成績概要書(2002年1月作成)
研究課題:ばれいしょ塊茎の糖変動様式       
担当部署:北農研・畑作研究部・品質制御チ、ばれいしょ育種研
担当者名:遠藤千絵、小原(高田)明子、小林晃、森元幸、山内宏昭
協力分担:
予算区分:新需要創出、交付金
研究期間:完1998〜2000年度、2001〜2003年度

1.目的
 ばれいしょ塊茎は低温貯蔵すると一般にポテトチップス加工にマイナスとなる還元糖が
増加するが,糖変動には品種間差がある。本研究では,生育および貯蔵中の糖変動の
特性を明らかにするとともに,糖変動のメカニズムについて解明し,多様化する
調理・加工ニーズに的確に応じた品種利用技術,品質制御技術開発に資する。


2.方法
 増糖程度の異なる6品種:ホワイトフライヤー・トヨシロ(ポテトチップス用品種),キタアカリ・
男しゃくいも・メークイン(生食用主要品種),インカのめざめ(黄肉新品種)について,生育中
ならびに収穫後貯蔵(20℃および4℃,湿度90%,暗所)中の塊茎の還元糖(グルコース,
フラクトース)およびショ糖量を測定するとともに,糖代謝に関連する各種酵素活性を測定した。
また,酵素活性の調節機構を明らかにするために,RT-PCR法により関連酵素の遺伝子発現
について解析した。さらに,貯蔵塊茎の糖変動特性を生かした新規利用技術の開発を試みた。


3.成果の概要
(1)生育中はいずれの品種も収穫期に向かって糖含量が減少した。貯蔵中は20℃貯蔵では,
グルコース,フラクトース,ショ糖とも低く推移したが,4℃貯蔵では,品種により
(i)糖量低推移型(ホワイトフライヤー),
(ii)ショ糖増加型(インカのめざめ),
(iii)還元糖増加型(メークイン,男しゃくいも,キタアカリ,トヨシロ)
の3タイプに分類できることがわかった(図1,還元糖増加型はメークインのみ示す)。

(2)酸性インベルターゼ活性は,20℃貯蔵では6品種とも低く推移したが,4℃貯蔵では,
(iii)で貯蔵1週間後以降,活性が増加するのに対し,(i)(ii)ではきわめて低いことがわかり(図2),
低温貯蔵中の還元糖の変動には本酵素の活性の有無が関与することが示された。また,
(iii)では4℃貯蔵で本酵素の遺伝子発現が誘導されるのに対し,20℃では特異的誘導は
認められなかった(図3)ことから,貯蔵中の本酵素の活性は,遺伝子発現のレベルで
調節されていることが示唆された。

(3)スクロースリン酸シンターゼ活性は,いずれの品種においても4℃貯蔵では,20℃貯蔵より
高く推移し,70日後からは(i)(iii)で変動しないかあるいは減少するが,(ii)では90日以降も増加し
(データ省略),ショ糖量増加との関与が示唆された。

(4)インカのめざめでは,ショ糖が特異的に増加するという貯蔵特性を生かした新規食品類を開発した。



図1 生育中および貯蔵中の糖含量(mg/g生重量)の変動
 各品種とも4/27播種,8/27収穫後,15日間15℃に維持,9/11より20℃,4℃貯蔵を開始した。



図2 生育中および貯蔵中の酸性インベルターゼ活性(nmol fruc/mg protein/min)の変動。
 ○:20℃貯蔵,●:4℃貯蔵。



図3 貯蔵中の酸性インベルターゼ遺伝子の発現(メークイン)。
 貯蔵塊茎より経時的に全RNAを抽出しRT-PCRを行った。
 1,貯蔵開始; 2,4℃1週間後;3,20℃1週間後;4,4℃3週間後;5,20℃3週間後;6,4℃5週間後;7,20℃5週間後。

 

4.成果の活用面と留意点
1)低温貯蔵における糖変動のメカニズムがさらに解明されれば,糖変動の制御技術の開発につながる。

2)個々の品種の時期特異的な最適利用技術、新規利用技術および低温貯蔵の最適化技術の開発につながる。

5.残された問題とその対応
1)平成13年度からの経常研究において,酸性インベルターゼの遺伝子発現を制御した系の作出による
糖変動メカニズムの解明を試みている。