成績概要書(2002年1月作成)
研究課題:受精卵クローン牛の効率的生産技術
担当部署:畜産試験場 生産技術部 受精卵移植科・遺伝子工学科 家畜生産部 育種科
協力分担:畜草研、北海道・東北・中国・九州農研センター、岩手、山梨、兵庫、岡山、広島
島根、徳島、大分、熊本
予算区分:国補
研究期間:1996-2001年度
|
1.目的
北海道独自の優秀な黒毛和種種雄牛を造成するために産肉能力検定の効率化が重要である。
検定
に受精卵クローン牛を利用することにより小頭数かつ短期間で高い正確度を得ることが
可能になると
考えられる。そこで本試験では、核移植胚の効率的作出技術の検討、および
核移植胚の移植試験を
実施し、一つの胚から安定的かつ効率的に受精卵クローン牛を生産する
技術を開発する。
2.方法
1)核移植胚の効率的作出技術の検討
(1)ドナー胚の発生ステージの検討
(2)ドナー胚とレシピアント卵子の融合条件
(3)核移植胚の発生培養法の検討
2)クローン牛の生産と斉一性の検討
(1)核移植胚の移植試験
(2)クローン牛の発育および枝肉形質の比較
3.結果の概要
1)(1)ドナー胚の発生ステージの検討
ドナー胚を桑実期胚以前、小型化桑実期胚、初期胚盤胞期胚に分類し核移植を実施した。
融合率は
発生が進むに従って低下したが分割率、発生率およびドナー胚1個から得られる
核移植胚数に
発生ステージによる差はみられなかった。このことから細胞分離や注入操作が
容易な小型化桑実期胚が
最も核移植に適していると考えられた。
(2)ドナー胚とレシピアント卵子の融合条件
2機種の細胞融合装置と2種類の電極を組み合わせて核移植を実施した。LF-101では
レシピアント
卵子破壊率が低いこと、ニードル電極のほうが融合率および発生率が高く
胚の位置合わせが容易で
あることから、LF101とニードル電極の組み合わせが<最適である
ことを示した。
(3)核移植胚の発生培養法の検討
発生培地としてmTALP、CR1およびIDV101を用い、それらに血清またはBSAを添加して
核移植胚を
培養した。血清無添加の条件では、mTALPおよびIVD101で良好な発生率が
得られた(表1)。核移植胚
の発生培地としてmTALP-BSAの有効性が示された。
2)(1)核移植胚の移植試験
核移植胚の受胎率は6年間の合計で32.8%であり、核移植胚の受胎率は平成11年以降は
30%以上を
維持している(表3)。これは上に示した技術の改善により核移植胚の品質が向上
したこと(表2)および
受胚牛の選抜を厳しくしたことが影響していると考えている。本技術により
これまでに最高7子のクローン牛が得られた。
(2)クローン牛の発育および枝肉形質の比較
クローン牛2子3組の発育は、育成期および検定期を通じ類似していた。また脂肪交雑値(BMS)は
各群内で一致した。この結果クローン牛を全兄弟の代わりに産肉能力検定に利用することが可能で
あることを示唆した。
以上の結果から1つの初期胚から安定して4〜5頭の受精卵クローン牛を生産できる
技術が得られ、
そのプロトコルを示した。
表1.発生培地の種類および血清の有無が核移植胚の発生に及ぼす影響
|
融合胚数 |
分割胚数 |
発生胚数(%) |
8細胞期胚からの
胚盤胞発生率(%) |
(%) |
8細胞期胚 |
桑実期胚 |
胚盤胞期胚 |
CR1-BSA |
69 |
57(82.6) |
46(66.7) |
24(34.8) |
15(21.7) |
32.6a |
mTALP-BSA |
171 |
147(86.0) |
100(58.5) |
79(46.2) |
70(40.9) |
70.0b |
CR1-CS |
53 |
44(83.0) |
28(52.8) |
23(43.4) |
21(39.6) |
75.0b |
mTALP-CS |
87 |
78(89.7) |
61(70.1) |
81(59.8) |
43(49.4) |
70.5b |
a,b間に有意差あり
融合胚を各区に配分した
発生率は融合胚数当たりの割合
表2.核移植胚の発生成績
年度 |
供試卵子 |
供試ドナー |
融合胚数(%) |
分割胚数(%) |
発生胚数(%) |
1胚当り核移植胚数 |
胚数 |
8 |
670 |
21 |
563(84.0) |
531(94.3) |
138(24.5) |
6.6 |
9 |
608 |
24 |
486(79.9) |
438(90.1) |
144(29.6) |
6.0 |
10 |
589 |
23 |
529(89.8) |
503(95.1) |
253(47.8) |
11.0 |
11 |
426 |
14 |
403(94.6) |
373(92.6) |
152(37.7) |
10.9 |
12 |
507 |
15 |
408(80.5) |
332(81.4) |
130(31.9) |
8.7 |
13 |
241 |
7 |
221(91.7) |
220(99.5) |
88(39.8) |
12.6 |
発生胚:day7,8で胚盤胞期胚以上に発生した胚
1胚当り核移植胚:発生胚数/供試ドナー胚数
表3.核移植胚の移植成績
年度 |
移植頭数 |
受胎頭数(%) |
流産頭数(%) |
正常産子数 |
生後直死頭数 |
病死頭数 |
8 |
25 |
5(20.0) |
1(20.0) |
4 |
|
2 |
9 |
19 |
7(36.8) |
3(42.9) |
5 |
|
10 |
66 |
12(18.2) |
4(33.3) |
6 |
2 |
11 |
59 |
21(35.6) |
1 (4.8 ) |
15 |
5 |
1 |
12 |
52 |
17(32.7) |
3(17.6) |
15 |
1 |
1 |
13 |
38 |
23(60.5) |
|
計 |
259 |
85(32.8) |
12(19.4) |
45* |
6* |
6* |
正常産子数:分娩後1週間以上生存していた産子
生後直死頭数:分娩後1週間以内に死亡、廃用に至った牛
病死頭数:1週間以上生存後肺炎等により死亡した牛
*上記3項目の計は平成13年度を除く
4.成果の活用面と留意事項
(1)受精卵クローン牛は種畜生産のための検定牛として利用することで、小頭数かつ短期間で
同等の
正確度を得ることが期待できる。また、乳牛の優良後継牛の効率的生産への利用が
期待できる。
(2)飼養試験の供試牛としての利用することで試験精度の向上が期待できる。
(3)クローン牛は通常産子に比べ流産、生後直死が多く平均生時体重が重い。また現在用いて
いる技術
では生時体重50kg以上の過大な産子が発生する可能性がある。
5.残された問題とその対応
(1)卵子、ドナー胚、核移植胚の凍結保存法の確立
(2)リクローン技術の利用による1胚由来核移植胚数の向上
(3)流産の発生、生後直死、過大子の原因究明および低減
(4)クローン牛の経済形質の斉一性の検証