成績概要書(2002年1月作成)
研究課題:貝殻を疎水材とした泥炭地の暗渠排水技術
担当部署:(独)開発土木研究所土壌保全研究室
協力分担:稚内開発建設部農業開発課
予算区分:調査費
研究期間:1997〜2000年度
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1.目的
暗渠排水の機能不良要因として埋戻し土の透水不良化が鉱質土だけでなく、泥炭土でも
明らかにされ、北海道、農水省および北海道開発局の暗渠排水計画基準等では、粗間隙を
多量に有する資材で掘削部を埋戻す疎水材暗渠排水が基準化されてきた。このような疎水材
として砂利、粗粒火山灰、砂、貝殻、木材チップ等が掲げられている。貝殻の容積重は
小さいため泥炭土壌での暗渠疎水材としても使用されるが、酸性水には溶け易い。そこで、
泥炭土壌での貝殻疎水材の効果と耐久性を明らかにする。
2.方法
1) 調査地点および試験区の概要
北海道浜頓別町の頓別川右岸の1980年に造成された泥炭土草地(客土深約10cm、泥炭層厚が
約4.5mの中間泥炭土)に以下の試験区を設け、1996年8〜10月に暗渠排水を施工し、置土を実施
した後、翌春、施肥播種を実施し、1997年6月末までに草地更新を完了した。
○慣行区:暗渠管を敷設後、ササで被覆し、掘削部を掘削した泥炭土で埋め戻し。
○貝殻区:暗渠管を敷設後、掘削部を疎水材としての未破砕のホタテ貝殻で深さ40cmまで埋戻し、
その上部は掘削泥炭土で埋戻し。
両区ともに暗渠間隔は15m、渠深は1mで、内径50mmのコルゲ−ト多孔暗渠管を使用した。
2) 調査内容
ア)降雨量の観測:調査圃場から約2.5km離れた天北中部地域農業開発事業所の雨量計
イ)目視地下水位観測:暗渠施工線から1,2,4,6mの位置に有孔塩ビ管を設置し、1回/月。
ウ)自動地下水位観測:暗渠施工線から2m離れた位置に自記地下水位計を設置し測定。
エ)土層断面調査:1997年8月に暗渠管の直上で土層断面調査。
オ)暗渠管からの排水量および水質分析:1997年〜1999年の5月〜11月まで、1回/月。
カ)疎水材貝殻分析:ナイロン製網袋に入れ疎水材として埋設した貝殻および明渠排水に浸漬した
貝殻を1999年10月に取出し、外観、重量、比重、載荷強度、成分分析を実施。
3.成果の概要
未破砕のホタテ貝殻を暗渠排水の掘削部に埋戻した貝殻区の排水効果、排水水質及び貝殻の
性状変化をササを被覆材とした慣行区を対照として3年間調査した。
1) 貝殻区の暗渠排水線から2m以内の地下水位は慣行区よりも低く推移し、排水効果は高かった。
2) 貝殻区の排水は慣行区に比べpH、EC、Ca濃度は高く、貝殻成分の溶出を示した。
3) 埋設2年後の貝殻の強度は低下したが、重量減少は1%であった。
4) 貝殻区排水の鉄濃度が低いことから、貝殻を疎水材として用いる事により、鉄を主成分とする
堆泥を抑制する可能性がある。
5) 以上のことより、未破砕のホタテ貝殻は暗渠排水の疎水材として適性を有すると考えられた。
図1 暗渠排水模式図
写真1 試験開始2年後の貝殻の変化
表1 貝殻の残存率、密度および強度
種別 | 残存率2) (重量%) | 密度 (Mgm-3) | 載荷強度 (Kgf) |
原貝殻 | 右殻 | 100 | 2.581) | 651) |
左殻 | 100 | 2.571) | 911) |
疎水材貝殻 | 右殻 | 99 | 2.532) | 452) |
左殻 | 99 | 2.562) | 472) |
明渠貝殻 | 右殻 | 73 | 2.502) | 412) |
左殻 | 73 | 2.542) | 412) |
1):n=20 2):n=5
図2 地下水位の経時変化(1999年)
図3 暗渠排水のpH,EC,Ca及びFe濃度
4.成果の活用面と留意点
本成果は中間泥炭土草地でのものであるが、排水不良鉱質土(但し、酸性硫酸塩土壌を
除く)にも適用できるものと考えられる。
なお、本成果は中間泥炭原野(浜頓別泥炭地)を草地に造成し、16年後に再整備した時の
暗渠排水である。泥炭層の厚い未墾泥炭地では農地化に伴い泥炭地盤の沈下が想定される
ので、新墾造成した場合の暗渠排水ではその効果も本成果と異なることも考えられる。
したがって、新墾造成の場合には沈下との関係での検討が必要な事も考えられる。
5.残された問題とその対応
本成果は試験開始後2年間の成果であり、より長期的な貝殻の耐久性とその排水効果については、
今後も継続調査で明らかにする予定である。