成績概要書(2002年1月作成)
研究課題:寒冷地における乳牛糞尿のハウス乾燥施設導入条件       
担当部署:中央農試 農業環境部 環境基盤科
協力分担:
予算区分:国費補助(新技術導入推進事業)
研究期間:1998〜2001年度

1.目的
 フリーストールを導入する酪農家が増加しているが、糞尿混合の高水分の糞尿処理
が問題となっている。本州で普及しているハウス乾燥施設は、積雪寒冷地の北海道での
冬季稼働の実績はなく、一方通年稼働可能な深型発酵施設は、水分調整材の
調達作業面・コスト面で負担となる。

本試験では十勝支庁管内にある攪拌厚50cmの浅型移送攪拌機によるハウス乾燥施設
と、堆積発酵の二次施設からなる現地実証施設において、蒸発量の多い春〜夏季は
乾燥施設、冬季は発酵施設として稼働させる事により、施設の通年稼働とフリーストール
からの糞尿の全量処理を行った際に得られたデータを基に、ハウス乾燥施設の本道での
適応条件について検討した。

2.方法
実施箇所 十勝管内音更町長流枝平尾牧場内 スラリー堆肥化実証施設

試験内容 気温・室温・堆肥温・水分率・容積重・体積・発熱量・強熱減量・化学分析

3.成果の概要
1) ハウス乾燥施設における蒸発量は、全天日射量と強い相関が認められたが(図1)、
糞尿の水分が60%以下で乾燥効率の低下が認められた(図2)。

2) 発熱発酵の発現・持続には、糞尿の容積重を0.7t/m3以下に管理する事が
重要であり、また水分調整材の種類によって、同じ水分でも容積重は大きく
左右される(図3)。

3) 帯広と同等の日射がある地域においては、移送攪拌床面積が1頭当たり12㎡あり、
冬季3ヶ月間に必要な藁等の調整材(水分10%)をさらに1頭・1日当たり14kg使用する
事により、年間発生する糞尿(水分85%)の通年堆肥化処理が可能であった。

4) ハウス乾燥施設の導入適地は十勝・網走等の、日射量が多い畑酪混合・冬季少雪地域である。

5) 通風時においては効果的に発酵乾燥させる事が出来たが、無通風で二次施設に糞尿を
堆積発酵した場合、レキ汁発生や堆積内部が湿潤化するなどの理由から、糞尿を発酵乾燥
させる事は出来なかった。

6) 容積重調整してハウス乾燥施設に搬入された糞尿は、搬出後冬季の屋外の二次施設に堆積し、
わずかな面積を部分加温する事により、堆積糞尿全体を発熱発酵させる事が可能であった(表1)。

7) 牛糞尿を、ハウス乾燥施設内と二次施設両方を活用すると、最終乾物分解率は約40%となった。

8) 牛糞尿の乾物分解発熱量は、現地試験でも屋内試験でも概ね、堆肥化施設マニュアルの値と
類似の、1kg当たり4500kcal(18.84MJ/kg)前後の発生が認められた。

9) ハウス乾燥施設の導入によって容積重調整に掛かるコストの削減が可能であり、有効であった。


図1 全天日射量と蒸発量の年変動について(H12.6〜H13.6)


図2 糞尿水分と蒸発量との関係


図3 糞尿の容積重と発酵温度との関係

表1 二次施設での堆肥断面温度(H13年3月、単位 ℃)

4.成果の活用面と留意点
1) ハウス乾燥施設は十勝・網走等、日射量の多い畑酪混合・冬季少雪地域に導入可能である。

2) ハウス乾燥堆肥は一般の堆肥と比べ肥料成分含有率が高く、また糞尿混合の場合は
特にカリ濃度が高いので、圃場還元の際は肥料成分含有率と施肥標準に基づいて、
過剰散布にならないよう留意する。

3) 本試験は敷料を1頭当たり2kg/日程度使用した糞尿(水分85%程度)で得られた成果である。

4) ハウスの被覆材は、強度が高く透過性の良い素材を用いる必要がある。

5) 本試験は、攪拌厚50cmの浅型移送攪拌機にて得られたデータである。

5.残された問題とその対応
1) pH調整・脱臭技術等のアンモニア揮散防止対策

2) 敷料未使用の生スラリー処理の適応性の検討