成績概要書(2002年1月作成)
研究課題:変性小麦粉の特性評価と新用途開発       
担当部署:北農研 畑作部 品質制御チーム(流通チーム)
担当者名:山内宏昭・斎藤勝一・小田有二
協力分担:北農研・地域基盤・品質生理研、北農研・畑作部・麦育種研、
      神戸女子大・家政学部・食品加工研
予算区分:21世紀プロ(麦緊急開発)
研究期間:完1999〜2001年度

1.研究目的
 本課題の目的は、各種の菓子パン、フライ用バッター等の食感改良、物性改良用の素材として
多方面の食品への用途が期待できる変性小麦粉(以下、変性粉)について、変性粉特性良好な
小麦品種,系統の選抜、変性処理による変性粉特性獲得の機作の解明、変性粉の各種用途開発を
行うことである。

2.方法
1)小麦粉の加熱変性処理はビューラー製粉60%粉を20g程度アルミラミネート袋に入れた後、
ほぼ最適条件と考えられる90℃で2時間、110℃で15分の条件で行った。

2)変性粉の品質評価としての粘度測定は、以下のように行った。水分含量を13〜14%に調製した
乾燥重量で6.9gの小麦粉に対し蒸留水15mlを加えペンシルミキサーよく攪拌する。その後、
この液10mlを用いRB80型粘度計(東機産業製)で少量サンプルアダプターによりHH1、HH2ローターを
用い回転数100rpm、25℃の条件で変性小麦粉液の粘度を測定した。

3)各種小麦粉のペントサン含量、アミログラフ最高粘度(以下、MV値)、粒度、タンパク質含量は、
それぞれフロログルシノール法、ビスコグラフによる常法、レーザー粒度測定法、近赤外分光法によって
測定した。

4)各種条件での変性粉の調製は、90℃で1〜16時間処理の条件で行った。

5)小麦粉の分画、酢酸分画法、デンプンのオイル吸着量は瀬口らの方法
(Seguchi et al., Cereal Chem., 61, 244(1984))で行った。

6)X線回折は、理学電気(株)のX線回折装置RD−2A型で測定した。 

7)北海257号の変性粉について、フライと天ぷらのバッター適性、各種菓子、パンの食感改良効果に
ついて官能評価を行った。

3.成果の概要
1)各種品種、系統、銘柄の変性粉の粘度測定結果(図1)より、
①粘度測定した小麦粉の中で対照のホロシリコムギは952.5mPa・sの高い粘度を示し、変性粉特性が
良好であることが確認された。
②ホロシリコムギ以上の特性を示した小麦粉は、85サンプル中14あったが、多量に輸入されている銘柄
(1CW、HRW、ASW)、北海道の主要品種と農林61号はいずれもホロシリコムギよりも低い粘度を示した。
③北農研の有望系統北海257号はホロシリコムギ以上の粘度値を示した。

2)64の品種、系統の小麦粉のペントサン含量、MV値、粒度、タンパク質含量と変性粉粘度の関係より、
以下のことが判った。
①変性粉粘度は、ペントサン含量、粒度にそれぞれ強い、弱い(モチ系統除外すれば強い)相関(図2)があり、
穂発芽の指標であるMV値、タンパク質含量とはほとんど相関がなかった。この結果から、ペントサン含量が高く、
粒度の小さい硬質小麦粉が、変性粉特性が良好であることが判った。
②交配親にホロシリコムギを使用している北海257号、月系9625号等やモチ小麦系統は、いずれも
高い粘度と高いペントサン含量を示した。これより、ペントサン含量に関係する遺伝子が変性粉特性に
影響していると考えられる。
③北海257号は、対照のホロシリコムギ以上の高い粘度と高いペントサン含量を示し、変性粉原料として
有望であることが判った。

3)種々の加熱時間で処理した北海257号の変性粉の解析から、以下のことが判った。
①粘度が最高になる最適な加熱時間がある(北海257号の場合90℃、6時間,図3)、
②加熱時間と共にテーリングス画分が急激に増加し、プライムスターチ画分が減少する傾向を示す(図4)。
③加熱の初期段階でデンプンのオイル吸着量が増加する(図5)。
④加熱により小麦粉デンプンの結晶性は変化しない(図6)。これより、小麦粉デンプン表面の疎水化が
加熱処理による変性粉粘度上昇の主原因であると考えられる。

4)北海257号の変性粉について各種用途開発を行った結果、フライと天ぷら用のバッター適性、
クッキー、シュークリーム、各種パンの食感改良効果があることが明らかになった。


図1 各種品種,系統,銘柄の変性粉の粘度
加熱条件 90℃,2時間


図2 各種小麦粉分析値と変性粉粘度の関係
加熱条件 110℃,15分


図3 北海257号の90℃加熱変性粉の粘度


図4 加熱時間と変性粉の各画分の割合の変化
加熱条件 90℃


図5 加熱時間と変性粉中のデンプンのオイル吸着量の関係
加熱条件 90℃


図6 加熱変性粉のX線回折結果
加熱条件 90℃

4.成果の活用面と留意点
1)現在変性粉用途に使用されているホロシリコムギ以上の変性粉特性を示した北海257号が
今後変性粉用小麦として利用できる可能性が高い。

2)北海257号の変性粉はホロシリコムギの変性粉より低コストであり、各種バッターや菓子類、
パン類の食感改良素材として利用が可能である。

5.残された問題とその対応
1)加熱処理による小麦粉の粘度上昇の機作に関する更なる詳細な検討が必要である。

2)変性粉の各種バッターや菓子類、パン類の食感改良素材以外の更なる各種用途開発が
必要である。