成績概要書 (作成 平成13年1月)
課題の分類 研究課題名:てんさい直播栽培における初期生育障害の原因と対策 (てんさい直播栽培における初期生育障害の原因究明と対策) 予算区分:受託 研究期間:平成10〜12年度 担当科:十勝農試 生産研究部 栽培環境科, 栽培システム科 北見農試 生産研究部 栽培環境科 協力・分担関係: |
1.目的
近年,全道各地で発生が認められるてんさい直播栽培における初期生育障害について,その原因を解明し対策を検討する。
2.方法
1)現地実態調査(1997〜2000年)
十勝・斜網・道央・道南地域ののべ249カ所について生育観察,土壌調査,一部について病害調査・栽培法の聞き取り調査を実施した。さらに1998〜1999年には新得町の全直播農家を対象に,生育・収量調査を実施した。
2)石灰質資材の全面全層施用及び作条施用試験(1998〜2000年)
供試圃場:清水現地(多湿黒ボク土),十勝農試(淡色黒ボク土),北見農試(多湿黒ボク土)
処理区:対照区,防散炭カル200kg/10a全層施用区,防散炭カル300kg/10a全層施用区,防散炭カル80kg/10a作条施用区
3.結果の概要
1)初期生育障害(1996〜2000年)は全道の直播栽培面積の1.6〜4.0%で発生した(表1)。
2)初期生育障害は,発芽状態が良好であっても6月以降にスポット状または圃場全面に発生し,甚だしい場合には個体が枯死し廃耕に至った。障害個体の特徴は,①本葉2〜5葉・草丈5〜10cm程度で生育が停滞,②葉色はやや薄い,③葉縁部が赤〜赤褐色,④根がわい化し褐変症状,であった。
3)調査した初期生育障害発生圃場の80%以上で土壌pHが低い(畦間pH≦5.5または株間pH≦5.0)と判断され,初期生育障害の最大の原因は土壌の低pHであった(表2)。
4)土壌の低pHによって初期生育障害を受けたてんさいの個体は6〜7月までの間に枯死あるいは生育停滞し,その結果収穫株数及び1個体根重が減少した。このため収穫期には糖量で最大76%,平均37%減収した(表3)。
5)全道4カ年(1997〜2000年)の現地実態調査の結果を基に生育障害地点の土壌pHの頻度分布を検討した結果,株間(根の直近部)pH5.4以上,畦間pH5.8以上の領域での障害地点数は全体の約10%以下であった(図1)。また,畦間pH5.5〜5.8の領域には障害地点の約20%が分布した(図1)。これらを根拠として,土壌pH指標を作成した(表4)。
6)石灰質資材の全面全層施用は土壌pHを上昇させ,初期生育障害を回避し,生育・収量向上にも効果があった。
7) 石灰質資材の作条施用は初期生育障害を軽減し,生育・収量を向上する効果があったが,作条施用のみでは初期生育障害を回避できるほどの効果はなかった。
8) 6)と7),さらに土壌pH指標(表4)から,てんさい直播栽培における初期生育障害を回避するためには石灰質資材の全面全層施用により作付け前の土壌pHを5.8以上に矯正する。その上での石灰質資材の作条施用は収量向上に有効である。
表1.各地域の初期生育障害発生面積の推移
年次 | 網走支庁 | 道南地域 | 十勝東部 | 十勝西部 | 全道 | ||||||
戸数 | 面積 (ha) | 戸数 | 面積 (ha) | 戸数 | 面積 (ha) | 戸数 | 面積 (ha) | 戸数 | 面積 (ha) |
全直播面積に占める 障害発生面積割合(%) |
|
1996年 | 2 | 2.1 | 7 | 10.2 | 2 | 5.4 | 40 | 51.0 | 51 | 68.7 | 4.0 |
1997年 | 0 | 0.0 | 18 | 28.3 | 4 | 13.2 | 32 | 41.3 | 54 | 82.8 | 3.8 |
1998年 | 2 | 5.1 | 12 | 24.5 | 3 | 9.8 | 9 | 3.8 | 26 | 43.2 | 1.6 |
1999年 | 2 | 8.0 | 10 | 22.6 | 4 | 9.9 | 15 | 8.1 | 31 | 48.7 | 1.9 |
2000年 | 0 | 0.0 | 14 | 27.1 | 4 | 11.6 | 6 | 5.0 | 24 | 43.7 | 1.8 |
表2. 初期生育障害の原因とその地点数(十勝・斜網・道央・道南)
調査年次 | 1997年 | 1998年 | 1999年 | 2000年 | 合計 |
原因①畦間pH≦5.5 | 40 | 26 | 12 | 21 | 99 |
原因②株間pH≦5.0 | 1 | 10 | 8 | − | 19 |
原因①+原因② | 41 (91%) | 36 (88%) | 20 (77%) | 21 (75%) | 118 (84%) |
原因③Truog-P2O5≦10(mg/100g) | − | 3 | 1 | 1 | 5 |
原因④土壌化学性以外の事項 | 4 | 2 | 5 | 6 | 17 |
表3.土壌の低pHによる初期生育障害が直播てんさいの収量に及ぼす影響1)
生育 状況 | pH(6/10頃) |
収穫本数 本/10a |
根重 t/10a |
1個体根重 g/本 |
根中糖分 (%) |
糖量 kg/10a |
|
株間 | 畦間 | ||||||
障害 | 4.9 | 5.5 | 4837 | 2.65 | 547 | 15.86 | 415 |
正常 | 5.2 | 5.8 | 6759 | 4.28 | 639 | 15.42 | 659 |
有意差2) | ** | ** | ** | ** | * | − | ** |
対正常比 | 72 | 62 | 86 | 103 | 63 |
表4.てんさい直播栽培のための土壌pH指標1)
土壌pH(H2O) | 全障害発生に 占める割合2) | 安全度 |
5.5未満 | 約70% | 危険 |
5.5〜5.8 | 約20% | 注意 |
5.8以上 | 約10% | ほぼ安全 |
4.成果の活用面と留意点
1)土壌pH指標は全道に適用可能である。
2)てんさい直播栽培のためにはpH5.8以上が必要である。ジャガイモそうか病等が危惧され,やむを得ない場合であってもpH5.5以上を確保し,さらに障害軽減のために石灰質資材を作条施用する。酸性矯正は適切な石灰質資材量を求めてから実施する。
5.残された問題点
施肥窒素によるpH低下の生じにくい施肥法の開発