成績概要書(2002年1月作成)
研究課題:催芽種子を用いる水稲の乾田直播栽培技術 担当部署:北海道農研・生産環境部水田土壌管理研・総合研究部総研1チーム 担当者名 : 粟崎弘利・安田道夫・君和田健二・大下泰生・渡辺治郎・湯川智行 協力分担:なし 予算区分:地域総合、交付金 研究期間:1995〜2001 |
1. 目 的
北海道の水稲直播栽培は生育遅延を防ぐため、最適の苗立ち数を確保し、さらに、
生育を早めて好適な生育群落を形成させる必要がある。また、北海道では作期が短いため
早生品種が用いられ、良食味米の中生種は直播に適していない。しかし、催芽播種や
芽出し種子を用いた直播栽培は、初期生育や出穂期の促進に有効な技術としてこれまで
取り組みが行われてきた。そこで、催芽種子の生育特性を検討し、安全期間内に出穂を
可能にするため栽培地の出穂晩限と播種晩限期を明らかにし、その早期化のための
催芽と播種期、1葉期を推定するとともに、催芽・芽出し播種に適した播種機の開発を試みる。
2. 方 法
1)供試品種:「ゆきまる」(早生中)、「あきほ」、「ほしのゆめ」(中生早)
2)試験場所: 札幌市、江別市、美唄市、月形町、妹背牛町、当麻町、旭川市
3)催芽処理: 催芽0.5〜1.0㎜に要する有効積算温度は45〜50℃となる。機械播種で用いた種子は
30℃の温水で36時間加温(芽長1.2±0.9㎜)し、24時間陰干し後播種した。
4)気象平年、出穂晩限:栽培地のアメダス 1989〜1998年の10ヶ年平均値、出穂晩限は出穂期以降
40日間の平均気温の積算が750℃となる日として設定(作付基準の地帯区分参考)。
5)播種機の開発: 浅耕逆転ロータリに施肥播種装置を装着した播種機を試作し、芽長0.2〜3.8㎜の
催芽・芽出し種子を用いて、損傷率、苗立ち率、作業性能等を調査した。
3. 結果の概要
1)乾田直播では、芽長と有効温度との間に、①芽長(㎜)=0.001996X2-0.0781X(Xは有効積算温度)、
②有効温度(Et)=46.08×(T-11.5)/T(Tは定温)の関係があり、有効積算温度は有効温度(Et)と時間の
積の合計値で求められる。出穂期算出の起点になる「1葉期」までに必要な有効積算温度は
186±5.7℃(発芽始〜1葉期、品種平均)であった(表1)。
2)催芽種子は平均芽長0.5〜1.0㎜のものである。催芽種子の播種期は、目標の出穂期から逆算して
日平均気温で品種別の幼穂形成期を、幼穂形成期から日最高気温で1葉期を求める。さらに、
1葉期までに獲得できる圃場有効温度と、芽出しに要する有効温度の合計が186℃に達するようにする(表1)。
3)催芽種子を用いると、1葉期は吸水籾より4日程度促進される(図1)。
4)播種機は催芽種子を横溝ロールで繰り出す方式の播種装置を使用した。播種時の損傷割合は
幼芽が長くなるにしたがって増加し、芽長が0.5〜1㎜以下であれば損傷割合はほぼ10%以下で、
苗立ち率は40%程度であった。実用的には芽長1㎜以下の催芽種子を用いる必要がある(図2)。
5)栽培地の播種晩限と、安全期出穂に必要な催芽播種、1葉期を算出した。美唄市で安全期出穂(8月5日)
までに出穂させるためには、1.0㎜催芽種子で「あきほ」は5月12日、「ほしのゆめ」は4月23日播種が必要である。
また、当麻町で安全期出穂(8月1日)のためには、「ゆきまる」は1.0㎜催芽種子で4月24日播種、
播種晩限(8月5日)のためには0.5㎜催芽種子で5月13日播種になる(表2)。
6)催芽播種は、慣行の吸水籾(浸漬積算水温70℃)乾田播種の推定出穂期に比べて、芽長0.5〜1㎜の
催芽種子では平均して2.3日早く、芽長2㎜の芽出し種子では平均3日早まった(表3)。
表1 1葉期に必要な有効積算温度と1葉期〜出穂期までの生育温度
品 種 |
発芽始 〜1葉 有効積算温度 |
1葉期〜 幼穂形成期 最高気温積算 |
幼穂形成期 〜出穂期 平均気温積算 |
ゆきまる 早生中 | 184℃ | 961±40℃ | 503±35℃ |
あきほ 中生早 | 188℃ | 948±55℃ | 519±40℃ |
ほしのゆめ 中生早 | 189℃ | 977±41℃ | 570±26℃ |
図1 芽出し播種水稲の有効積算温度と1葉期の関係(播種期:5/1)
図2 播種機の繰り出しによる種子の損傷
表2 直播栽培地域の出穂晩限期と安全期間出穂に必要な催芽・芽出し播種
直播栽 培地域 (乾田播種) |
品種名 | 晩限期出穂稲の播種晩限 | 安全期出穂稲の播種期 | ||||||
出穂 晩限期 (月日) |
1葉期 (月日) |
播種 晩限 (月日) |
播種 芽長 (㎜) |
出穂期 (月日) |
1葉期 (月日) |
播種期 (月日) |
播種 芽長 (㎜) |
||
