成績概要書(2002年1月作成)
研究課題:十勝・網走地域における大規模畑作経営の確立条件       
担当部署:十勝農試 生産研究部 経営科、中央農試 生産システム部 経営科
協力分担:(社)北海道地域農業研究所
予算区分:民間
研究期間:1999〜2001年度

1.目的
 十勝・網走地域における規模拡大の所得拡充効果と規模拡大の技術的経済的限界を
明らかにする。さらに大規模畑作経営が条件変化時にも安定的に存立しえる条件を示す。


2.方法

1)統計分析:十勝・網走地域における規模拡大動向の特徴把握

2)経営調査

3)モデル分析:(1)現状技術の限界規模(2)所得拡充効果(3)価格低下の影響


3.成果の概要

1)実態調査から、①作付拡大に応じて機械装備が高能率化する(図1〜3)、②十勝地域では
生食・加工用ばれいしょ収穫と耕起整地作業能率向上が課題だが、50ha程度まで土地利用を
維持して規模拡大をおこなうことができる、③網走地域ではてんさい移植作業能率向上が
課題だが、労働時間延長により50〜60haが耕作される、ことが明らかになった。それ以上の
規模では小麦作付構成比率が上昇し、てんさい、生食・加工用ばれいしょ作付構成比率が低下する。

2)規模に応じて機械装備が高能率化するため、規模に応じて固定費は増加する(図4)。
十勝地域における実態調査では面積あたり固定費は明瞭には低下せず10aあたり減価償却費(機械)
8,000円程度が規模に関わらず平均的であった(図5)。固定費の構成比率は専用作業機が
もっとも大きくトラクタがそれに次ぐ。

3)低単収地域を中心に小作料と土地収益性との乖離が明らかになった。特に低単収地域において
規模拡大に際した新規地代負担は、規模拡大による所得の拡充を圧迫する。

4)十勝地域では50ha程度、網走地域では60ha程度以上では、小麦に代表される省力低収益作物
作付が拡大するため収益形成力が低下し、規模拡大による所得拡充程度は低下する。大規模経営の
経済的限界は省力低収益作物の収益性に規定される。

5)経営モデル分析の結果、①新技術の導入と雇用確保ができれば十勝地域では50〜60ha程度、
網走地域では60ha程度まで土地利用を維持して規模拡大が可能である、②技術的限界規模以上への
小麦過作による規模拡大では収益形成力は低下するが極端な固定費増がない限り所得は増加する、
ことが明らかになった(表1・2、図6)。ただし、①小麦過作を前提とした規模拡大、②単収低下を
ともなった規模拡大は、経営の不安定化に留意することが必要である。特に網走地域の低単収地域では
畑作物価格低下を想定すると農業所得は下限所得(784万円)に達しない水準となる。

6)規模拡大にあたっては、①機械体系変更、家族労働力と複数オペレータの確保、②機械投資抑制や
機械所有見直しによる固定費引き下げ、③規模拡大を支える農地集積のあり方について再検討する
必要がある。


図1 経営耕地面積規模別の
トラクタ保有状況
図2 てんさい作付面積規模別の
採用移植機
図3 ばれいしょ作付面積
規模別の採用播種機


図4 経営耕地面積規模別の
減価償却費(機械)
図5 金額階層別の10aあたり
減価償却費
図6 技術・労働条件別の拡大面積
10aあたり増加収益(試算値)


表1 経営耕地規模別・採用技術体系別の最適作付構成(十勝地域周辺部モデル)



4.成果の活用面と留意点

1)個別経営が安定的な規模拡大をおこないうる営農条件を判断することができる。

2)規模拡大の進展が想定される畑作地域町村において指導上有力な情報となる。

3)技術水準や価格条件の変動により具体的数値は変動する。

4)個別事例に適用する際は機械装備の検討が必要である。


5.残された課題とその対応

大規模経営への農地集積のあり方については引き続き検討する必要がある。