成績概要書(2002年1月作成)
研究課題:電気伝導度を利用した酪農洗剤溶液の濃度推定法       
担当部署:道立根釧農業試験場 研究部 乳質生理科
協力分担:
予算区分:民間受託
研究期間:2001年度

1.目的
 道内で流通利用されている代表的な酪農洗剤の電気伝導度特性を調査した。また、
ミルカーとバルククーラーの洗剤循環工程が洗剤溶液の電気伝導度に与える影響を
調査し、洗剤溶液の採取方法と電気伝導度を利用した洗剤濃度の測定方法を検討した。


2.方法
1)酪農洗剤の電気伝導度特性
    供試洗剤 ;アルカリ洗剤(液体12、粉末4)、酸性洗剤(液体13、粉末1)

    検討要因 ;洗剤濃度、液温、開放空気中での保存の有無
2)洗剤循環工程における洗剤溶液の濃度測定方法
    供試施設 ;根釧農試ミルキングパーラ用ミルカーおよび密閉型バルククーラー
    供試洗剤 ;液体塩素系アルカリ洗剤(サニーエクリンL)、液体酸性洗剤(サンクリーナ)


3.成果の概要
1)洗剤の電気伝導度特性
(1)アルカリおよび酸性洗剤のいずれの場合も溶液濃度と調製直後の電気伝導度には
比例関係が認められ、洗剤別の二次回帰式を用いることで電気伝導度から溶液濃度を
推定できた。

(2)酸性洗剤溶液は調製後開栓状態で室温に保存しても電気伝導度に変化はみられなかった。
しかし、アルカリ洗剤では調製後開栓状態で室温に保存すると時間とともに電気伝導度が漸減し
1〜4日後にほぼ安定状態になった。

(3)開栓保存処理を受け開放空気中で電気伝導度が安定したアルカリ洗剤溶液においても、
濃度と電気伝導度には比例関係が認められ、洗剤別の二次回帰式を利用することで
電気伝導度から溶液濃度を推定できた。

(4)洗剤別の温度補償係数は調製直後のアルカリ洗剤では1.72〜2.33%、酸性洗剤では
0.64〜1.47%、開栓保存処理後のアルカリ洗剤では2.20〜2.27%であった。

2)洗剤循環工程における洗剤溶液の濃度測定法
(1)アルカリ洗剤では空気との接触により電気伝導度が変化するため、循環直前の洗剤溶液
では採取直後の電気伝導度と調整直後の溶液で作成した回帰式を用い、循環途中および
循環終了時の洗剤溶液では開栓保存処理後の電気伝導度と開栓保存処理後の溶液で作成
した回帰式を用いることで溶液濃度を推定できた。

(2)酸性洗剤においては循環洗浄工程における循環直前、循環途中、循環終了時のいずれの
洗剤溶液であっても、採取直後の電気伝導度と調製直後の溶液で作成した回帰式を用いて
溶液濃度を推定できた。

(3)濃度測定のための洗剤溶液は、ミルカーでは循環開始直後の採取を避けて循環開始直前か
開始後5分経過以降あるいは排水を、バルククーラーでは排水を採取する必要があった。

(4)洗浄液循環中にも注水を行う洗浄方式のバルククーラーでは、通気口等からの漏水によって
循環初期に高濃度溶液が一部失われるため、排水中の濃度から算出した希釈水量は排水等の
実測量より大きな値となった。


[成果の具体的数字]


 図1 洗剤溶液の濃度と電気伝導度の関係



 図2 ミルカー洗剤循環工程における循環溶液の電気伝導度の推移


 表1 洗剤循環工程における洗剤溶液の採取方法と電気伝導度を用いた溶液濃度の測定方法
洗剤溶液採取方法 採取方法の適否 アルカリ洗剤溶液 酸性洗剤溶液
ミルカー バルク
クーラー
開栓保存処理
と測定液温
濃度の推定式 開栓保存処理
と測定液温
濃度推定式
調製直後の
回帰式
開栓保存処理
後の回帰式
調製直後の
回帰式
循環直前
洗浄槽内水
× 不要
15〜35℃
× 不要
25℃
採取不能 不適
循環開始〜4分迄
戻り水、槽内水
× ×
不適 採取不能
循環5分〜終了迄
戻り水、槽内水
× 開栓保存処理
15〜35℃
× 不要
25℃
採取不能 不適
排水 開栓保存処理
15〜35℃
× 不要
25℃
不適
装置内残水 × 開栓保存処理
15〜35℃
× 不要
25℃
採取不能 不適
 ;洗剤溶液を開栓状態で室温に保存し電気伝導度を毎日測定しながら値が安定状態に達するまで
  1〜5日間保存を続け、開放空気中で安定状態に達した電気伝導度を求める処理
 ;標準的温度補償係数2%を利用した電気伝導度計での読み取り値の偏差が3%以内に収まる水温の範囲
 ;推奨使用濃度範囲の洗剤溶液を調製して調製直後の電気伝導度を用いて作成した回帰式
 ;推奨使用濃度範囲の洗剤溶液を調製し開栓保存処理して求めた、開放空気中で安定状態の電気伝導度を
  用いて作成した回帰式


4.成果の活用面と留意点
1)酪農機器の洗浄システムにおける水量の測定と洗剤量の設定・点検に利用できる。
2)開放空気中で安定な電気伝導度を得るための開栓保存処理の期間は、洗剤や溶液濃度のほか容器の形状や
溶液量等により影響を受ける。
3)電気伝導度は洗剤の製造ロットや処方の変更により変化する可能性があるので、濃度推定式を定期的に検証
する必要がある。


5.残された問題とその対応
1)洗剤製造ロット間の電気伝導度のばらつき
2)洗剤銘柄別の電気伝導度データの収集とその更新