成績概要書(2003年1月作成)
研究課題:有機物資材を利用したダイズのカドミウム吸収抑制技術
担当部署:農研機構・北海道農研・生産環境部・上席、土壌特性研究室
担当者名:吉田光二、杉戸智子、新田恒雄
協力分担:
予算区分:環境ホルモン
研究期間:1998〜2002年度

1. 目的
 カドミウム(Cd)は、高濃度で毒性を示すのみならず、低濃度において内分泌かく乱作用を持つ物質であり、コーデックスにおいてもダイズ子実中の含量をより低くすることが検討されているなど、より高度な吸収抑制技術の確立が求められている。
 そこで、自然賦存条件においてダイズのCd吸収に対する有機物資材の施用効果を検証し、有機物を利用した効果的なCd吸収抑制技術の開発を試みた。

2. 方法
 1)道内産ダイズのCd含量調査(予備調査)
1998年産ダイズ子実を道立農試、改良普及センター等の協力で収集し、Cd含量を測定した。
 2)Cd人工汚染土壌の特性とCd存在形態の関係(枠試験)
1975年にCd(5ppm)を添加して作物による吸収等を調査した後、20年あまり放置されてきた土壌型の異なるCd汚染土壌(1m×1m枠)の特性と形態の異なるCd含量及びそこで栽培したダイズ子実のCd含量を測定した。
 3)Cd自然賦存土壌における有機物資材施用効果(ポット試験)
多腐植質黒ボク土2.5kgに有機物を125g(現物)添加し、ダイズをポット(1/5000a)栽培して子実のCd含量を測定した。施肥量は有機物無施用の場合は窒素として0.4、0.8、1.6g/ポットの3段階、有機物施用の場合は0.0、0.8g/ポットの2段階。1本植。
 4)Cd自然賦存土壌における有機物施用条件とダイズCd吸収の関係(圃場試験)
淡色黒ボク土圃場において炭カル及び有機物施用条件を変えてダイズを栽培し、収穫期の部位別Cd含量、着莢位置別に得た子実のCd含量、生育中期の部位別Cd含量を測定した。

3.結果の概要
 1)収集した59の試料のCd含量は平均値では0.1ppmとコーデックス委員会が暫定的に定めた基準値原案0.2ppmをクリアしていたが、基準値原案を越える恐れのあるものが11.9%あった(データ省略)。
 2)Cd人工汚染土壌では、全炭素量の多いものほど、全Cd含量が多いにもかかわらず、交換態(1M硝酸アンモニウム抽出)Cd含量及びダイズ子実Cd含量が少なかった(図1)こと、また、新たにCdを添加した土壌でも、有機物含量の多い土壌のダイズ子実Cd含量が少なかった(データ省略)ことから、土壌有機物がCdを不溶化していると考えられた。
 3)多腐植質黒ボク土を用いたポット試験において、ダイズ子実Cd含量は、厩肥(pH7.2)、バーク堆肥(pH7.7)施用で低く、腐葉土(pH6.7)や腐植酸質資材(pH6.6)施用で対照と同じか、高くなったことから、pHの高い資材の方がCd吸収抑制効果が高いと考えられたが、ピートモス(pH4.0)のようにpHが低くても効果を示すものもあった(図2)。
 4)淡色黒ボク土圃場で炭カル及び有機物施用条件を変えて栽培したダイズの子実Cd含量と土壌交換態Cd含量の間に施用資材で異なる正の相関があり、同程度の交換態Cd含量では厩肥やバーク堆肥施用で子実Cd含量が低下する傾向がみられたが、炭カル含有腐植酸質資材施用では交換態Cd含量の減少にもかかわらず、子実Cd含量の低下は認められなかった(図3)。また、子実Cd含量は着莢位置に関わらず、有機物資材施用によって低くなり、厩肥やバーク堆肥(20t/ha)と炭カル(5t/ha)を併用するとCd含量がさらに低下した(データ省略)。さらに、炭カル含有腐植酸質資材を除くと、土壌pHと子実Cd含量の間に高い負の相関が認められた
(図4)。一方、厩肥を作条施用(20t/ha)すると、莢肥大期におけるダイズ地上部Cd含量が全面全層施用(20、40t/ha)より低くなり(図5)、厩肥の作条施用はCd吸収抑制に効果的な施用方法と判断された。
 5)以上の結果より、有機物資材の高pH、Cd不溶化作用等の特性がCd吸収の抑制に関与していることが推測され、厩肥と炭カルを併用して、土壌有機物とpHの上昇を図ることにより、Cd自然賦存土壌におけるダイズのCd吸収を効果的に抑制でき、厩肥単独施用の場合は作条施用が優ると考えられた。












4. 成果の活用面と留意点
 1)本成果は北農研内の圃場における1品種のダイズ(トヨムスメ)について得られたものである。

5. 残された問題とその対応
 1)ダイズ子実Cd含量と相関の高い土壌Cd含量測定法の確立。
 2)有機物特性とCd吸収抑制の関係解明。
 3)多様な土壌型や品種、気候条件についての適用性。