成績概要書(2002年1月作成)
研究課題:ラークスパーの稚苗育苗技術
担当部署:花・野菜技術センター 研究部 花き科
協力分担:
予算区分:道費
研究期間:2000〜2001年度
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1.目的
ラークスパーの秋切り栽培では、高温期の播種・育苗による苗質不良及び定植時の
植え痛みによる欠株や早期抽台が多発しやすく収量・品質が不安定である。これらを
防止するための技術として冷房育苗や直播が行われているが、初期投資の大きさや
育苗面積の制限、困難な栽培初期管理などの課題がある。本試験では、子葉展開時に
定植する稚苗育苗に着目し、その欠点である定植時の育苗培土の崩れを防止するため、
寒天を利用した固化培土を用いる新たな稚苗育苗法の開発を行い、ラークスパーの
秋切り栽培における産地の安定生産に貢献することを目的とした。
2.方法
(1)稚苗育苗の作期別評価
1) 供試品種:ミヨシのピンク
2) 処理区
① 作期Ⅰ:6月30日播種、作期Ⅱ:7月10日播種、作期Ⅲ:7月20日播種(加温)
② 育苗方法:慣行育苗区(催芽処理後セルトレーに播種、本葉2〜3枚で定植)
直播区(催芽処理後、発芽直前に本圃へ播種)
稚苗育苗区(催芽処理後セルトレーに播種、子葉展開時に定植)
(2)稚苗育苗に関する検討
1) 稚苗育苗法の安定化に関する試験
① 供試品種:ミヨシのピンク
② 処理区
a. 稚苗育苗区の寒天濃度:0%(寒天無し)、0.8%、1.5%
b. 稚苗育苗区のセルサイズ:288穴、406穴
c. 稚苗育苗区の夜冷処理の有無
2) 寒天による固化培土の物理性に関する試験
寒天濃度0%、0.5%、1.0%、1.5%、2.0%の三相分布や保水能を調査するとともに、
寒天濃度の違いによる硬度の差を調査した。
3) 育苗法の作業性とコスト
作業時間:育苗培土調製時間、播種・間引き時間、定植時間
コスト計算:育苗方法、寒天濃度、セルサイズ、育苗培土の種類
3.成果の概要
(1) 作期別に育苗法を比較した結果、慣行育苗区と比較して稚苗育苗区・直播区では採花が
順調にすすみ切り残しが少なくなった。そのため収量は両年ともに稚苗育苗区・直播区で優れ、
作期が遅くなるにつれてその傾向は大きくなった。また、高温年であった平成12年には稚苗育苗区で
欠株が若干少なかった。切花品質は一部で早期抽台がみられた慣行育苗区より
稚苗育苗区・直播区の方が両年とも安定して優れていた(表1・図1)。
(2)発芽は、各育苗法に共通してセル個体間でのばらつきが観察されたが、育苗期間が短いため
定植適期の幅が狭い稚苗育苗においては、初期生育のばらつきが定植の可否に影響した。このため
稚苗育苗においては、発芽を揃える環境の確保がより重要となることが判明した。
(3) 寒天を用いた固化培土による稚苗育苗を行う際の寒天濃度は、収量及び切花品質に影響を
及ぼさなかった(図2)。
(4) 稚苗育苗を行う際のセルサイズの違いによる切花特性を調査した結果、収量で差はみられなかったが
切花品質は288穴より406穴で若干優れていた(図3)。
(5) 稚苗育苗中に夜冷処理をした結果、高温年であった平成12年で切花品質に若干の効果がみられた。
(6) 寒天を用いた固化培土の物理性を調査した結果、寒天濃度が高くなるに従い透水係数は減少した。
寒天濃度による三相分布・体積水分率には大きな違いはみられなかった
(7) 寒天を用いた固化培土の硬度を調査した結果、寒天濃度が1.5%になるように調製した固化培土は、
定植などにおいて崩壊する割合も少なく安定していた(表2)。
(8) 切花品質や寒天を用いた固化培土の物理性及び作業性・コストなどを考慮すると、寒天による
固化培土を用いて稚苗育苗する際の条件は寒天濃度1.5%でセルサイズ288穴又は406穴が適していた。
表1 各作期の採花率と採花期
|
作期Ⅰ(6月30日播種) |
作期Ⅱ(7月10日播種) |
作期Ⅲ(7月20日播種) |
試験区
|
採花率
(%) |
採花期
(月/日) |
採花率
(%) |
採花期
(月/日) |
採花率
(%) |
採花期
(月/日) |
平12 |
平13 |
平12 |
平13 |
平12 |
平13 |
平12 |
平13 |
平12 |
平13 |
平12 |
平13 |
慣行育苗※
直播
稚苗育苗※ |
76.2
83.3
77.4 |
52.4
82.1
75.0 |
9/25
9/19
9/22 |
10/ 9
9/17
10/ 5 |
69.0
77.4
78.6 |
22.6
72.6
66.7 |
10/23
10/10
10/13 |
至らず
10/12
10/26 |
41.7
76.2
79.8 |
23.8
56.0
46.4 |
至らず
11/ 2
11/ 7 |
至らず 11/22
至らず |
※慣行育苗区と稚苗育苗区は、288穴セルトレーを用いた際の結果を示した。
表2 寒天入り育苗培土100個をセルトレーから抜き取る際に崩壊した割合(288穴セルトレー使用)
寒天濃度(%) |
0 |
0.5 |
1.0 |
1.5 |
2.0 |
崩壊した割合(%) |
100 |
94 |
41 |
2 |
2 |
表3 秋切り栽培における育苗法の特性総括表
|
作業性 |
収量 |
品質 |
育苗資材 (トレイ・種子・ 培土・寒天) |
育苗培 土調製 |
播種 |
育苗 管理 |
間引 |
定植 |
生育初期 管理の難易 |
時間 |
労力 |
慣行 (288穴セル成型苗) |
□ |
□ |
□ |
□ |
□ |
□ |
□ |
□ |
□ |
2.37円/本 |
直播 |
無し |
△ |
△ |
無し |
△ |
無し |
× |
◎ |
◎ |
2.54円/本 |
稚苗(1.5%寒天、 406穴セル成型苗) |
△ |
□ |
□ |
◎ |
□ |
○ |
◎ |
◎ |
◎ |
2.25円/本 |
◎(易・良)〜○〜□(慣行)〜△〜×(難・不良)
4.成果の活用面と留意点
(1) 稚苗育苗は、慣行育苗(288穴セル成 型苗)に比べ採花期間が前進化するので留意する。
(2) 本成績で固化培土の調製に使用した寒天は、植物培養用(ゼリー強度:5 00g〜800g/c㎡)である。
(3) 本成績で使用した育苗培土は、「プラグエース」である。
(4) 稚苗育苗を行う際は、苗立ちを揃えるために、発芽を揃える環境の確保に努める。
(5) 稚苗育苗において406穴等の浅いセルトレーを用いる際は、定植適期が短いので留意する。
(6) 寒天による固化培土が崩れやすくなるため、定植直前の灌水は控える必要がある。
5.残された問題点
(1) 稚苗定植に際して、固化培土の調製にかかる時間を軽減できる土壌固化剤の検討及び開発