成績概要書(2003年1月作成)
課題分類:
研究課題:十勝岳泥流地帯における暗きょ管閉塞要因の解明と回避対策
     (北海道における高度排水改良法の開発と基準策定)
担当部署:中央農試 農業環境部 環境基盤科
担当者名:
協力分担:なし
予算区分:道費
研究期間:2000〜2002年度(平成12〜14年度)

1. 目的
 十勝岳泥流地帯において暗きょ管が短期間で閉塞する原因を解明し、暗きょ排水の機能を長期間維持するための、暗きょ管閉塞の回避対策を確立する。

2. 方法
 1)暗きょ管閉塞地域及び試験ほ場:上川支庁管内美瑛町美沢(転換畑)
 2)暗きょ管閉塞要因の解明:土壌断面、土壌理化学性、水質、閉塞物質成分
                   (全含量,鉱物同定,微生物同定)等を調査
 3)暗きょ管閉塞危険域の予測:泥炭層の有無と硫酸イオン含量から判断
 4)暗きょ管閉塞回避対策試験:疎水材として複数のカルシウム系資材の検討。ロックウール、チップを用いた現地実証試験

3. 成果の概要
 1)美瑛町美沢の暗きょ管は、施工後1年以内に閉塞した(図1)。この閉塞物質は、鉄とイオウ含量が高い非晶質物質で(表1)、繊維状に集合したGallionella属の鉄酸化細菌の代 謝物(鉄バクテリア膜)であることが判明した。
 2)暗きょ管閉塞ほ場では泥流由来の酸性硫酸塩土壌が存在し、下層の泥炭層に硫化鉄類が 集積していた。
 3)暗きょ管が短期間で閉塞する過程は、①泥流中のイオウが酸化され硫酸となり、鉄とともに下層に流れ、②泥炭層で還元され硫化鉄類として集積していたものが、③暗きょの施工で硫酸鉄に酸化され、暗きょ管に流れ込み、④鉄酸化細菌の働きによって鉄バクテリア膜として沈積した結果であると判断した(図2)。
 4)美瑛町美沢の全域を対象に土壌の硫酸イオン含有量と泥炭の存在の調査を行い、①「硫 酸イオン含有量が0.2%以上の条件下で泥炭が存在」の閉塞危険域と②「硫酸イオン含有量が0.2%以上の条件下で泥炭が未確認」の準危険域に区分し、暗きょ管閉塞発生の 予測図を作成した(図3)。
 5)チップを疎水材に使用した従来暗きょでは施工後6ヶ月でも鉄バクテリア膜が形成され暗きょ管の32%が閉塞した。これに対して、疎水材にロックウールを使用した場合には
 (図4)、排水のpHが高まり鉄酸化細菌の繁殖を抑制するため、全く鉄バクテリア膜が形成されなかった(表2)。
 6)以上から、暗きょ管閉塞の原因は、暗きょ施工による酸化に伴い管内に鉄バクテリア膜が形成するためである。その回避対策としては、ロックウール疎水材の使用が有効である。


 図1 暗きょ管の閉塞状況



 図2 暗きょ管閉塞過程



 図3 暗きょ管閉塞危険域の予測図



 図4 ロックウールによる暗きょ管閉塞回避対策

 表1 暗きょ管閉塞物質の成分


 表2 暗きょ管内付着物質の成分と閉塞状況


4. 成果の活用面と留意点
 1)本法は十勝岳泥流地帯及び同様な要因で暗きょ管が閉塞する地域に対して活用する。
 2)上記の適用地の判定には、土壌断面調査及び下層土の硫酸イオン濃度(水野法)により総合的に判断する。
 3)本法の施工にあたっては、ロックウールの適切な投入や掘削土の中和、管内清掃用紐の付設に留意する。

5. 残された問題点とその対応
 1)既存暗きょ管の効果的な閉塞回復対策