成績概要書(2002年1月作成)
研究課題:分娩警報装置による牛の分娩報知 担当部署:道立畜試 畜産工学部 受精卵移植科、家畜生産部 育種科 協力分担:なし 予算区分:受託 研究期間:2000年度 |
1.目的
分娩事故による子牛や母牛の損失を防ぐために、分娩監視は畜産農家にとって必要不可欠な
作業の1つである。しかし、分娩開始時刻を正確に知る方法はない。
近年、牛の体温と外気温との温度差を利用して分娩開始を知らせる分娩警報装置が試作された。
本試験は、分娩警報装置(図1)を実際に分娩前の牛に装着してプローブの排出、発信機および
受
信機の作動など基本性能について確認することおよび改善点を明らかにすることを目的に行い、
本装置の有用性を明らかにした。
2.方法
(1)外気温がプローブの排出から分娩報知までの所要時間に及ぼす影響
プローブを38.5℃に設定した恒温水槽に浸し、恒温水槽から取り出した直後に0℃の冷蔵室、
20℃、30℃および33℃に設定した恒温槽に入れ、手元の携帯電話がなるまでの時間を計測した。
なお、プローブの設定温度は34℃とした。
(2)プローブの排出と発信機および受信機(本機)の作動の調査
分娩予定1週間前の牛に本装置を装着し、プローブの排出、本機の作動を調査した。プローブ
の排出については無排出(分娩時にプローブが排出されないもの)、誤排出
(分娩ではないのに
プローブが排出されるもの)および正常排出、本機の作動については無作動(プローブが排出
されているのに本機が作動しないもの)、誤作動(プローブが排出されていない
のに本機が
作動するもの)および正常作動の発生頻度を調査した。
3.結果の概要
(1)外気温がプローブの排出から分娩報知までの所要時間に及ぼす影響(表1)
温度の上昇に伴い、所要時間は延長することが明らかとなった。また、温度が33℃であっても
20分以内に報知されることが示された。
(2)-1)プローブの排出の調査(表2)
24頭中1頭(4.2%)で無排出が、5頭(20.8%)で誤排出が発生した。誤排出を発生した5頭のうち
2頭は中止し、3頭は再挿入して継続した。最終的に24頭中21頭(87.5%)が分娩に伴いプローブを
排出した。膣腔内の広い牛では無排出、狭い牛では誤排出が発生する場合のあることが明らか
となった。
(2)-2)発信機および受信機(本機)の作動の調査(表2、第2期)
本機の作動を調査したすべての牛11頭で分娩が報知された。3-6日間の挿入期間においては、
無作動および誤作動は発生せず、本機が正常に作動することが確認された。
(2)-3)プローブの挿入が母牛および胎子に及ぼす影響
1-10日間のプローブの挿入では、挿入によると思われる炎症等は見られなかった。
また、分娩時の母牛および胎子に影響はなかった。
以上の結果から、分娩予定日の1週間前に本装置を装着することにより、分娩開始を知る
ことができ、分娩事故の減少に貢献できると考えられた。
図1.分娩警報装置
図2.プローブの挿入
本装置は、温度センサー付き発信機を内蔵したプローブおよび携帯電話を内蔵した受信機からなる。
原理は
次のようなものである。分娩前の牛の膣内に挿入したプローブが、分娩に伴い胎胞等に押されて
膣外に排出され、
発信機が牛の体温から外気温への温度の低下を感知して信号を発信する。
受信機がその信号を受信して受信機に
組み込まれた携帯電話が指定の電話番号を呼び出し、
分娩を知らせる。
表1.外気温がプローブの排出から分娩報知までの所要時間に及ぼす影響(分)
外気温 | 0℃ | 20℃ | 30℃ | 33℃ |
平 均 | 6.3 | 8.0 | 10.1 | 12.2 |
最 短 | 1.7 | 4.4 | 5.9 | 5.7 |
最 長 | 9.1 | 12.0 | 14.7 | 19.9 |
表2.プローブの無排出、誤排出および発信機と受信機の無作動、誤作動の発生頻度
供試牛 | 挿入 | 無排出 | 誤排出 | 正常排出 | 無作動 | 誤作動 | 正常作動 | |
頭数 | 日数 | 頭数 | 頭数(%) | 頭数(%) | 頭数(%) | 頭数(%) | 頭数(%) | |
第1期 | 13 | 1-10 | 1(7.7) | 3(23.1) | 10( 76.9) | − | − | − |
第2期 | 11 | 3-6 | 0(0 ) | 2(18.2) | 11(100 ) | 0(0 ) | 0(0 ) | 11(100) |
合 計 | 24 | 1-10 | 1(4.2) | 5(20.8) | 21( 87.5) | − | − | − |
4.成果の活用面と留意点
1)本装置は、分娩予定日のおよそ1週間前に装着するのが望ましい。
2)本装置は、膣腔内が狭い牛では適用できない場合がある。また、プローブが挿入し
にくい
場合がある。膣腔内が広い牛では、まれにプローブが排出されないことがある。
3)牛舎構造により受信範囲が異なるので、あらかじめ設置場所で受信できることを確認
する
必要がある。牛舎に金属を多用している場合はとくに注意が必要である。
4)気温が33℃を越えた場合や直射日光が当たる場所など、プローブの周辺が33℃を越え
る
場合は、適用できない。
5)受信機に内蔵する携帯電話は別途購入および契約が必要である。
6)受信機に内蔵する携帯電話のバッテリーや発信機のボタン電池の消耗に注意する。
5.残された問題とその対応
1)プローブおよびリングの形状および大きさの改善
2)プローブの挿入具(アプリケータ)の開発
3)臀部への接着方法の改善
4)受信機に内蔵する携帯電話は自動的に充電されるように改善する。