成績概要書(2003年1月作成)
研究課題:乳牛の蹄疾患早期発見と蹄の健康管理技術
       (乳牛の運動器疾患の要因解明と予防指針の作成)
担当部署:道立根釧農試 研究部 乳牛飼養科、酪農施設科、乳牛繁殖科
協力分担:なし
予算区分:道費
研究期間:2000〜2002年度

1. 目的
 乳牛の運動器病は、泌乳器病、生殖器病に次いで発生が多く、除籍や生産性の低下に結びつきやすい。なかでも蹄疾患はその多くを占め、近年増加傾向にある。そこで、蹄疾患を早期に発見できるようなモニタリング手法と蹄の健康を維持するための飼養管理方法について明らかにする。

2. 方法
 1) 蹄疾患のモニタリング手法の検討
  跛行スコアと他の蹄関連スコアとの相互関係を調べるとともに、跛行スコアを1〜2週間隔で測定して蹄疾患、繁殖性およびボディーコンディションスコア(BCS)との関連について検討した。
 2) 飼料中デンプン含量の違いが蹄の健康に及ぼす影響
  試験1では、分娩直後からデンプン含量3水準(25%、30%、35%)、試験2では、分娩の1週後からデンプン含量3水準(25%、35%、40%)の混合飼料を給与し、蹄への影響について検討した。
 3) 牛床資材および通路構造の違いによる乳牛の利用性と跛行との関連
  牛床資材(厚手ゴムマット、ゴムチップマットレス、ウォータベッド)について乳牛の利用性を、また、通路床構造(コンクリート縦溝目地、マット敷きなど)と乳牛の歩行との関係を調べた。
 4) 適切な削蹄間隔と削蹄による蹄疾患の低減効果
  蹄底の大きさ、硬度や負面面積、背壁の長さや蹄の角度について、削蹄直後、削蹄後2、4および6ヶ月後に調査した。また、削蹄回数の変更による蹄疾患治療頭数への影響について検討した。

3. 成果の概要
 1)-(1) 飛節、蹄輪および蹄冠スコアは、跛行スコアと関係が見られ、繋ぎ飼い飼養など跛行スコアを測定できない場面において蹄疾患の発見のために利用することができる(表1)。
 1)-(2) 乾乳期に跛行スコア2以上の出現率が50%以上の牛では、BCSと繁殖に悪影響がみられる(表2)。跛行スコア2以上が連続して観察された牛は、蹄疾患に罹患している可能性が高い(表3)。
 2)-(1) 蹄底潰瘍は、試験1のデンプン含量30%区と35%区、試験2の40%区で発生したが、亜急性ルーメンアシドーシスがみられたのは試験2の40%区のみであった(表4、図1)。
 2)-(2) 飼料中デンプン含量の増加に伴って蹄底出血斑数と蹄底出血スコアも増加する傾向がみられ、ルーメンアシドーシスが認められなくても、飼料中デンプン含量が25%を超えると蹄底潰瘍発症の危険性が高まると考えられた(表4)。
 3)-(1) 牛床資材間の乳牛の利用性に大きな差はなく、横臥率や横臥時間を適正に維持することができた。跛行スコアが高い乳牛は、横臥時間が極端に短いか長くなる傾向が示された(表5)。
 3)-(2) 柔らかく滑りにくい通路では歩幅が広く歩行速度も0.87m/s以上と速かったが、コンクリート製の硬い通路では歩幅は狭く1秒あたりの歩数が少なかった。凍結路面や滑りやすい表面仕上げでは前肢と後肢の接地位置が16.8〜21.5cmと大きくずれる傾向にあった(表6)。
 4)-(1) 削蹄後の内蹄と外蹄の負面面積の差は削蹄後4〜6ヶ月目にかけて大きくなることから、蹄の形を維持するためには4〜6ヶ月間隔で削蹄する必要がある(図2)。
 4)-(2) 削蹄回数を年1回から分娩前とその後6ヶ月目の年2回に変更すると、蹄疾患の治療頭数が減少したことから、削蹄は蹄疾患の予防効果があると考えられた(図3)。
 跛行スコアは1〜2週間毎に継続して観察することにより、蹄疾患の早期発見に活用できる。また、飼料中デンプン含量を25%以下にすることで蹄の健康を維持し、さらに、分娩前とその後4〜6ヶ月間隔で削蹄を実施することにより蹄疾患の発生を低減することができる。



















4. 成果の活用面と留意点
 1)本成績は、蹄疾患の早期発見、蹄の健康維持ならびに蹄疾患の低減に活用することができる。
 2)跛行スコアの測定は搾乳後にミルキングパーラーから牛舎への戻り通路など、蹄がぬからない場所で実施する。搾乳前の観察は、跛行スコアが乳房の張りによって高く見積もられる。
 3)蹄輪や蹄冠スコアは、蹄壁や蹄冠部が糞尿によって汚れていると測定できないため、蹄の洗浄が必要になる。
 4)飼料中デンプン含量についての成績は、デンプン源として圧扁とうもろこしを用いた混合飼料給与体系で適用する。

5. 残された問題とその対応
 1) 蹄への負担を軽減する通路床の仕上げ方法、利用資材などの検討が必要である。