成績概要書        (作成 平成13年1月)
課題の分類
研究課題名:エゾシカの飼料利用性     
          (エゾシカの保全と管理に関する研究)
予算区分:道単(連携プロ)
研究期間:平成8〜12年度
担当科:道立畜産試験場 家畜生産部特用家畜科
協力分担:根釧農試,十勝農試,環境科学研,林業試,衛生研     

1.目  的

エゾシカは北海道の豊かな自然の構成種の1つであるが、過増加による農林業被害が深刻な社会問題となった。そのため、適正な保護管理の実行とそれを支えるモニタリング体制の整備が急務となっている。
そこで、エゾシカの有効活用を視野に入れ、飼料利用性に関する基礎的試験を実施した。また、適正な保護管理に向けたガイドラインの策定のため、個体密度の算出手法である糞塊密度調査法の基礎資料となるエゾシカの排糞に関する調査を実施した。

2.方  法
1)飼料利用性
 試験1 乾草および配合飼料給与時におけるエゾシカの季節別消化能力
 試験2 エゾシカにおけるクマイザサの利用性
 試験3 草種別の嗜好性調査
 試験4 試験終了エゾシカのと殺解体成績2)糞塊密度調査法のためのエゾシカ排糞調査

3.結果の概要
1)飼料利用性
試験1 乾草および配合飼料給与時におけるエゾシカの季節別消化能力

エゾシカの秋期および冬期の代謝体重(W0.75)当たり乾物摂取量は、それぞれ乾草給与時で55.2±0.4g/W0.75および29.8±6.0g/W0.75、配合飼料併給時で64.4±0.9g/W0.75および35.8±7.8g/W0.75と冬期は秋期に比較して約5割減少し、明らかな季節変動が認められた(表1、2)。消化管内滞留時間についても季節変動があり、冬期の方が短かった(図1)。一般に、摂取量が減少すると消化管内滞留時間が長くなるが、エゾシカでは逆の結果となった。乾物消化率については、秋期および冬期でやや低い傾向にあった。
試験2 エゾシカにおけるクマイザサの利用性
ササの摂取量は3.0〜17.4g/W0.75と乾草に比べて非常に低かった。個体差が大きく、採食部位にも差が見られた。乾物消化率も30.4〜35.3%と非常に低かった。
試験3 草種別の嗜好性調査
  エゾシカの嗜好性には粗蛋白質含量が関与し、めん羊ではADF含量が関与していた。
試験4 試験終了畜のと殺解体成績
1)エゾシカの枝肉歩留については64.0±1.4%であり、精肉歩留は82.5±1.1%だった。部位別構成比では、ショルダー25.5±0.3%、バラ12.0±1.0%、ロース26.4±1.5%、モモ36.1±0.7%であった。
2)糞塊密度調査法のためのエゾシカ排糞調査
野外において測定可能な糞100粒当たりの乾物重量から1日当たりの乾物摂取量が推定できた(図2)。



4.成果の活用面と留意点
1)エゾシカの適正な保護管理や有効利用のための基礎的な資料として活用できる。
2)エゾシカは年齢および性別などによる個体差が大きいので、本成績の利用にあたっては留意が必要である。
3)糞塊密度調査法を用いて生息密度の推定を行う場合、1日当たり排糞回数(9.7〜14.3回/日)が利用できる。
4)1日当たりの乾物摂取量を推定する場合、糞100粒の乾物重量が利用できる。この場合、排糞後1〜2日程度と推測される新鮮なものを対象とする必要がある。
5)エゾシカは「北海道危険動物飼養規制条例」の対象となっているので、飼育に際しては届出が必要である。

5.残された問題とその対応
1)飼料利用性の季節変動に及ぼす要因
2)地域、年齢および性別などが飼料利用性に及ぼす影響