成績概要書(2002年1月作成)
研究課題:集約放牧における乳牛の繁殖性および健康維持へのMUN濃度の利用       
担当部署:道立根釧農試 研究部 乳牛繁殖科、乳質生理科、乳牛飼養科
協力分担:
予算区分:国補
研究期間:1999〜2001年度

1.目 的
 放牧飼養では、放牧草の栄養価の変動や気候の変化等により、栄養摂取量が不安定と
なりやすい。このため、栄養要求量と摂取量とのアンバランスに陥りやすく、高泌乳牛では
健康および繁殖機能を正常に維持するうえで栄養バランスに細心の注意を必要とする。
本成績では、放牧期に給与する濃厚飼料の蛋白質水準が乳中尿素窒素(MUN)濃度、
繁殖機能ならびに健康維持に与える影響を明らかにするとともに、BCSやMUNと受胎との
関連、さらには、集約放牧を実施している農場の繁殖成績および疾病発生と各種指標との
関連について検討した。


2.方法
1) 放牧時に併給する濃厚飼料の蛋白質水準が乳牛の健康および繁殖に及ぼす影響
  供試牛:経産牛13頭(2〜6産)、
  試験処理:濃厚飼料の蛋白質3水準(CP:8.1%、13.2%、18.3%)

2) 人工授精時のMUNとエネルギー充足状況が乳牛の受胎に及ぼす影響
  2000年8月から2001年10月までの期間において分娩後150日以内に人工授精を行った67頭の
搾乳牛(授精回数1〜4回)、延べ117例の人工授精成績を調査した。

3) 集約放牧農家におけるバルク乳のMUNおよび乳蛋白質率の推移と疾病発生および繁殖成績
との関連天北地域の集約放牧を実施している酪農家3戸について約2年間にわたり調査した。


3.結果の概要
1)-(1) 泌乳前期のMUN濃度が暫定基準値(9.7〜17.5mg/dl)の範囲内にあった低および中CP区
では、疾病の発生が比較的少なく、空胎日数もそれぞれ120日および68日であった(表1)。

1)-(2) 泌乳前期のMUN濃度が基準値以上の20mg/dlを超える高い水準に達した高CP区では、
蹄病の発生率が80%と他の2群よりも有意に高かった(P<0.05)。これに伴い卵巣疾患の併発も
見られたが、空胎日数は117日であった(表1)。

2)-(1) 授精後4週間に急激なBCSの変動(±0.5)が見られる場合に受胎率は低下した(表2)。

2)-(2)授精時のMUN濃度が9.7mg/dl未満の乳牛では受胎率が低い傾向にあり、とくに8mg/dl以下
の個体では受胎したものはいなかった(表3)。

2)-(3)授精時のMUN濃度が基準値を超え、20mg/dl程度であっても、エネルギー不足を伴わなければ
受胎に支障は認められなかった(表3)。

3)-(1)バルク乳成分やBCSに季節的な変動が見られ、放牧期においては夏期を中心にバルク乳の
MUN濃度の上昇と乳蛋白質率の低下が、また、舎飼期後半から放牧期の初期にかけてはMUN濃度
および乳蛋白質率の低下が起こっていた(図1)。

3)-(2)バルク乳MUN濃度が基準値より低く、乳蛋白質率も低い場合には繁殖障害や周産期病が
多発する傾向があった。また、放牧期には運動器病が多発しやすいが、MUN濃度が高くなると
蹄病の発生がさらに増加する傾向が見られた(表4)。

 以上の結果から、放牧時における個体乳のMUN濃度は、エネルギーが充足されていれば
20mg/dl程度までなら繁殖性および健康維持に大きな支障はないことが示された。






4.成果の活用面と留意点
1)集約放牧を実施する農家では、季節的に栄養バランスが変動しやすいが、バルク乳の
乳中尿素窒素(MUN)濃度はこれらの栄養バランスの指標として有用である。

2)MUN濃度の利用にあたっては、乳量、乳蛋白質率といった牛群検定成績やボディ
コンディションスコア(BCS)などと併せて、その推移を総合的に判断する必要がある。

5.残された問題とその対応
1)放牧期における乳牛の健康および繁殖性を高めるため、MUN濃度やBCSだけでなく、
繁殖成績改善のための分娩前後のモニタリング手法を確立する必要がある。