課題の分類 研究課題目:水田に施用された農薬の環境動態と流出軽減対策 (環境中における農薬の動態及び環境影響の逓減に関する研究) 予算区分:共同研究(道立相互) 担当科:環科研 環境科学部 環境工学科 環境科学科 研究期間:平成9〜11年 中央農試 農業環境部 環境保全科 |
1.目 的
水田に施用される農薬の量と環境動態、特に河川等への流出実態を把握し、適切なモニタリングのあり方、農薬流出の軽減策について検討する。
2.方 法
1) 農薬使用量調査:調査流域二農協の農薬販売量調査から農薬の使用実態を把握し、水田除草剤の標準施用面積と水稲作付面積をもとに農薬販売量と使用量の関係を推定。
2) 流出実態調査:週一回の河川定期調査による農薬の流出実態の把握。また、農薬の販売量と流出負荷量から各農薬の流出率を算出。
3) 農薬流出要因の検討:水田内濃度変動と河川への流出率から、高濃度流出要因を検討。
4) 農薬流出軽減策の検討:排水口位置の改善、簡易木炭トラップ設置などによる農薬流出軽減の可能性を検討。
3.結果の概要
1) 二農協で行った販売量調査から、多様な農薬が販売されており、地域・年度により販売農薬の種類・量が異なることが明らかとなった。また、水田に施用された除草剤の標準施用面積比から、本調査流域では農協の農薬販売量を施用量とすることができた(表1)。
2) 本調査地域の全農薬成分販売量は全国平均と比較し少なく、水田に施用された殺虫剤と殺虫殺菌剤の施用回数は各1回と推定された(表2)。
3) 水面に施用された農薬は施用直後から検出されはじめ、畦漏水や給水時のかけ流し等、給排水管理の不徹底が要因の一つと考えられた。農薬の流出ピークは移植後の低温や日照不足による生育不良の場合、使用基準に示された時期より遅れて検出された(図1)。
4) 除草剤・ピリブチカルブのオキソン体、殺虫剤・MPPのスルホン及びスルホキシドが河川からも検出された。
5) 農薬の流出率はMPPの0.2%からシメトリン・ピロキロンの44%の範囲で、モデル水田のかけ流し実験に近い流出率であった。
特に、移植前施用のプレチラクロールや水溶解度の高いモリネート、ピロキロンなどは20%以上と高い流出率を示した。
6) 各種規制は年平均値で評価されており、年平均値が規制値を超えることはないが、除草剤・エスプロカルブは平成10年に、モリネートは平成10、11年とも一時的に水質評価指針値を超えて検出された地点があった。
7) 水田田面水中の除草剤の半減期は2〜5日で、約1週間後に初期濃度の約1/10となる。現行で指導されている移植前の使用禁止の徹底や施用後1週〜10日間の止め水の実行等により河川への高濃度流出は抑制することができる。
8) 水口近傍排水口による水位管理はオーバーフローやかけ流しによる農薬流出量の大幅削減、施用効果の持続からも有効であった(表3)。休耕田など農薬無施用圃場の利用も流出軽減に効果があり、対応可能な圃場条件では有効な軽減策となる。
9) 粒状木炭等を利用した簡易吸着装置の設置は、小規模な排水路における農薬流出の軽減効果があり、降雨時等の一時対策として有効と考えられた。
表1 除草剤*の標準施用面積と施用面積比
A農協 | B農協 | |||||||
年度 | 1996 | 1997 | 1998 | 1999 | 1996 | 1997 | 1998 | 1999 |
標準施用面積**(ha) | 6,659 | 6,514 | 5,814 | 5,652 | 3,896 | 3,857 | 3,625 | 3,462 |
施用面積比*** | 1.055 | 1.034 | 1.033 | 1.062 | 1.038 | 1.065 | 1.115 | 1.092 |
表3 かけ流し時における給水口近傍排水による農薬流出量軽減効果
調査時期 | 流出水量 | モリネート | シメトリン | ||
水尻排水* | 給水口近傍排水 | 水尻排水* | 給水口近傍排水 | ||
給水停止まで | 26.4 m3 | 2600mg | 71mg(2.7%) | 680mg | 24mg (3.5%) |
試験終了まで | 55.7 m3 | 5450mg | 315mg (5.8%) | 1440mg | 105mg (7.3%) |
図1 幌向運河における農薬濃度の推移
4.成果の活用面と留意点
1) 水田に施用される農薬の環境モニタリングにあたっては、使用実態と気象等による生育状況に対応して行う必要がある。
2) 水田に施用された除草剤の流出軽減のためには、移植前の使用禁止の徹底や、施用後1週〜10日間はオーバーフロー、かけ流し、落水等をしないことが必要である。
3) 給水口近傍排水は、オーバーフローやかけ流しの際の流出軽減に有効であるので、対応可能な水田については水尻口を移動する。
4) 休耕田利用や木炭吸着装置は一時的な流出軽減策である。
5.残された問題とその対応
1) 農薬の環境影響評価のための地域別販売量統計の整備。
2) 排水路におけるより有効で簡便・低コストな農薬除去技術の開発。
3) 農薬の代謝生成物に関する環境動態、影響評価。