美唄 | あきほ | 8.10 | 6.03 | (5.20) | 0.5 | 8.05 | 5.28 | (5.12) | 1.0 |
ほしのゆめ | 8.10 | 5. 3 | (5.16) | 0.5 | 8.05 | 5.23 | (4.23) | 1.0 | |
月形 |
ゆきまる |
8.09 | 5.29 | (5.08) | 0.5 | 8.07 | 5.26 | (4.20) | (2) |
妹背牛 旭川 |
ゆきまる | 8.09 | 5.31 | (5.17) | 0.5 | 8.04 | 5.25 | (4.30) | 1.0 |
ゆきまる | 8.08 | 6.02 | (5.20) | 0.5 | 8.03 | 5.27 | (5.11) | 1.0 | |
ほしのゆめ |
8.08 | 5.28 | (5.14) | 0.5 | 8.03 | 5.22 | (4.24) | 1.0 | |
当麻 |
ゆきまる |
8.05 | 5.28 | (5.13) | 0.5 | 8.01 | 5.22 | (4.24) | 1.0 |
江別 |
ゆきまる |
8.08 | 5.26 | (4.24) |
1.0 |
8.06 | 5.23 | (4.25) | (6) |
表3 催芽・芽出し(芽長0.5〜2㎜)播種水稲の生育・収量
品種 年次 |
栽培地域 | 土壌型 |
芽長 (㎜) |
播種期 (月日) |
苗立ち率 (%) |
出穂期 (月日) |
吸水籾 の出穂期予測 |
成熟期 (月日) |
玄米重 1.9㎜≦ (㎏/10a) |
穂数 (本/㎡) |
白米 蛋白 (%) |
ゆきまる 2000年 |
当麻 | 褐色低地土 | 1.0 | 5.03 | 62.8 | 7.28 | (7.31) | 9.11 | 454 | 686 | 6.8 |
妹背牛 | グライ低地カ | 1.0 | 5.08 | 67.9 | 7.31 | (8.04) | 9.13 | 564 | 738 | 8.7 | |
美唄 | 高位泥炭土 | 2.0 | 5.01 | 53.9 | 7.26 | (7.31) | 9.06 | 629 | 666 | 8.0 | |
ゆきまる 2001年 |
当麻 | 褐色低地土 | 1.0 | 5.02 | 63.2 | 7.31 | (8.03) | 9.24 | 707 | 802 | 7.4 |
妹背牛 | グライ低地カ | 1.0 | 5.05 | 60.3 | 8.06 | (8.09) | 9.28 | 626 | 794 | 8.3 | |
美唄 | 高位泥炭土 | 2.0 | 5.09 | 64.1 | 7.30 | (8.07) | 9.16 | 624 | 678 | 8.2 | |
あきほ 2001年 |
美唄 | 高位泥炭土カ | 1.0 | 4.29 | 79.5 | 8.03 | (8.04) | 9.21 | 586 | 995 | 7.7 |
〃 | 低位泥炭土 | 2.0 | 5.09 | 75.8 | 7.30 | (8.06) | 9.16 | 615 | 787 | 8.4 | |
ほしのゆめ 2000年 |
旭川 | 褐色低地土 | 0.5 | 5.03 | 48.3 | 8.01 | (8.02) | 9.14 | 552 | 659 | 7.3 |
月形 | 高位泥炭土カ | 1.0 | 5.07 | 55.3 | 8.02 | (8.07) | 9.17 | 540 | 757 | 7.5 | |
美唄 | 細粒グライ | 1.0 | 5.01 | 56.8 | 8.01 | (8.03) | 9.14 | 604 | 671 | 7.8 | |
ほしのゆめ 2001年 |
旭川 | 褐色低地土 | 0.5 | 4.30 | 59.2 | 8.07 | (8.09) | 9.27 | 587 | 852 | 7.2 |
〃 | 細粒グライ | 0.5 | 4.30 | 50.8 | 8.08 | (8.09) | 9.29 | 537 | 765 | 7.0 | |
美唄 | 高位泥炭土 | 2.0 | 5.09 | 56.4 | 7.30 | (8.10) | 9.16 | 505 | 700 | 8.5 |
4. 成果の活用面と留意点
1)催芽0.5〜1.0㎜種子による乾田直播栽培は、安全期間内に出穂する品種を用いて、道央以南の初期生育の良い
稲作安定地域に適用する。
2)催芽種子は酸素発生剤の粉衣を基本とし、本播種機を用いる場合は苗立ち率の低下を考慮した播種量とする。
3)コーティング種子を用いない場合は、浮き苗を抑制するために、播種時に砕土性を高め、覆土を行う必要がある。
5. 残された問題点とその対応
1)催芽・芽出し種子が損傷しない繰出機構の開発