成績概要書(2003年1月作成)
課題分類:
研究課題:温湯種子消毒による水稲の種子伝染性病害対策
(水稲種子温湯消毒確立試験)
担当部署:道立中央農業試験場 クリーン農業部病虫科・生産システム部栽培システム科
道立上川農業試験場 研究部病虫科・研究部栽培環境科
予算区分:受 託
研究期間:2002年度(平成14年度)

1. 目 的
 水稲の温湯種子消毒による各種種子伝染性病害に対する防除効果ならびに北海道の基幹品種の 種子の生育に及ぼす影響を評価し、実用化に向けた処理方法を設定する。

2. 方 法
 表1 処理温度・時間
生育に及ぼす影響   病害防除効果
 試験1     試験2 試験3 試験1   試験2 試験3 試験4
上川農試 中央農試 中央農試 中央農試 中央農試 上川農試 上川農試
60℃15分   60℃15分 60℃10分 62℃10分 60℃10分 60℃10分 60℃10分
58℃20分 60℃20分 60℃20分 60℃15分 60℃15分 60℃15分 58℃20分
     58℃20分 58℃15分 58℃20分  58℃15分 58℃15分   
         56℃25分    58℃20分   
(株)タイガーカワシマ社製・「湯芽工房」YS-200HC使用。
 病害防除効果の試験2はばか苗病を除く、試験4はいもち病のみ。
 1)温湯処理条件:温湯処理に伴う水温と籾温度の推移
 2)苗の生育に及ぼす影響:品種「ほしのゆめ」、「はくちょうもち」、「あやひめ」
          発芽率、移植時の苗形質(草丈、葉数、乾物重、養分吸収)
 3)病害防除効果:いもち病、ばか苗病、褐条病、苗立枯細菌病を対象。主に接種籾使用。

3. 成果の概要
 1)籾袋(4Kg)の温湯投入後の籾温度推移では,60℃と58℃いずれの処理温度でも開始後1分で温度の一時的な低下が認められたが,2分後にはほぼ設定の温度条件で一定に処理された(図1,2)。
 2)60℃10分または58℃15分の温湯処理による発芽率の低下は、「ほしのゆめ」、「はくちょうもち」、「あやひめ」ともに3%以内にとどまり、大きな影響は見られなかった(図3)。
 3)60℃15分では「ほしのゆめ」で8.5〜19.1%、「はくちょうもち」で5.8〜6.0%、58℃20分では「ほしのゆめ」で6.0〜13.0%、「はくちょうもち」で3.0〜6.0%の発芽率の低下が認められた。「あやひめ」は「ほしのゆめ」と同様の傾向であった(図4)。
 4)60℃15分または58℃20分の温湯処理により、移植時の苗形質の劣化は認められなかった。
 5)いもち病に対しては各温湯処理とも対照のチウラム・ベノミル水和剤にやや劣るが、イプコナゾール・銅水和剤F、銅・フルジオキソニル・ペフラゾエート水和剤と同等の効果であり、実用性があると考えられた。
 6)ばか苗病に対しては各温湯処理ともに対照のイプコナゾール・銅水和剤F、銅・フルジオキソニル・ペフラゾエート水和剤と同等の効果であり、実用性が高いと考えられた。
 7)褐条病に対しては各温湯処理ともに対照のイプコナゾール・銅水和剤F、銅・フルジオキソニル・ペフラゾエート水和剤、オキソリニック酸・プロクロラズ水和剤F等に劣り、実用性は低い〜無いと判断された。
 8)苗立枯細菌病に対しては各温湯処理ともに対照の銅・フルジオキソニル・ペフラゾエート水和剤、イプコナゾール・銅水和剤Fにやや優り、オキソリニック酸・プロクロラズ水和剤F等とほぼ同等の効果で、実用性 が高いと考えられた。
 9)以上の結果から、発芽率・苗形質に及ぼす影響と防除効果を総合的に判断し、処理条件としては60℃10分または58℃15分が妥当と判断された。









 表1 温湯種子消毒の各種種子伝染性病害に対する効果
処理温度・
時間対照薬剤
        防除価(発病苗率)    
いもち病1) ばか苗病 褐条病 苗立枯細菌病
試験 1 試験 2 試験3 試験 4 試験1 試験3 試験1 試験2 試験3 試験1 試験2 試験3
60℃10分      90.0 99.8 99.7   100 89.6 85.1 39.0 100 99.1 99.6
60℃15分 100 97.5 99.8    100 100   85.2 11.9    99.9 99.7
58℃15分   100 99.4     100 72.1 80.9 31.0 100 99.8 99.8
58℃20分 100   99.7 99.7 100 100     54.1     99.8
対)チウラム・ベノミル水和剤 100 100 100 100                
対)イプコナゾール・銅水和剤F 100 100 98.9 98.7   99.9 92.3   82.0 82.9   96.9
対)銅・フルジオキソニル
・ペフラゾエート水和剤
    99.1 98.4 100 100   95.0 87.2   98.8 96.4
対)オキソリニック酸・プロクロラズ
水和剤F
            97.8 94.4   96.3 100  
無処理の発病苗率(%) 4.1 1.99 15.2 10.5 83 94.7 18.3 48.9 13.7 91.1 75.3 97.0

4. 成果の活用面と留意点
 1)本成果は(株)タイガーカワシマ社製・「湯芽工房」YS-200HCを用いて得られたものである。
 2)本成果は水稲の種子伝染性病害であるいもち病、ばか苗病、苗立枯細菌病の種子消毒に活 用する。褐条病の対策は平成8年指導参考の「水稲の育苗期における細菌病の防除対策」に準ずる。なお、上記機種は循環式であり、褐条病を助長する恐れがあるので催芽には使用しない。
 3)処理温度・時間を厳守する。処理後は速やかに水で冷却し、直ぐに浸種・催芽を行う。本機種使用に際しての注意事項を遵守する。

5. 残された問題とその対応