成績概要書(2003年1月作成)
課題分類: 研究課題:バルク乳温監視装置の利用方法 (生乳生産段階におけるHACCP的方式のための乳温管理システム) 担当部署:道立根釧農業試験場 研究部 乳質生理科 担当者名: 協力分担:なし 予算区分:民間受託 研究期間:2002年度(平成14年度) |
1. 目的
酪農場における乳温の管理目標を明確にするため、毎分ごとの乳温から4℃を減じて得られた正の数値を積算した積算乳温(4℃基準)を指標に、生乳の細菌学的品質と冷却貯乳中の温度処理が、隔日集荷体制における出荷乳の低温細菌数に及ぼす影響を氷温保存条件との比較により検討した。また、酪農場における乳温監視システム用に開発された缶体底部密着型センサーを使用したバルク乳温監視装置の、温度追従特性を調査するとともに、生乳冷却システムと乳温との関係、さらには、冷却機性能・洗浄水温とその異常事態の検知方法を検討した。
2. 方法
1)冷却貯乳中の乳温変動が生乳の細菌学的品質に与える影響
生乳品質:2区分 低温細菌数30CFU/ml以下、31〜500CFU/ml
貯蔵時間:36時間(隔日集荷体制でのバルククーラー内の貯蔵時間)
乳温履歴;3区分 積算温度(4℃基準)3000℃・分以下、3001〜5000℃・分、5001〜9000℃・分
調査項目;氷温保存後および温度処理後の低温細菌数
2)バルク乳温監視装置の特性と利用方法
供試機仕様:センサー表示温および冷却機・攪拌機・真空ポンプ稼動状況の記録と演算等
精密調査: 実施場所;根釧農試(4000リットル筒状密閉型バルククーラー)
調査項目;表示温、乳温、洗浄水温、冷却機・攪拌機・真空ポンプ稼動状況
現地調査: 実施場所;根室管内酪農場(10酪農場)
調査項目;表示温、生乳冷却方法、冷却機・攪拌機・真空ポンプ稼動状況
3. 成果の概要
1)冷却貯乳中の乳温変動が生乳の細菌学的品質に与える影響
①生乳の低温細菌数が30CFU/ml以下では積算乳温(4℃基準)は低温細菌数の増加率に影響を与えなかった。しかし、低温細菌数が31〜500CFU/mlでは、積算乳温(4℃基準)区分による低温細菌数の増加率に有意な差が認められ(p=0.01)、積算乳温(4℃基準)が5000℃・分を超えると増加率が高まる傾向がみられた(図1)。
2)バルク乳温監視装置の特性と利用方法
①冷却貯乳工程での表示温は、生乳投入に伴う冷却時には乳温に比較して最大数℃程度低く表示されるが、乳温パターンや積算乳温(4℃基準)による乳温監視のための十分な温度追従性を有する(図2)。
②洗浄工程での表示温は、温湯注入時には液温に比較して最大数十℃低く表示されるが、洗浄実施の有無判別や洗剤液循環工程での排水温の推定には使用可能である(図3)。
③故障等による攪拌機の停止状態で生乳投入があると、温度センサー近くの底層の乳温上昇が著しく遅れるため、正確なバルク内乳温の把握が困難となる(図4)。しかし、冷却機、撹拌機、真空ポンプ等の稼動情報を取り入れることでこの異常状態を検知できる。
④初回投入から集荷までの総冷却機稼動時間を監視・記録することで振れの少ない冷却能力の評価と診断ができ(表1)、出荷乳量を勘案することでより正確な評価が可能となる。
⑤各種の異常警報や冷却機能力等の監視のための閾値は、関連設備とその利用法により影響されるため、施設別に設定を行なう必要がある。
以上のことから、低温細菌数の抑制のため、現行の推奨される乳温管理に「積算乳温(4℃基準)を隔日集荷では少なくとも5000℃・分以下にすることが望ましい」を加える必要があること。乳温と関連機器の稼動情報をモニターするバルク乳温監視装置で、乳温履歴のほか冷却機能力等の監視が可能なことが明らかとなった。
表1 冷却能力の低下による冷却機稼働時間および冷却所要時間の変化
初回投入 | 第2投入 | 初回から集荷まで の総冷却機稼動時間 |
|||
冷却機 稼動時間 |
10℃→5℃ 所要時間 |
冷却機 稼動時間 |
7℃→5℃ 所要時間 |
||
冷媒圧力低下時 | 196分 | 42分 | 179分 | 25分 | 680分 |
冷媒圧力正常時 | 157分 | 34分 | 133分 | 17分 | 538分 |
増加率 | 125% | 124% | 135% | 147% | 126% |
4. 成果の活用面と留意点
①酪農場における乳温の監視と記録および関連機器の異常時警報システムとして利用できる。
②警報システムの設定と運用にあたっては、地域の集乳システム等と十分に整合性をとる必要がある。
5. 残された問題とその対応
①個別の酪農場での温度等の各種閾値の設定方法と、その妥当性を検証する手法の確立