成績概要書(2003年1月作成)
課題分類:
研究課題:北海道東部の草地酪農地帯における林帯の水質浄化機能
担当部署:独立行政法人北海道開発土木研究所 農業開発部 土壌保全研究室
                      〃            〃   農業土木研究室
根釧農試 研究部 草地環境科
担当者名:
協力分担:
予算区分:受託
研究期間:1999〜2002年度(平成11〜14年度)

1. 目的
 酪農地帯の水質保全のためには、点源汚濁負荷の軽減だけでなく、農地へ施用された家畜糞尿、化学肥料などの肥料養分の水系への流入も回避する必要がある。既往の研究では、面源負荷対策として排水路沿いの緩衝帯が有効であるいわれている。しかし、その水質浄化機能は、地形・土壌・水文・気象など地域特性と密接な関係があるため、機能評価のためにはこれらの特性が異なるそれぞれの地域で現地調査が必要である。以上のことから、北海道東部の草地酪農地帯において、排水路沿いの林帯が有する水質浄化機能を調査した。

2. 方法
 (1)林帯を有する斜面での流出経路(1999年(平成11年))
  下方に幅約30mの林帯がある草地斜面(図-1)で、以下の調査を行った。
土壌断面調査および代表的土層の重力水孔隙率測定、草地および林帯での浸透能試験、圧力式水位計(自記)と水位検知器による地下水位観測、降水量観測
 (2)林帯が流出水の水質に与える影響(2000〜2002年(平成12〜14年))
 林帯あり流域と林帯なし流域を設定して(図-2)、以下の調査を行った。
降水量および水位・流量観測、平水時および降雨流出時の排水路水質分析(土壌凍結期を含む)、降雨時の草地斜面における表面流出水の水質分析、施肥状況調査

3. 成果の概要
 (1) 草地の浸透能は10mm/h前後と小さいのに対し、林帯の浸透能は数百mm/hと大きいため(図-1)、降雨時に草地で生じる表面流は林帯地表面で浸透し、濾過作用を受ける。
 (2) 調査地域には火山灰が分布し、深さ1.5m付近に不透水層が存在する。それゆえに林帯地表面で浸透した雨水は、不透水層上に貯留され、傾斜方向に徐々に移動し、平均2-3日の滞留時間を有する中間流出水として排水路に流入する。
 (3) 林帯あり流域と林帯なし流域(図-2)では、単位流域面積あたり養分投入量や平水時の水質(表-1)に大きな差はなかった。
 (4) 林帯あり流域と林帯なし流域の間で降雨流出水の全窒素と全リンの濃度を比べると、非凍結期の比流量(面積あたりの流量)が約300 l/s/km2未満の場合には、林帯あり流域の方が低い傾向があった(図-3、表-2)。しかし、土壌凍結期には、林帯での浄化機能が発揮されず、林帯あり流域の方がこれらの濃度が高くなることがあった(図-4)。
 (5) 林帯は、非凍結期において、草地からの流出水中の全窒素を約17%、全リンを約24%低減させると試算された(表-2)。
 (6) 以上により、北海道東部の草地流域における排水路沿いの林帯は、土壌凍結期には水質浄化機能を持たないが、非凍結期の降雨時には浄化機能を有し、非凍結期に流出する全窒素と全リンをそれぞれ概ね20%低下させることがわかった。


 図-1 草地と林帯での雨水浸透能
     (Ib:ベーシックインテークレート)


 表-1 平水時の水質(単位:mg/1)
  林帯あり 林帯なし
全窒素 1.3 1.5
硝酸態窒素 0.86 0.95
アンモニア態窒素 0.06 0.05
全リン 0.07 0.02




 図-2 林帯あり流域(上)と林帯なし流域(下)



 図-3 比流量と全窒素濃度(非凍結期)



図-4 比流量と全窒素濃度(土壌凍結期)


表-2 林帯による非凍結期の水質負荷低下率の概算
比流量の区分   全窒素
(mg/l)
アンモニア態
窒素 (mg/l)
硝酸態窒素
(mg/l)
全リン
(mg/l)
300 l/s/km2未満 林帯あり流域 3.08 0.28 1.32 0.34
300 l/s/km2未満 林帯なし流域 4.06 0.85 1.69 0.59
300 l/s/km2以上 両流域の平均値 2.95 0.28 1.32 0.77
300 l/s/km2未満および以上の合計
流出量の比*を考慮した水質平均値
林帯あり流域 3.03 0.28 1.32 0.5
林帯なし流域 3.65 0.64 1.55 0.66
林帯による水質負荷低下率    17% 56% 15% 24%
  *300 l/s/km2未満および以上の合計流出量の比は、流量データに基づき、0.63:0.37とした

4. 成果の活用面と留意点
 (1) 本試験で示した水質浄化機能の値は、幅約30mの林帯を持つ調査対象流域で得たものである。

5. 残された問題とその対応
 (1) 斜面長や傾斜の異なる草地における適切な林帯幅の算定方法