成績概要書        (作成 平成13年1月)
課題の分類
研究課題名:米アレルギーに関する臨床実態と生化学的解析     
          (低アレルゲン米の評価・検定手法の確立)
予算区分:補助(国費)
研究期間:平成8〜12年度
担当科:中央農試農産工学部農産品質科
協力分担:長谷川クリニック

1.目的
 米アレルギーの発症機序や治療法には未解決な部分が多く、米のアレルゲン性についても未解明な要因が多い。北海道内複数の臨床医からは、米品種による症状発現性の違いが指摘されており、実際の治療に取り入れて多くの臨床実績を重ねている。このような社会的状況を踏まえて本最終報告では、中間報告以降検討を重ねてきた結果を新たに加え、米アレルギー患者に対する品種変更および高度精白米の臨床的な有効性を検証するとともに、その生化学的な解析を目的とした。 

2.方法

1)臨床試験:道内3医療機関の協力を得、米アレルギー患者に対して、米の品種を「ゆきひかり」(精白歩合90%)および高度精白米(品種:「ゆきひかり」および「初雫」、精白歩合70%)に変更して、症状の経過を判定する臨床試験(前方調査)を実施した。
2)生化学的解析:体液性免疫機序および細胞性免疫機序に基づく分析手法により、臨床で認められた品種間差および精白処理間差の生化学的解析をおこなった。

3.結果の概要
  
1)米アレルギー症状に関する品種間差および精白処理間差を検証するため、「ゆきひかり」および高度精白 米を用いた臨床試験(前方調査)を実施した。
(1)他品種から「ゆきひかり」への品種変更による有効率は68.4%、さらに、この無効例に対して実施した高度精白米への変更では有効率69.4%であった。このことから、治療ステップの中に、「ゆきひかり」および高度精白米への変更を組み入れることにより、米アレルギー患者の多くが症状の改善を経験している実態が検証された。しかし、少数ながら悪化例も認められることから、治療を目的とした米の変更は、あくまでも医師による治療の一環として実施する必要がある(図1)。
(2)米の変更に際して、米特異的IgE・RAST検査値(以下米RAST値)が陰性の患者群は「ゆきひかり」での有効率が高かった。しかし、米RAST値が高い患者群では、「ゆきひかり」の有効率が低く、高度精白米の試用を優先する方が病悩期間の短縮につながるものと考えられる(図2)。

2)臨床での品種間差および精白処理間差を検証するための生化学的な検討をおこなった。
(1)抗体結合活性、蛋白質量および組成に明確な品種間差は認められず、「ゆきひかり」も他の品種と同程度に抗原蛋白質を含んでいることが明らかとなった(図3)。これらの体液性免疫に関する測定結果からは「ゆきひかり」の有効性は裏付けられなかった。
(2)パッチテストの結果から「ゆきひかり」の反応性は、供試した他の2品種より明らかに低いことが示され、臨床での「ゆきひかり」の有効性は、細胞性免疫機序の要因に基づくことが推察された。また、他品種との反応性の差異は、脱・塩可溶蛋白質画分で大きかった(図4)。
(3)抗体結合活性の分析から、米抗原は米粒表層に局在することが明らかとなった(図5)。このことは、高度精白処理が抗原の除去に有効な技術であることを示唆した。
(4)精白歩合が高まるに従い抗体結合活性が低下する傾向が、多くのアレルギー患者に共通して認められた(図6)。このことから、臨床における高度精白米の有効性は、米表層の原因抗原が低減されたことによると考えられた。
(5)本試験での結果を総合すると、米アレルギー症状の発症・改善には、少なくとも2種類の機序(体液性免疫および細胞性免疫)が混在していると考えられた。米RAST値が低い患者群は、主に細胞性免疫機序の関与が強く、「ゆきひかり」への品種変更による有効率が高いと考えられた。一方、米RAST値が高い患者群では、体液性免疫機序の関与が強く、抗原蛋白質を他品種と同程度に含む「ゆきひかり」の有効率は低く、抗体結合活性が低減化された高度精白米の方が、有効率が高かったものと考えられた。







4.成果の活用面と留意点

1 本試験での臨床および生化学的解析データは、医療、農業研究上の参考として活用できるほか、アレルギー患者、生産者、米流通業者にも提供できる情報である。
2 本試験での臨床データは、一連の米アレルギー治療の中から得られたものであり、この成果を活用するときは医療機関の指導があることを前提とする。
3 本試験におけるアレルゲン性の品種間比較は、品種の危険性を示すものではなく、米アレルギー発症機序の解析を目的としたものである。


5.残された問題点とその対応

1 非蛋白質抗原の探索と解析手法の検討
2 効率的高度精白米の加工・流通技術の検討
3 「ゆきひかり」の需給に見合った生産・流通方法の検討