成績概要書       (作成 平成13年 1月)
課題の分類
研究課題名:塩分を含むかんがい用水の取水管理
         (水稲の生育初期における塩水の影響調査)       
予算区分・研究期間:道費・平成2〜4年
受託:平成11、12年
担当科:中央農試農業環境部環境基盤科
協力:分担関係:なし

1.目的
 河口付近から取水を行っている揚水場においては、かんがい用水(以下用水)に高濃度の塩分が混入するため、独自の取水停止塩分濃度を設定している場合がある。石狩支庁管内 土地改良区では、石狩川河口から約8km上流で取水を行っており、現地の経験から取水停止塩分濃度を約0.25%としている。本試験では塩分を混入した用水による水稲収量への影響を検証し、 地区の用水条件を例に取水管理指標を提案する。

2.方法
 各塩分濃度の用水が水稲収量におよぼす影響を調査した。
1) 現地試験(平成2〜4年):幼穂形成期〜止葉期に用水塩分濃度0.30〜0.50%の処理。
2)ポット試験(平成11、12年):活着後〜幼穂形成期に用水塩分濃度0.15〜0.50%の処理。

3.結果の概要
1)EC(電気伝導度)と塩分濃度は高い相関関係があり、ECにより塩分濃度を推定できる (図1)。
2)北生振土地改良区の用水では、農業(水稲)用水基準EC値0.3mS/cm(塩分濃度0.01%に換算)を超える日数が平成10〜12年平均で50日に及んだ(表1、図2)。
3)幼穂形成期〜止葉期の影響を現地試験で検討した結果、概ね、塩分濃度0.30%以上の用水は減収を招く場合が多かった(図3、平成2〜4年)。
4)活着後〜幼穂形成期の影響をポット試験で検討した結果、塩分濃度0.30%以上で、6月中旬のみの処理(5日間)では減収しなかったが、6月中旬及び7月上旬の2回処理(合計10日間)では明らかに減収した(図3、平成12年)。
<取水管理指標>既往の研究成果と土地改良区の事例から次のことが推察できた。
(1)生育全期間にわたり用水の塩分濃度0.10%を超えると水稲収量に影響するが、現地ではこの濃度レベルの短期的な取水はやむを得ない。
(2)現地では塩分濃度0.25%以下の用水による明らかな減収は確認されていない。
(3)用水の塩分濃度が水稲へ与える影響は栄養生長期間よりも生殖生長期間に大きく、2つの期間に分けた取水管理指標を策定すべきである。
以上から北生振地区における、塩分を含む用水の取水管理指標を以下にまとめた。
①活着後〜幼穂形成期前において塩分濃度0.25%(EC値4.6mS/cm)を超えた場合には取水を停止する。②幼穂形成期以降において塩分濃度0.20%(EC値3.7mS/cm)を超えた場合には取水を停止する。③上記の取水管理を行った場合でも、塩分濃度0.10%(EC値2.0mS/cm)を越える用水は圃場を乾燥させないような入水にとどめ、0.10%以下になった場合は十分なかけ流しを行うと共に、その後の塩分濃度上昇に備え田面水を蓄える水管理をする。また、田面水の希釈、除塩が見込める降雨があったときは0.10%を超える用水の取水を停止する。



4.成果の活用面と留意点
1)海水混入の可能性が大きい取水場では、取水時に塩分濃度を測定する。
2)本成績の取水管理指標は、用水の塩分濃度が高くなった場合に取水判定の参考とする。
3)本成績は石狩市北生振地区を調査事例として取り上げ、透水性の良い条件で試験をおこなった。土壌の透排水性が極めて不良な条件では、塩分の濃縮が起こり、塩分が作土に蓄積する危険性があるため、このような土壌条件の圃場を広く抱える取水場では取水停止塩分濃度をさらに低くする必要がある。

5.残された問題とその対応
1)塩水取水による害と取水停止により生ずる干ばつ害の比較と組み合わせによる影響。