成績概要書(2002年1月作成)
研究課題:鉄・ケイ酸レベルの向上による水田地力の増進技術       
担当部署:上川農試 研究部 栽培環境科、中央農試 農業環境部 環境基盤科
協力分担:上川支庁耕地課・中部耕地出張所、旭鷹土地改良区、
       空知支庁計画課・東部耕地出張所、空知中央地区農業改良普及センター
       北村役場、(社)北海道米麦改良協会北海道米食味分析センター
予算区分:国費補助(上川)、道費(中央)
研究期間:1997〜2001年

1.目的

 遊離酸化鉄および可給態ケイ酸濃度の低い水田圃場は、北海道に広く分布しており、健全な水稲生育に
悪影響を与えている可能性がある。特に、クリーン農業の実践に有機物を施用する場合、酸化的な
根圏土壌環境が必要である。この改善を目的として、遊離酸化鉄に富む土壌の客土および鉄・ケイ酸資材の
多量施用試験を行い、水稲生育と産米品質に及ぼす影響を検討した。

2.方法

試験圃場:旭川市永山(暗色表層褐色低地土)、鷹栖町(灰色低地土)、北村(低位泥炭土)
施工時期:1997年施工…永山・北村圃場、1998年…鷹栖圃場
処理区:
<永山・鷹栖>無施用、客土(2・4・6cm)、鉄資材施用Fe(0.5・1.0t/10a)、
シリカゲル施用Si( 100kg/10a)、鉄資材+シリカゲル施用Fe+Si(1.0t+100kg/10a)
<北村>無施用、鉄資材施用Fe(1.0t/10a)、シリカゲル施用Si(500kg/10a)、
鉄資材+シリカゲル施用Fe+Si(1.0t+500kg/10a)

3.成果の概要

1)土壌中の遊離酸化鉄および可給態ケイ酸濃度は、客土および鉄・ケイ酸資材の施用により増加した。
それに伴い、遊離酸化鉄/硫黄モル比も向上した。

2)客土および鉄資材の施用は、土壌の団粒化を促進することが認められた。

3)客土および鉄資材の施用により、湛水期間中の土壌の還元が緩和され、作土層の「ワキ」も抑制された(図1)。

4)稲わら施用の分解過程で生成される有害な芳香族カルボン酸(安息香酸、2-フェニルプロピオン酸など)濃度は、
客土処理により低下した。

5)水稲初期生育は、客土および鉄・ケイ酸資材の施用により地上部・根部とも改善された。特に、幼穂形成期
における茎数の増加が顕著であった(図2)。

6)水稲初期生育の改善に対しては可給態ケイ酸に比べ、遊離酸化鉄の補給が有効であった。

7)水稲の収量は、特に上川において幼穂形成期茎数や穂数と相関が認められ、遊離酸化鉄濃度に伴って
増加した(図3)。

8)白米蛋白含有率は遊離酸化鉄に比べ、可給態ケイ酸濃度との関係が深かった。
特に、客土は可給態ケイ酸濃度の向上と腐植の希釈効果により白米蛋白含有率の低下に最も有効であった。

9)泥炭土における鉄・ケイ酸資材の施用は、水稲生育に改善効果が認められるが、地力窒素の希釈効果を
伴わないことから、産米の品質に対する効果は判然としなかった(表1)。

10)遊離酸化鉄の適正水準は2.0%以上であり、さらに、全硫黄濃度の高い土壌においては
遊離酸化鉄/硫黄モル比(Fe/S)10以上が望ましいと判断した(図3、図4、表2)。

11)効果の持続性は客土の場合少なくとも10年以上はあると見られ、土壌条件等により
さらに継続的な効果が見込まれる。

 以上の結果から、客土および鉄資材・ケイ酸資材の施用による土壌改良が水稲生育に対して有効であると判断し、
その対策を示した(図5)。

 


図1.客土が土壌の酸化還元電位に及ぼす影響(1998年、永山)


図2.客土および資材施用が幼穂形成期の茎数と土壌中の遊離酸化鉄濃度に及ぼす影響(永山・鷹栖)

表1.資材施用が水稲生育に及ぼす影響(北村)


図3. 遊離酸化鉄と精玄米収量の関係


図4.土壌中の遊離酸化鉄/硫黄モル比と精玄米収量の関係(永山・鷹栖)

表2.北海道の水田土壌における遊離酸化鉄の適正水準


図5.客土および鉄資材施用による土壌改良対策


4.成果の活用面と留意点

1)客土材は遊離酸化鉄濃度4%以上とし、対象土壌の遊離酸化鉄濃度を勘案して客土量を決定する。

2)施工は、土壌が十分に乾いた条件で実施する。

3)客土を行う場合は、土壌診断を行い不足する成分は補充する。


5.残された問題点とその対応

1)適当な客土材の分布状況把握

2)施用効果の高い鉄資材およびケイ酸資材の開発