成績概要書(2002年1月作成)
研究課題:豚舎新築方式によるSPF豚農場開設のマニュアル化 担当部署:道立畜試 家畜生産部 養豚科、 畜産工学部 感染予防科 協力分担: 予算区分:道費 研究期間:1999〜2001年度 |
1.目的
豚舎新築によるSPF変換方式は、清浄化が最も確実であり、また清浄化の維持や
飼育環境のコントロールに適している小部屋単位の豚舎構造など、新たな技術を
取り入れることが可能であるが、農場の立ち上げや運営にかかわる具体的なノウハウ
については、一般に公表されるデータは少ない。そこで、新たに立ち上げるSPF豚農場
において、施設の清浄化や稼動後の微生物汚染の推移、施設運用の方法について
実証的に検討を行ない、SPF施設の稼動初期の運営についてマニュアルを作成する。
2.方法
1)施設の洗浄消毒作業
農場立ち上げ時および豚導入後の洗浄消毒作業の能率、水洗・消毒の効果を検討する。
2)SPF豚の生産
外科的に摘出・人工哺育したプライマリーSPF豚およびプライマリーSPF豚から自然分娩
により生産されたセカンダリーSPF豚の発育成績、疾病清浄度を経時的に調査する。
3)豚舎の効率的活用法
コンパートメント(小部屋)方式の豚舎の環境特性を検討する。また、稼動初期の設備の
調整項目を整理する。
3.成果の概要
1)農場立ち上げ時の水洗と消毒(2回)に要した時間は75.5時間であり、単位面積あたり
約2.1分/m2の能率となった(表1)。この他、車両や詰所の消毒作業に計30時間程度を要し、
さらに、機器類の取り扱い説明や点検などにも数日要した。
豚導入後の豚舎の水洗・消毒の効果は、糞便による汚染の程度や内装材の素材により
影響を受け、プラスチックなど平滑な素材を用いた部分では高圧水洗により大きく細菌数が
減少した。また塩化ジデシルジメチルアンモニウムの発泡消毒(1回)により、多くの場所の
細菌数は検出限界以下となった(図1)。しかし、コンクリート製の豚房壁、豚房床及び通路床
では消毒後も細菌が検出される場合があり、これらの場所は消毒を2回行うのが望ましいと
考えられた。
2)導入したSPF豚の発育は、日本飼養標準(豚)1998年に示されるわが国の平均的な値よりも
早く(図2)、肥育豚の飼料要求率も2.6〜2.9と良好であり、生産性の高さが示された。
肺および鼻甲介骨病変検査により、導入されたSPF豚群は豚マイコプラズマ肺炎および
萎縮性鼻炎について日本SPF豚協会のヘルスチェック基準に合格していた(表2)。
また、血清中抗体価の測定等、各種疾病検査により、オーエスキー病等その他のSPF指定疾病や
豚繁殖呼吸障害症候群等の豚に生産阻害をもたらす疾病についても、清浄状態にあることが示された。
3)コンパートメント(小部屋)・セミウィンドレス方式の豚房構造の離乳豚室は、年間を通して
適切な温湿度環境を維持し、離乳子豚の発育に季節による差はみられなかった(表3)。
表1 農場立ち上げ時の豚舎の水洗・消毒の能率
延べ面積 | 豚室面積 | 水洗時間 | 消毒時間(2回) | 消毒薬使用量 | 能率(水洗) | 能率(消毒) |
能率(水洗消毒) |
消毒薬 |
㎡ | ㎡ | 時間 | 時間 | l | 分/㎡ | 分/㎡ | 分/㎡ | ml/㎡ |
2191.9 | 1795.8 | 34.7 | 40.8 | 133.1 | 0.95 | 1.17 | 2.07 | 61 |
図1 使用後豚舎各所の細菌数と水洗・消毒の効果
消毒は塩化ジデシルジメチルアンモニウム製剤の100倍液の発泡噴霧1回
図2 導入されたSPF豚の発育
表2 豚マイコプラズマ肺炎および萎縮性鼻炎のヘルスチェック成績
検査 頭数 |
豚マイコプラズマ肺炎 肺病変スコア1) |
萎縮性鼻炎 鼻甲介骨病変スコア2) |
||||
0 | 1 | 2 | 0 | 0.5 | 1 | |
129 | 110(85.3%) | 18(14.0%) | 1(0.8%) | 114(88.4%) | 15(11.6%) | 0(0.0%) |
表3 コンパートメント・セミウィンドレス方式豚舎での飼育時期別の離乳子豚の発育
季 節 | 調査群数 | 飼育開始 | 飼育終了 | 2〜8週齢DG(g) |
夏 季 | 3 | 8月4日 | 9月25日 | 472±20 |
秋 季 | 2 | 10月16日 | 12月1日 | 453±40 |
冬 期 | 3 | 12月22日 | 2月2日 | 439±43 |
4.成果の活用面と留意点
1)成果の活用面:新築SPF豚農場の開設時および稼動初期の運営マニュアルとして利用できる。
2)普及上の留意点:プライマリーSPF豚の疾病発生、発育成績は、新規立ち上げGGP農場の
参考データとし、セカンダリーSPF豚の成績はCM農場の参考データとする。
5.残された問題とその対応
1)SPF環境の長期維持方法
2)SPF種豚の飼料給与技術