成績概要書(2002年1月作成)
研究課題:生乳のビタミンB2およびB12濃度の動態と変動要因 担当部署:道立根釧農業試験場 研究部 乳質生理科 担当者名:高橋 雅信・糟谷 広高 協力分担: 予算区分:国費受託 研究期間:1998-2000年度 |
1.目的
生乳の水溶性ビタミン濃度を高め栄養機能の積極的な向上を図るため、乳中のビタミンB2・B12の
動態と変動要因、さらには飼養条件との関係について検討を行った。
2.方法
1)生乳のビタミンB2およびB12濃度とその変動要因の解明
調査1:個体乳における濃度の動態と変動要因
試料 ;根釧農試場内の個体乳507試料(7個以上のデータをもつ27頭262データ)
解析要因 ;季節、産次、乳牛個体、分娩後経過日数
調査2:農場バルク乳における濃度の動態と変動要因
調査農場と期間;釧路管内浜中地区、32農場、平成10年4月から平成11年3月
試料と分析項目;月別の農場バルク乳、乳成分、ビタミンB2およびB12濃度
解析要因 ;農場、季節、放牧草利用、産乳量、濃厚飼料給与量
2)飼料構成が生乳中のビタミンB2およびB12濃度に与える影響
試験1:牧草サイレージ品質と粗濃比が乳中ビタミンB2およびB12濃度に与える影響
試験処理:刈取時期・粗飼料割合(早刈65%、適期刈65%、適期刈40%、遅刈65)
供試牛 :乳牛8頭、4×4ラテン方格法、混合飼料自由採食
試験2:飼料へのコバルト添加が乳中ビタミンB12濃度に与える影響
試験処理:無添加区(鉱物質飼料等の給与中止)、添加区(Co30mg/頭・日(飼料中1.5ppm)添加)
供試牛 :乳牛8頭、1期2週間、無添加処理と添加処理からなる給与試験
3.成果の概要
1)生乳のビタミンB2およびB12濃度とその変動要因の解明
(1)個体乳の濃度は初乳で高濃度で、ビタミンB2濃度は分娩後31〜60日の期間に、ビタミンB12濃度は
6〜30日の期間に最も低い値となり、その後は泌乳期の経過とともに漸増した。
(2)個体乳のビタミンB2濃度の分散成分に占める個体要因の割合は52%と大きく、ビタミンB12濃度では
個体および産次要因の占める割合が20%および10%であった。
(3)農場バルク乳のビタミンB2濃度の平均(範囲)は1.47(1.14〜1.76)μg/mlで牛群の乳生産量と
負の関係にあった。牛群の乳生産量と濃厚飼料給与量が分散成分の18%および11%を占めていた。
(4)農場バルク乳中のビタミンB12濃度の平均(範囲)は3.4(0.8〜4.9)ng/mlで、32農場のうち3農場で
1.5ng/ml以下の低い値であった。牛群の乳生産量と濃厚飼料給与量が分散成分の2%および8%を
占めたが、これらで説明できない農場要因の影響がみられた。
2)飼料構成が生乳中のビタミンB2およびB12濃度に与える影響
(1)牧草サイレージの刈り取り時期にともなう粗飼料品質の変化は、乳中のビタミンB2およびB12濃度に
影響を与えなかった。
(2)適期刈りの牧草サイレージ利用時において、全飼料中の粗飼料割合を65%から40%に低下させると
産乳量が増加し、乳中のビタミンB2濃度は有意に低下した。
(3)飼料へのコバルト1.5ppmの添加により2週間で乳中のビタミンB12濃度は上昇した。
表1 個体日成績に対する要因区分別の平均値と分散成分割合の推定値
ビタミンB2 μg/ml | 要因 | 区分別の最小二乗平均値±標準誤差の範囲 | 要因の効果 | 分散成分割合 |
産次 | 1.28(4産次以上)〜 1.43(3産次) | p=0.04 | 4% | |
経過日数 | 1.22(31-90日) 〜 1.54(271日以上) | p<0.01 | 6% | |
季節 | 1.27(6-8月) 〜 1.42(3-5月) | p<0.01 | 6% | |
乳牛個体 | 0.90±0.07 〜 1.80±0.08 | p<0.01 | 52% | |
誤差 | 32% | |||
ビタミンB12 ng/ml | 産次 | 4.0(4産以上) 〜 5.5(1・2産次) | p=0.01 | 10% |
経過日数 | 3.3(6-30日) 〜 6.2(271日以上) | p<0.01 | 7% | |
季節 | 3.9(12-2月) 〜 5.4(6-8月) | p<0.01 | 5% | |
乳牛個体 | 2.4±0.7 〜 7.1±0.7 | p<0.01 | 20% | |
誤差 | 58% |
図1 牛群の産乳成績と農場バルク乳のビタミンB2およびB12濃度の関係
表2 農場バルク乳中のビタミンB2およびB12濃度に対する分散成分推定割合
ビタミンB2濃度 | バルク乳のビタミンB12濃度 | |||
農場要因を考慮 | 農場要因を無視 | 農場要因を考慮 | 農場要因を無視 | |
農場 | 26% | − | 65% | − |
季節 | 12% | 9% | 1% | 1% |
放牧草利用 | 3% | 2% | 2% | 5% |
乳量 | 4% | 18% | 0% | 2% |
濃厚飼料給与量 | -1% | 11% | -1% | 8% |
誤差 | 56% | 60% | 33% | 84% |
表3 飼料構成、乾物摂取量および産乳成績と乳中のビタミン濃度
早刈65 | 適期刈65 | 適期刈40 | 遅刈65 | |||
飼料構成(乾物中) | 牧草サイレージ | % | 65.0 | 65.0 | 40.0 | 65.0 |
トウモココシ | % | 25.3 | 20.6 | 43.8 | 17.0 | |
大豆粕 | % | 8.7 | 13.4 | 15.2 | 17.0 | |
ミネラル | % | 1.0 | 1.0 | 1.0 | 1.0 | |
飼料成分(乾物中) | CP | % | 16 | 16 | 16 | 16 |
TDN | % | 71 | 70 | 78 | 70 | |
NDF | % | 37 | 38 | 27 | 47 | |
乾物摂取 | 乾物摂取量/体重 | % | 3.22B | 3.06B | 3.72A | 3.05B |
乳量 | 乳量/日 | kg | 26.3BCa | 23.8ABb | 28.8Cb | 21.7A |
乳成分 | 乳脂肪率 | % | 3.97 | 4.13 | 3.93 | 3.95 |
乳蛋白質率 | % | 3.22a | 3.28 | 3.39b | 3.32 | |
乳糖率 | % | 4.48 | 4.45 | 4.50a | 4.41b | |
生乳 | ビタミンB2 | μg/ml | 1.23b | 1.23b | 1.14Aa | 1.29B |
ビタミンB12 | ng/ml | 3.7 | 3.7 | 3.1 | 3.8 |
4.成果の活用面と留意点
1)摂取量が要求量に対して不足している状況を含めた飼料中のコバルト濃度と生乳のビタミンB12濃度の
関係は明らかではない。
2)牛のコバルト要求量は飼料乾物中0.1ppmで、10ppmを越えると中毒の危険がある。
5.残された問題とその対応
1)乳中ビタミンB2およびB12濃度にみられた個体差の発現機序の解明
2)飼料中のコバルト濃度と生乳のビタミンB12濃度および家畜生産性との関係の解明