課題の分類 研究課題名:アカヒゲホソミドリカスミカメの性フェロモンの検定方法および物質の同定と誘引性検定 (性フェロモンの検定法の開発、平成4年開発研究) (性フェロモンを利用した新防除技術の確立、道費、平成5〜8年) (アカヒゲホソミドリメクラガメの性フェロモントラップの開発、クリーン農業、平成9〜12年) 予算区分:道 費 担 当:中央農試 クリーン農業部総合防除科 研究期間:平成4〜12年度 花野菜技術センター 研究部病虫科 |
1.目 的
アカヒゲホソミドリカスミカメの性フェロモンを解明する。
2.方 法
(1)アカヒゲホソミドリカスミカメ雌の誘引性の解明:誘引性、交尾行動の観察
(2)性フェロモンの検定方法の確立:各種室内検定法、触角センサー、野外誘引試験法
(3)性フェロモン物質の同定:抽出、触角センサーによる活性、同定
(4)合成品による誘引性検定:野外誘引試験
3.結果の概要
(1)アカヒゲホソミドリカスミカメの雌には、雄を選択的に誘引する行動が観察され(図1)、交尾時刻は夜間に多かった。多くの雄は、雌の位置に対して下方約10cm以下に定位して接近し、雌雄ともに明瞭な儀式的な配偶行動(体を震わすなど)は観察されなかった。本種の交尾が夜間に多いことなどから、誘引には視覚的な刺激の関与の可能性は小さく、本種の雌の誘引には、性フェロモンの関与が示唆された。
(2)本種の性フェロモンの試験方法として、各種の室内検定法を検討したものの、その適用は難しかったが、触角センサー(GC−EAD)法によってみつけた物質の合成品を使って野外誘引試験を行う方法が唯一可能と考えられた。野外誘引試験方法については、地面に設置した水盤トラップ(図2)と担体として灰色セプタム(図3)を使う方法が、試験に適用できると考えられる。
(3)触角センサー法によって、抽出物中に反応が認められた(図4)。GC分取により、それぞれのピーク物質を単離し、GC−MS分析により、その物質の化学構造を推定した。その推定物質を合成・精製し、天然物の一致性を確認し、17物質が同定された(表1)。
(4)触角センサーにより活性のあった17物質のうち、物質I:カプロン酸ヘキシルと物質II:カプロン酸ヘキセニルの2:1の混合物に誘引活性がみられたが(図5)、その誘引活性は弱く、安定していなかった。物質III〜VIIIの6物質には、誘引性への影響はみられなかった。また、物質E:デカナール、物質G:3-ノネン-2-オン、物質D:2−ウンデカノンに、誘引を阻害する効果がみられた(表1)。
図1 雌成虫の誘引性
図2 試験用トラップの検討
図3 試験用製剤の検討
図4 触角センサーによる雌抽出物中の反応
図5 2成分混合物の誘引性(1994.8.2-9)
表1 抽出物中に固定された物質
EAD 活性 |
NO. | 物 質 名 | 比率 | GC-MSの特徴的フラグメントイオン (M+:分子イオン)(m/z) |
++ | Ⅰ | カプロン酸ヘキシル | 20 | 56,61,69,71,84,99,117,129,144,200(M+) |
Ⅱ | カプロン酸E2-ヘキセニル | 10 | 55,77,82,99,117,127,142,155,169,198(M+) | |
+ | Ⅲ | カプロン酸オクチル | 1.2 | 56,61,70,84,87,99,112,117,129,157,172,228(M+) |
Ⅳ | カプロン酸E2-オクテニル | 1.2 | 54,69,71,81,99,110,117,128,155,169,183,226(M+) | |
Ⅴ | カプロン酸ペンチル | 0.3 | 55,70,73,87,99,117,130,143,157,186(M+) | |
± | Ⅵ | 酪酸ヘキシル | 4 | 55,69,71,84,89,129,144,172(M+) |
Ⅶ | 酪酸E2-ヘキセニル | 1.8 | 55,71,77,82,89,100,115,128,141,159,170(M+) | |
Ⅷ | 酪酸オクチル | 0.1 | 56,71,83,89,112,129,144,157,200(M+) | |
± | E | デカナール | 1 | 57,68,70,82,92,110,112 |
G | 3-ノネン-2-オン | 0.5 | 55,71,82,97,111,125,140(M+) | |
D | 2-ウンデカノン | 0.3 | 58,71,85,96,110,112,127,141,155,170(M+) | |
−〜± | A | 酢酸ヘキシル | 1.5 | 56,61,69,71,84,111,126,144(M+) |
B | ラウリン酸メチル | 0.8 | 55,74,87,101,115,129,143,157,171,183,214(M+) | |
H | パルミチン酸メチル | 1.2 | 55,74,87,101,115,129,143,157,171,183,227,270(M+) | |
I | パルミチン酸エチル | 1.3 | 55,74,88,101,115,143,157,199,241,255,284(M+) | |
J | ミリスチン酸イソプロピル | 2 | 60,71,102,129,143,185,211,228,270(M+) | |
F | E2-デセナール | 0.3 | 55,68,80,90,108,110 |
4.成果の活用と留意点
本試験結果は、今後の研究の参考とする。
5.残された問題点
誘引活性の高い物質の探索(触角センサーでの無反応物質についての誘引性)