成績概要書(2002年1月作成)
研究課題:てんさいの主要病害虫に対する地上液剤少量散布の防除効果       
担当部署:十勝農試生産研究部病虫科、栽培システム科、病害虫防除所予察課
       中央農試 クリーン農業部
協力分担:
予算区分:受託
研究期間:1999〜2001年度

1.目的
 地上液剤少量散布による薬液付着状況、てんさいの主要病害虫である褐斑病および
ヨトウガの防除効果ついて、従来の慣行散布と比較検討し、液剤少量散布の実用化に資する。


2.方法
1)地上液剤少量散布によるてんさいへの薬剤付着特性調査
2)地上液剤少量散布による褐斑病の防除効果および薬害の確認試験
  (供試薬剤:ジフェノコナゾール乳剤、テトラコナゾール乳剤、マンゼブ水和剤)
3)地上液剤少量散布によるヨトウガの防除効果および薬害の確認試験
  (供試薬剤:クロルピリホス乳剤、アセフェート水和剤、アセフェート水溶剤、
  シペルメトリン顆粒水和剤)

3.成果の概要
1)少量散布装置とてんさいへの薬液付着特性
(1)圃場でのてんさいに対する噴霧粒子の付着状況は、いずれの散布量においても、上位葉の
葉陰や葉の裏面、および垂直に近い葉面での付着が不良となる傾向にあった。
(2)コーンタイプカニ目(CT)ノズルによる100L/10a(慣行)散布と、高圧少量散布用扇型(FH)ノズル
による25Lおよび50L/10a少量散布との、葉の表面への薬液付着面積割合の差は、下位葉では
わずかであるが、上位葉ほど少量散布の方が少ない傾向にあった。
(3)少量散布で送風処理を併用した場合、送風処理を行わない場合と比較して、全体的に
薬液付着面積割合が少なくなる傾向にあった(図1)。

2)少量散布による褐斑病の防除効果
(1)褐斑病に対する殺菌剤の少量散布は、25Lおよび50L/10a散布のいずれも、供試した殺菌剤の
残効期間(平成8年指導参考)以内では慣行散布とほぼ同等の防除効果が認められた(表1)。
いずれも薬害は認められなかった。
(2)ただし、送風処理を併用すると、防除価が低下する場合があり(図2、表2)、また、扇型ノズルによる
散布は、同一散布量のコーンタイプノズルと比べ防除価が低下する傾向にあった。これらの散布方法の
違いによる影響は、残効期間以上に散布間隔をあけると、防除価の低下が顕在化しやすかった。
したがって、褐斑病に対する少量散布では、散布間隔を不用意に開けすぎないことが重要と考えられる。

3)少量散布によるヨトウガの防除効果
(1)ヨトウガに対する殺虫剤の少量散布は、25Lおよび50L/10a散布のいずれも慣行散布とほぼ同等の
効果が認められた(図3)。いずれも薬害は認められなかった。
(2)ヨトウガに対する殺虫剤の少量散布に関しては、噴霧圧力、ノズルの違や送風処理の有無で
防除効果に差はないと判断された(図3)。散布方法による効果差が見られない理由として、本幼虫は
薬剤がかかりやすい中位葉から心葉へ移動しながら葉を食害しているため、薬剤の付着むらや葉裏への
付着量差の影響を受けにくいと考えられる。


表1 殺菌剤の少量散布による褐斑病の防除効果(平成13年:十勝農試)
散布量(L/10a)
ノズル* ジフェノコナゾール乳剤 テトラコナゾール乳剤 マンゼブ水和剤
希釈倍率 発病度**
(防除価)
薬害 希釈倍率 発病度
(防除価)
薬害 希釈倍率 発病度
(防除価)
薬害
25 FH ×750 25.3(59) - ×750 19.5(69) - ×125 14.2(49) -
50 FH ×1500 19.1(69) - ×750 13.9(78) - ×250 11.7(58) -
100 CT ×3000 19.9(68) - ×750 14.6(77) - ×500 13.4(52) -
無処理 62.2 62.2 27.7
 *:ノズルFH:高圧用フラットタイプノズル、CT:コーンタイプカニ目、いずれも噴霧圧10kg/cm2
 **:発病調査は、ジフェノコナゾール乳剤及びテトラコナゾール乳剤が最終散布後20日目、マンゼブ水和剤は7日目



図1 散布量および送風処理の有無と株当たりの薬剤付着面積割合



図2 マンゼブ水和剤の少量散布における噴霧圧力および送風処理の影響(平成13年:十勝農試)
 *:慣行散布(高圧100L/10a散布)の発病度-各処理区の発病度
 少量散布の反当薬剤投下量は100L/10aと同一量。
 ノズルは慣行散布がコーンカニ目、少量散布がフラットノズル


表2 殺菌剤の少量散布体系処理による褐斑病の防除効果(平成11年:十勝農試)
薬剤体系処理* 散布量
(L/10a)
希釈倍率 ノズル** 噴霧圧力
(kg/cm2)
送風処理 発病度(防除価) 薬害
M-D-M-D
(少量散布)
25 M:150、D:0900 CS 10 なし 28.3(68.5) -
25 M:150、D:0900 FL 02 あり 65.1(27.4) -
50 M:300、D:1800 CS 10 なし 22.7(74.7) -
50 M:300、D:1800 FL 02 あり 47.7(46.7) -
(慣行散布) 100 M:500、D:3000 CS 10   25.1(72.0) -
無処理   89.6(00.0)  
 *:M:マンゼブ水和剤、D:ジフェノコナゾール乳剤、
 **:ノズルCS:コーンタイプ単頭口、FL:低圧用フラットタイプノズル
  調査は最終散布後32日目



図3 殺虫剤の少量散布によるヨトウガに対する防除効果(平成12年:十勝農試)
 注)CSノズル:コーンタイプカニ目、FLノズル:低圧用フラットタイプ、噴霧圧力:送風なし:10Kg/cm2 、送風処理:3Kg/cm2


4.成果の活用面と留意点
1)てんさいの主要病害虫(褐斑病・ヨトウガ)に対する地上液剤少量散布の防除効果は慣行散布とほぼ同等で、
実用性がある。ただし褐斑病に対しては、散布間隔が開きすぎると効果が不安定となりやすいので、
各薬剤の残効期間(平成8年指導参考事項)を厳守する。

2)てんさいの地上液剤少量散布は、少量散布に適するノズルを装着したブームスプレーヤで行う。

3)本試験で検討した殺菌・殺虫剤は、少量散布では未登録である。


5.残された問題点とその対応
1)少量散布によるばれいしょや豆類に対する薬液付着特性の解明

2)畑作病害虫に対する地上液剤少量散布用農薬の登録促進