成績概要書 (作成 2003年1月)
研究課題名:ぶどう根頭がんしゅ病簡易診断法の開発 (ブドウ根頭がんしゅ病簡易診断法の開発) 担当部署:病害虫防除所 予察課 、 協力・分担:中央農試 作物開発部 果樹科 農産工学部 遺伝子工学科 予算区分:道 費 研究期間:1999〜2002年度(平成11〜14年度) |
1. 目的: ぶどう根頭がんしゅ病の簡易診断法を確立し無病苗の作出に貢献する。
2. 方法
(1)簡易診断法の開発:PCR法を用いた簡易診断法を検討した。
(2)簡易診断法の適用範囲:開発した診断法の適用場面を茎頂培養苗と挿し木苗用の母樹について検討した。
3. 成果の概要
(1)簡易診断法の開発
1)道内10市町村の本病発病樹より分離した20菌株の細菌を検定したところ、いずれもAgrobacterium
vitis と同定された。
2)中央農試遺伝子工学科設計のVirD2プライマーは、簡易判定植物に病原性を示した全菌株を検出し、既報のプライマーと比較して道内分離菌を最も広範に検出できた(図1)。このためVirD2プライマーを実用上の特異プライマーとして試験に供試し、道内分離菌72菌株のうちVirD2プライマーによって検出された57菌株を病原細菌と判定した(図1)。
3)前培養培地としてはYPDB培地が適し、病原細菌を 100〜101 個までPCR(polymerase
chain reaction:ポリメラーゼ連鎖反応)法により検出できた。その検出感度は選択培地を用いた従来法より優り検出効率も安定していた。
4)YPDB培地内に茎頂培養苗と病原細菌を添加した条件で検定した結果、病原細菌単独の場合と同様に病原細菌数
100〜101 個まで検出でき(表1)、茎頂培養苗は病原細菌の増殖およびPCR反応を阻害しないことが判明した。このことから、感染茎頂培養苗を対象に検定をおこなった場合でも、同程度の感度で検出できると推察された。
以上のように、検出範囲の広いプライマーと適切な前培養条件を組み合わせた、高感度な簡易診断法を確立した。
5)ただし雑菌混入条件下での病原細菌の安定した検出は困難であった。
(2)簡易診断法の適用範囲
・茎頂培養苗の検定
1)本診断法によって感染茎頂培養苗から病原細菌を検出できた。
2)本診断法の検定部位としては茎頂培養苗の先端側40㎜を除いた根部側が適当であった。
3)中央農試保存の3品種・1系統の茎頂培養苗は本病に感染していなかった。
以上のように、本診断法は茎頂培養苗を対象に適用できた。
・無病挿し木苗作出のための母樹検定
4)ほ場の発病樹の新梢および樹液から病原細菌を確実に検出することはできなかった。
5)本道において本病が潜伏感染することが明らかとなった(表2)。
以上のように、本診断法は無病挿し木苗の作出のための母樹検定に適用できなかった。
・茎頂培養苗の無病化確認
6)発病樹の緑枝先端部より茎頂を切り出し培養した苗からは、病原細菌は検出されず、発病樹からであっても茎頂培養により無病の苗を作出できることが判明した(表3)。
7)しかし、検定個体数が不十分なため茎頂培養した苗が常に無病であるという証明には至らなかった。
以上のことから、本診断法を利用することによって無病の茎頂培養苗が得られる。これを増殖することにより無病苗の供給に貢献できる(図2)。
簡易判定植物に病原性あり 41菌株 簡易判定植物に病原性なし 31菌株
:病原細菌と判定 、*VirCプライマーはいずれの菌株も検出せず
図1 供試菌株の簡易判定植物に対する病原性と各プライマーによる検出状況
図2 簡易診断法を活用した無病菌の選抜方法
表1 茎頂培養苗の存在・不在条件下での各濃度における病原細菌の検出結果
茎頂 培養苗 品種 |
供試 菌株数 |
検出菌株数 | ||||
培養前菌量(個) | ||||||
104 | 103 | 102 | 101 | 100 | ||
テレキ | 5 | 5 | 5 | 5 | 5 | 5 |
セイベル | 5 | 5 | 5 | 5 | 5 | 3 |
不在 | 6 | 6 | 6 | 6 | 6 | 4 |
供試樹 | 供試 個体数 |
検出 個体数 |
発病樹 | 11 | 7 |
無発病樹 | 33 | 8 |
供試樹 | 茎頂培養個体(各個体数) | ||
品種・系統名 | 供試 | 茎葉 伸長* |
病原細菌 検出 |
32-37 | 15 | 3 | 0 |
30-91 | 9 | 4 | 0 |
ミュラ−トルガウ | 10 | 0 | 0 |
セイベル5279 | 10 | 0 | 0 |
合 計 | 44 | 7 | 0 |