(8月1日)の露地トンネル内の気温は、ハウス内の気温と同じ程度まで上昇した。そのため、いずれの品種においても8月中に収穫された果実に奇形果が多数見られた。

4. 白黒ダブルマルチ区と比べて、裸地区、紙マルチ区、サニーマルチ区では地温の上昇が抑えられ、特に紙マルチとサニーマルチ区でその効果は顕著であった(図2)。紙マルチとサニーマルチではいずれの品種においても地上部の生育(草丈、葉数、果房数)が優れ、多収となった(表2)。多収となった原因は果房数が増加し、収穫果数が多くなったためと考えられた。

 表1 高温処理と花粉の発芽率(平成12年)
品種・処理温度 高温処理終了日からの日数
14 21
エッチエス-138 対照
     35℃
     40℃
     45℃
24.8*
  1.2
  3.9
  0.0
17.2
13.0
 2.7
  -
 33.6
 27.9
 26.9
 34.0
 48.8
 39.7
 42.2
 40.0
ペチカ  対照
     35℃
     40℃
     45℃
 15.3
  2.1
  3.5
  0.0
17.1
19.0
 0.5
  -
 29.9
 24.1
 32.2
 26.8
 25.3
 28.1
 22.5
 33.8
  * 単位%。


図1 高温処理と奇形果の発生程度。高温処理後1日目に
無処理区の花粉を交配して3週間目の様子。左から無処理
区、35℃区、40℃区、45℃区(品種:エッチエス-138)


  注)測定日:平成12年8月3日(天気:曇時々晴)
    気温は高畝の頂部から20cmの高さの部位で測定した。
    地温は高畝の頂部から15cm深の温度。

 表2 マルチの違いが収穫終期の生育および収量性に及ぼす影響(平成12年)
品種・処理 草 丈
(cm)
葉 数 芽 数 果房数 商品果
(kg/a)
その他
(kg/a)
合 計
(kg/a)
上物 下物
エッチエス-138白黒(対照)
     裸地
     黒マルチ
     紙マルチ
     サニーマルチ
22.4b
16.8a
18.8a
28.3c
32.8d
36.3a
26.5a
28.5a
34.5a
50.0b
 8.0b
 5.0a
 8.2b
 7.8b
 9.5b
16.0b
 8.3a
 7.3a
19.8b
25.5c
  84.5ab
  52.4a
  50.3a
 127.4b
 135.2b
66.4
40.4
53.6
77.2
97.6
123.5
 23.7
 46.4
124.3
167.7
274.4b
116.5a
150.3a
328.9bc
400.4c
ペチカ  白黒(対照)
     裸地
     黒マルチ
     紙マルチ
     サニーマルチ
 
22.2ab
24.9b
20.2a
30.4c
32.2c
 
30.0a
26.0a
26.3a
37.5a
53.2b
 
 8.2
 6.0
 6.7
 8.8
 7.8
 
13.0a
 8.8a
 9.0a
21.8b
24.3b
 
 148.7b
 105.2a
 106.8a
 202.2c
 155.9b
 
65.8
47.6
63.6
96.3
86.2
 
 65.6
 39.0
 54.6
107.4
119.1
 
280.1b
191.7a
225.0a
405.8d
361.1c
 
  ※生育の調査は10月31日に実施。生育および上物収量、総収量の異符号間は5%水準で有意差あり。
  果房数は収穫期間を通しての総数。上物:7g以上、下物:4g以上7g未満。

4.成果の活用面と留意点
1) 本成績は主に土耕栽培における成果であるが、雄ずい・雌ずいの稔性に関する成果については高設栽培にも応用できる。
2) 紙マルチもしくはサニーマルチを用いる場合は、過繁茂になるので古葉かきを徹底する。
3) 本作型では長期にわたって栄養生長と生殖生長を続けることを考慮し、高温期の草勢を維持するためには着果期以降には液肥等による追肥を行い、草勢を維持する。

5.残された問題とその対応
1) 地温上昇抑制効果を有するマルチを用いる場合の株間の検討
2) ハウス内の気温を下げるための技術開発
3) 四季成り性いちごを用いた夏秋どり作型における施肥量の策定
4) 栽培の容易な四季成り性いちご品種の育成(高上物率、耐病性等)
5) 軟腐病の防除対策