成績概要書          (2003年1月作成)
研究課題:牛群検定成績における個体の乳中尿素窒素濃度の特性
       (乳中尿素窒素の高度利用法の開発)
担当部署:北海道立根釧農業試験場 研究部 乳質生理科
協力分担:なし
予算区分:民間受託
研究期間:2000〜2001年

1. 目的
 乳検情報の乳中尿素窒素記録を活用するために、個体乳の乳中尿素窒素濃度の変動要因とその影響を明らかにし、北海道における乳中尿素窒素濃度の平均値を推定する。さらに、全道レベルにおける飼養環境についての概略的情報を得るために、調査農農家に対するアンケート調査により、牛群単位における乳中尿素窒素濃度との関連性を試みる。また、赤外線牛乳分析装置を用いた日常検査により得られる個体乳の乳中尿素窒素値の特性を、参照法である酵素法分析値との「差」を用いて明らかにする。また、赤外線分析法における特性やばらつきを考慮した個体乳の乳中尿素窒素値の利用方法を検討する。

2. 方法
 (1)全道記録の検討
  平成12年2月1日から平成13年7月31日までの検定記録2,491,801件の調査農家における産乳記録と合わせた情報2,249,005記録を用いて、各要因に基づいて解析した。
 (2)調査農家のアンケートによる検討
  個別農家ごとに乳中尿素窒素濃度に及ぼす可能性のある要素についてアンケート調査を行った。
 (3)赤外線分析法により得られた個体乳尿素窒素値の特性とその利用法
  乳期および乳量が明らかで酵素法及び赤外線分析法による乳中尿素窒素値のある個体乳523試料のデータを用いた。

3. 成果の概要
 (1)全道検定記録の要因解析により乳中尿素窒素濃度の支庁、年齢、検定季節、乳量、乳成分率、泌乳ステージ、P/F比、体細胞リニアスコアによる影響を考慮し平均値を推定した(表1)。全道における乳中尿素窒素濃度の平均値±標準偏差は、11.4±3.9mg/dlであり、平均値 ±1SDの範囲は7.5〜15.2mg/dlであった。また、乳期では分娩後日数30日が9.9mg/dlと最も低く305日の11.9mg/dlと2.0mg/dlの差がみられた(図1)。乳成分では乳蛋白質率(図2)および乳糖率が低いと、乳中尿素窒素濃度が高い傾向がみられた。また、体細胞リニアスコアが高くなると乳中尿素窒素濃度は低下し、スコア7以上では9.0mg/dlであった。
 (2)アンケートの回答は地域的にやや偏りがあった。季節別の乳中尿素窒素濃度の変動は、年間の乳中尿素窒素濃度の高い農家群で特に夏季間の上昇が大きかった。このことは、放牧飼養体系と極めて強く関連していた。放牧飼養体系の有無は、飼料給与方式の差より大きかった(図3)。
 (3)個体乳においては日常検査法として使用されている現状の赤外線分析法分析値の特性として、バラツキ程度を表す「差」(酵素法分析値−赤外線分析法分析値)の標準偏差が2.3mg/dlとバルク乳に比較して大きく、分析値が5mg/dl未満では赤外線分析法と酵素法による乳中尿素窒素値の間に有意な相関が認められない(図4)。また、牛群の栄養診断として、平均値を±1mg/dlの信頼幅で推定するにはサンプル数は9以上(80%信頼限界)必要であることが明らかになった(図5)。
以上のように、全道の乳検成績(n=約250万)に基づく乳中尿素窒素濃度の平均値と変動要因の解析結果は、牛群の栄養診断として用いる場合に参考となり、また、赤外線分析における乳中尿素窒素濃度値は、5mg/dl以下では信頼性がないことが明らかとなった。
















4. 成果の活用面と留意点 
 1.全道平均値±1SD(7.5〜15.2mg/dl)を「乳中尿素窒素の暫定基準値」(平成8年度指導参考事項)に置き換えて全道版基準値とし、飼養条件等を考慮し牛群栄養診断指標として用いる。
 2.個体情報からのグループ平均値を推定する場合、乳牛のグループ分けに際して平均値の精度を確保するために次の点に留意する必要がある。
  ①同一あるいは類似の飼料を給与されている乳牛を1つのグループとする。
  ②赤外線分析法による分析値が5mg/dl未満の個体は集計から除外する。
  ③個体の重複を避ける。

5. 残された問題とその対応
 1.地域区分と飼料摂取状況に関する情報の把握。
 2. 乳中尿素窒素値の低レベル域での誤差要因の解明、および赤外線分析法による5mg/dl以下の個体情報の取り扱い。