成績概要書(2003年1月作成)
課題分類:04-03-04-*-*-02
研究課題:アルファルファ新品種候補「北海3号」
担当部署:農研機構・北海道農研・作物開発部・マメ科牧草育種研究室
担当者名:我有 満、廣井清貞、磯部祥子    協力分担関係:系適(協力)4場所、特検2場所、他4試験地
予算区分:交付金、地域総合(アルファルファ) 研究期間:1994〜2002年度(平成6〜14年度)

1. 目的
 北海道のような寒地においては、寒地適応型のアルファルファの適応性が高いと考えられるが、寒地適応型アルファルファは一般に北海道の重要病害であるそばかす病に弱く、北海道ではこれまで利用が難しかった。そこで寒地適応型アルファルファのそばかす病抵抗性を改良して、永続性、越冬性に優れ、北海道で安定的に栽培できるアルファルファの新品種を開発しようとした。

2. 方法
 1)育種方法
  集団選抜法
 2)育成経過
  1990年から1993年に実施されたアルファルファ系統適応性試験および耐寒性検定試験終了時に収集した残存株を基礎集団として、1994年より個体の特性調査を行った。基礎集団の内訳は、「マキワカバ」「ヒサワカバ」「月系2号」「月系3号」「月系5号」「月系6号」「キタワカバ」「5444」の残存株各480および「バータス」の残存株200、計4040、収集場所は北農試、北見、根釧および天北の各試験地である。基礎集団の中で、草型が開帳型で越冬性に優れる「月系2号」から、萌芽が良好で、越冬性に優れる48個体を1997年に選抜し、1997年および1998年に隔離採種して増殖一代とした。この増殖1代種子を用いて1999年より道内5場所における地域適応性検定試験並びに根釧農試における耐寒性検定試験を実施した。また、2001年より、増殖1代種子から育種家種子を生産している。

3. 結果の概要(標準品種:「マキワカバ」、比較品種:「ヒサワカバ」)
 1)生育型:標準品種に比較して、草型が開帳型で、秋の草勢が劣り、雑色花の割合が高く、側根の割合が大きい(表1)。標準品種より秋の休眠性が高く、寒地適応性の特徴が強い。
 2)永続性:2年目収量に対する4年目収量の比で評価した永続性、試験最終年の茎数密度および単位面積当たりの残存株数において標準品種を上回る(表1、図2、図3)。既存品種中最も永続性に優れる。
 3)越冬性:越冬性、萌芽良否および春の草勢の評価は何れも標準品種より優れる(表1)。既存品種中最も越冬性に優れる。
 4)耐寒性:標準品種が「中」の評価に対し、「中〜やや強」である(表1)。
 5)収量性:4ヶ年合計収量の標準品種対比は105で多収を示し、特に試験期間中の後半において多収傾向が顕著である(図1)。既存品種中最も多収である。
 6)早晩性:開花始は標準品種とほぼ同時期の「早生」に属する(表1)。
 7)倒伏程度:草型が開帳型であるため、倒伏程度は標準品種より大きく評価される(表1)。
 8)耐病性:そばかす病およびいぼ斑点病の羅病程度は抵抗性の高い標準品種並みである(表1)。パーティシリウム萎ちょう病に対しては抵抗性である(表1)。
 9)飼料成分:CP割合、ADF割合およびNDF割合は標準品種と大差ない(表1)。
 10)採種性:2年間の採種量の平均は標準品種と大差ない(表1)。採種性は標準品種並である。
 11)総合評価:「マキワカバ」および「ヒサワカバ」と比較して、寒地適応型の特性を示し、収量性、永続性および越冬性に優れる。北海道等の寒地向けとして最も適応性の高い品種である。








 表1  「北海3号」の主要特性
 調査形質 北海3号 マキワカバ(標準) ヒサワカバ(比較) 備考
永続性 110 106 103 4年目/2年目収量比% 5場所平均
越冬性 6.2 5.5 5.6 1:不良ー9:良 4場所平均
萌芽良否 6 5.4 5.2 1:不良ー9:良 5場所平均
春の草勢 6.5 5.7 5.9 1:不良ー9:良 5場所平均
耐寒性 中〜やや強 やや強 耐寒性検定試験による総合評価
秋の草勢 4 4.7 5.5 1:不良ー9:良 5場所平均
草 型 6.5 5 4.5 1:直立ー9:開帳 北農研
花 色 6.3 7.6 7.5 1:白ー5:雑色ー9:紫 北農研
側根の割合 24 10 11 側根重/(主根重+側根重)% 北農研
開花始 6/20.1 6/20.5 6/22.1 北農研における2年目1番草を調査
倒伏程度 4.9 3 3 1:無ー9:甚 5場所平均
収穫ロス程度 0.9 1.2 1.5 機械収穫ロス%の1番草と2番草の平均
そばかす病 4.2 4.3 4.4 発生程度 0:無 1:微-9甚 5場所平均
いぼ斑点病 5.5 5.3 4.8 発生程度 0:無 1:微-9甚 北農研
バーティシリウム萎凋病 80.4 81.3 78.1 抵抗性個体率1) 北農研
CP割合 17.7 18.1 17.4 乾物中% 年間平均北農研
ADF割合 30.7 30.1 30.5 乾物中% 年間平均北農研
NDF割合 43.3 42.7 43.1 乾物中% 年間平均北農研
採種量 20.7 20 20.4 2ヶ年平均 kg/a 北農研
  1)60%以上は抵抗性品種に分類される。

4. 成果の活用と留意点
 1)北海道一円を普及対象地域として、特に、これまでアルファルファの安定栽培が難しかったところでも栽培の安定化が図られ、アルファルファの栽培拡大に貢献できる。普及見込み面積は7,500haである。
 2)開帳型のために倒伏程度は大きく評価されるが、地面から刈取り部までの間隔は確保されるため、一般的な機械刈りによる収穫ロスは標準品種と大差ない。耐倒伏性は実用レベルであるが、適期刈りにつとめ、刈遅れに注意する。

5. 残された問題点とその対応