成績概要書(2002年1月作成)
研究課題:作物モデルを活用した秋まき小麦の収量変動評価・予測法       
担当部署:北見農試 生産研究部 栽培環境科
協力分担:中央農試 農産工学部 農産品質科、生産システム部 栽培システム科
予算区分:受託
研究期間:1998〜2000年度

1.目 的
 本道の秋まき小麦は、年次、地域による収量・品質の変動が大きいことが生産上の課題と
されているが、気温や日射量等の気象要因が収量変動におよぼす影響の定量的評価法は
確立されていない。ここでは、作物モデル「WOFOST」を本道の秋まき小麦に適用し、
気象条件と土壌の保水性の面からみた収量変動要因の評価および予測法を検討した。
 
2.方 法
1)日射量及び水蒸気圧の推定
WOFOSTを実行するために必要な気象観測データのうち、アメダスの観測項目となっていない
日射量及び水蒸気圧をアメダス観測値から推定する方法を検討した。
2)WOFOSTの作物パラメータの設定変更と動作検証
本道の秋まき小麦に対応するための設定変更を加え、計算結果の妥当性を検証した。
3)道内代表地点における長期収量変動の計算
道内の代表地点における過去21年間のポテンシャル収量を、水分制限の有無、
起生期乾物重・土壌型・有効土層深をそれぞれ変えた条件下でシミュレーションした。
 
3.成果の概要
1)融雪日7日後から開花期、開花期から成熟期に達するために必要な有効積算温度は、
品種「ホクシン」の標準まきでは、それぞれ570度、700度と推定された(図1)。
2)1981〜1999年における十勝増収記録会の最高収量と、同期間の芽室における水分不足を
考慮しないポテンシャル収量(PY1)は、ほぼ同レベルであり、両者の年次変動パターンも良く
一致していた(図2)。PY1は、各年次における到達可能な最大収量の指標として利用可能である。
3)過去21年間のPY1の平均値は道内5地点で7.5〜8.1t/haの範囲にあり、年次変動の大きさに
比較すると地域間差は小さかった(表1)。ワーゲニンゲン(オランダ)と道内のPY1の差は
登熟日数の差によるところが大きい。
4)登熟日数・7月の日射量・最大LAIの3つの変数を用いる式によって、道内5地点における
過去21年間のPY1の変動の83%を説明することができた(図3)。
5)開花期乾物重9.5t/ha以上を倒伏危険域とすると、倒伏を考慮した最適な起生期乾物重は、
網走・十勝では標準まきの値(0.7t/ha)にほぼ等しく、早まきを想定した起生期乾物重(1.0t/ha)では、
10年に6回の確率で危険域を越えた(図4)。
6)水分不足を考慮したポテンシャル収量(PY2)とPY1の比が0.9未満となる干ばつ年の出現確率は、
網走≒空知>十勝であった。干ばつ年の出現確率を、すべての地点で0.1以下とするためには、
火山性土の場合で60cmの有効土層が必要である(表2)。
7)有効土層の不足による登熟後半の水分不足は、子実タンパク含有率を低下させた。
8)生育ステージ予測および登熟条件評価を、WOFOSTを介さずにアメダスデータから直接行うための
簡易表計算フォームを作成した。
 

図1 各場奨励品種決定基本調査における成熟期と計算値の比較
 
 

図2 十勝作物増収記録会最高収量と水分不足を考慮しないポテンシャル収量(PY1)の年次推移
気象データは芽室アメダスを使用、標準まきを想定
 
 

図3 登熟日数、7月の日射量とPY1の関係
図中の実線は最大LAIを4と仮定したPY1近似値、
点のプロットは各地点における1981〜2001年の登熟日数および日射量
 
 

図4 起生期乾物重と、開花期乾物重が倒伏危険域を越える確率
1981〜2001年における計算値
 
 
表1 登熟条件とPY1の地域間差
 
 
表2 水分不足を考慮したポテンシャル収量(PY2)とPY1の比が
0.9未満となる干ばつ年の出現確率
 
4.成果の活用面と留意点
1)本成果は指導機関を中心に、農家、土地改良関係機関、研究機関で活用可能である。
2)ポテンシャル収量の計算値には、収穫期の雨害・病害被害は考慮されていない。
3)本成果の作物モデルは、品種「ホクシン」を想定している。
4)WOFOSTプログラムおよび関連するデータセットは、CD-ROM等で提供可能である。
 
5.残された問題とその対応
1)有効土層深に対応した品質安定化技術については実施中の課題で検討