成績概要書 (2003年1月作成)
課題分類:北海道>畜産・草地>畜産
研究課題:陰イオン塩給与による乳牛の低カルシウム血症の予防
    (寒地寒冷地における高能力牛用自給飼料の高品質生産技術)
担当部署:北海道立畜産試験場 畜産工学部 代謝生理科
担当者名:松井義貴
協力分担:北海道農業研究センター
予算区分:国補(地域基幹)  
研究期間:1998〜2002年度(平成10〜14年度)

1. 目的
  近年、分娩時の低カルシウム(Ca)血症に起因する起立不能症の発生が増加傾向にあり、 その早急な対策が求められている。また、分娩前飼料におけるナトリウム(Na)、カリウ ム(K)の陽イオンと塩素(Cl)、イオウ(S)の陰イオンとのバランス(DCAD)が低Ca血症発 症と関係のあることが報告されている。そこで、DCADと発症との関係について明らか にするとともに、陰イオン塩給与による低Ca血症の予防効果について検討する。

2. 方法
 1)分娩前給与粗飼料のイオンバランスと起立不能症発症率との関係
 2)陰イオン塩製剤の添加量
  (1)陰イオン塩製剤の6%および3%添加による検討
  (2)陰イオン塩製剤の4.5%添加による検討
 3)分娩前の陰イオン塩給与による低Ca血症の予防
  (1)チモシー主体飼養時における予防効果
  (2)アルファルファ主体飼養時における予防効果
 4)大規模農場における陰イオン塩給与による低Ca血症予防の実証

3. 成果の概要
 1)9農場における分娩前の給与粗飼料成分と起立不能症発症率について調査したところ、推定DCAD({[Na+]+[K+]}−{[Cl-]+[S2-]})が高い粗飼料、とくに+250mEq/乾物kg以上の粗飼料を給与していた農場で起立不能症発症率が高い傾向にあった(図1)。
 2)-(1)陰イオン塩製剤(Cl:8.7%含有,DCAD:-2980mEq/乾物kg)を混合飼料に乾物中3%および6%添加して泌乳牛に給与したところ、3%添加では効果が期待できず、6%添加では飼料摂取量と乳量が低下したことから、いずれも添加量として適切ではなかった(表1)。
 2)-(2)前試験と同様に4.5%添加について検討したところ、血液pHの低下(表2)および尿へのCa排泄増加(図2)から効果が期待され、飼料摂取量と乳量への影響もなかったこと(表2)から、添加量として適切と考えられた。
 3)-(1)経産乳牛に対して分娩前2週間、陰イオン塩製剤を乾物中4.5%添加した混合飼料を給与することによって、低Ca血症(血清Ca濃度が7.5mg/dl以下)を示した頭数は低減し(表3)、陰イオン塩給与による低Ca血症の予防効果が示唆された。
 3)-(2)分娩前の経産乳牛をアルファルファ主体で飼養したところ、4頭中2頭が血清Ca濃度6.0mg/dl以下の重度の低Ca血症を示したが、陰イオン塩製剤を乾物中4.5%添加することにより、その発症は抑えられた(表4)。
 4)十勝管内の大規模農場において、分娩前の経産乳牛に対して陰イオン塩製剤を乾物中約4%添加したところ、起立不能症発症頭数は減少する傾向であった(表5)。 
  以上のことから、分娩前給与飼料のDCADが高いと低Ca血症の発症が多くなること、また、そのような場合、陰イオン塩を給与することにより低Ca血症発症率の低減が可能であることが示された。


 図1 9農場における給与粗飼料の推定DCADと起立不能症発症率との関係



 図2 飼料変換による尿Ca/クレアチニンの推移(A群:対照区→4.5%区、B群:4.5%区→対照区)

 表1 陰イオン塩6%および3%添加試験


 表2 陰イオン塩4.5%添加試験


 表3 チモシー主体飼養での予防効果


 表4 アルファルファ主体飼養での予防効果


 表5 大規模農場における実証試験

4. 成果の活用面と留意点
 ①陰イオン塩の給与は、給与粗飼料のDCADを+200mEq/乾物kg以下にすることが困難な場合に行うのが望ましく、その期間は乾乳後期に限定する。
 ②陰イオン塩は嗜好性が良くないので、混合飼料で給与するのが望ましい。
 ③陰イオン塩の給与にあたっては採食量、尿pHを注意深く観察する。

5. 残された問題とその対応
 陰イオン塩給与時に添加するCa給与レベルと適切なCa剤の検討