成績概要書(2003年1月作成)
研究課題:対抗植物を組み入れた根菜類のキタネグサレセンチュウ被害軽減対策
    (寒地畑作地帯における省力低コスト・安定生産のための土壌管理技術改善と野菜導入畑輪作体系の確立)
担当部署:十勝農試 作物研究部 てん菜畑作園芸科・病虫科
協力分担:
予算区分:国補(地域基幹)      
研究期間:1998〜2002年度(平成10〜14年度)          

1. 目 的
 畑作地帯におけるキタネグサレセンチュウ被害の実態を明らかにし、薬剤による防除だけではなく対抗植物の導入も視野に入れた耕種的防除による根菜類の安定生産を目指す。

2. 方 法
 1)根菜類のキタネグサレセンチュウ被害実態とその対策
  (1)にんじんに関する試験結果  (2)ごぼうに関する試験結果 (3)ながいもに関する試験結果
 2)対抗植物を組み入れた畑輪作体系モデルの提案
  (1)各種緑肥の特性調査 (2)畑作物の組み合わせとキタネグサレセンチュウ密度の関係 (3)対抗植物の効果的な導入方法

3. 成果の概要
<根菜類に対する被害と対策>

 1)前作がキタネグサレセンチュウ(以下、センチュウ)を増加させる豆類やスイートコーンの場合、にんじんの裂根及び表皮の黒色斑点症状の発生が高まった(表1)。発生には品種間差が認められ、裂根は「ベ ータ312」・「千浜五寸」で、黒色斑点症状は「千浜五寸」・「ベータリッチ」で少なかった。
 2)にんじんの裂根に対するオキサミル粒剤の防除価は‘30〜50’の範囲にあり、無処理に対する軽減効 果は最大で50%程度であった。黒色斑点症状に対しては、生育日数が120日近くになるとオキサミル粒剤による防除効果はほとんど認められなかった。
 3)対抗植物を休閑緑肥とすることによってセンチュウ密度が大きく低下し、殺センチュウ剤を使用しな い場合でもにんじんの収量及び品質は高かった。小麦収穫後の後作緑肥では、本試験におけるえん麦野 生種のセンチュウ密度低減効果が低かったために、裂根及び黒色斑点症状の発生が多かった(図1)。
 4)ごぼうの奇形根発生は、オキサミル粒剤を施用することで効果的に軽減することができた。しかし、トレンチャ施工前の土壌センチュウ密度が30頭/25g以上の場合、オキサミル粒剤を使用した場合でも発生程度が‘2’以上のゴマ症が発生する可能性があった。
 5)対抗植物を休閑緑肥として栽培した場合、殺センチュウ剤を使用しなくてもごぼうの奇形根の発生率 が5%以下になり、ゴマ症も実質上問題にならない程度の発生にとどまった。しかし、えん麦野生種の後 作緑肥区では、センチュウ密度低減効果が低かったために殺センチュウ剤の使用が必要であった(図2)。
 6)ながいもでは前作が豆類やスイートコーンの場合で、春のトレンチャ施工前のセンチュウ密度が30頭/25g以上の圃場では、オキサミル粒剤処理区は無処理区に対して収量指数が106となり、5%程度の増収となった。褐色斑点症状に対するオキサミル粒剤の防除価は‘52’であり、発生を半減することができた。

<対抗植物導入によるセンチュウ被害軽減>
 7)センチュウ対抗植物としてはマリーゴールド・ギニアグラス・えん麦野生種・ハブソウの4作物が有望であるが(表2)、ギニアグラスは発芽が不良なうえに低温にも弱く、寒冷地帯での安定栽培は現在のところ困難であると判断した。小麦収穫後の後作緑肥試験において安定した生育量が得られた対抗植物はえん麦野生種のみであった。
 8)キタネグサレセンチュウ密度をごぼう・にんじんに対する被害許容水準である5頭/25g以下にするのであれば、えん麦野生種を8月10日頃には播種し、すき込み時の生育量は3000㎏/10a(草丈で80㎝程度)を確保する必要があった。

<根菜類と対抗植物の組み合わせモデルの提案>
 9)休閑緑肥としては対抗植物であるえん麦野生種、マリーゴールド、ハブソウが利用できる(表4)。これらを根菜類の前作とすることで、センチュウに感受性の高いにんじん・ごぼうに対しても殺センチュウ剤を使用する必要はない。さらにマリーゴールドとハブソウではセンチュウ密度抑制効果が長いため(表 3)、根菜類の前々作に導入できる可能性も示唆された。
 10)小麦の後作緑肥としては対抗植物であるえん麦野生種が利用できる(表4)。その場合の小麦の前作物は、菜豆やスイートコーンと比較してセンチュウを増加させないばれいしょが適当である。えん麦野生種の効果を休閑緑肥の場合と同様に発揮させるには、すき込み時の生育量の目標値を3000㎏/10aとする。

 表1. 前作の違いとにんじんの生育及び障害発生の関係(平成10〜12年の平均)
  前作物名(品種名)     収穫時の根重
(g/株)
裂根発生率
(%)
黒色斑点症
発病度
跡地の
センチュウ密度
 えん麦野生種「ヘイオーツ」 135 4 0 0.3
  てん菜「マイティ」 127 6 14 5
  小麦「ホクシン」 136 8 7 7
  ばれいしょ「男爵薯」 137 10 21 23
  菜 豆「福勝」 141 15 48 33
  大 豆「トヨムスメ」 145 20 38 37
  スイートコーン「ジュビリー」 142 22 55 43
  小 豆「エリモショウズ」 149 23 41 48



 図1 対抗植物の導入方法とにんじんの障害発生の関係
   注) 平成14年、十勝農試圃場、栽培期間:5.22〜9.19



 図2 対抗植物の導入方法とにんじんの障害発生の関係
   注) 平成14年、十勝農試圃場、栽培期間:5.15〜10.7

 表2. 春まき栽培における緑肥の生育調査(平成13年)
作 物 名   生重
(㎏/10a)
窒素吸収量
(㎏/10a)
センチュウ密度
(頭/25g)
(5.6) (9.19)
マリーゴールド 3917 5.1 21 4
ギニアグラス 4217 6.7 21 6
えん麦野生種 2467 5.5 21 3
ハブソウ 2633 7.4 21 4
ひまわり 9500 6.8 21 62
  注1) 前作はデントコーン。

 表3. 緑肥栽培後のセンチュウ密度の経年変化
緑肥の種類 12年
緑肥→
栽培後
13年
小豆→
栽培
14年:にんじん栽培
→播種前
(5.22)
→収穫時
(9.17)
ハブソウ 2 1 2
マリーゴールド 0 1 8
え ん 麦 4 21 43
えん麦野生種 0 25 45
クリムゾンクローバー 1 25 64

 表4. 根菜類のキタネグサレセンチュウ被害軽減を目的とした輪作モデル
提案モデル1
     畑作物 休閑緑肥 根菜類
1.休閑緑肥としては、対抗植物であるえん麦野生種、マリーゴールド、ハブソウが利用できる。
2.これらのセンチュウ密度低減効果は高く、翌年にセンチュウに対して感受性の高いにんじんまたはごぼうを栽培する場合でも、殺センチュウ剤を使用する必要はない。
3.特にマリーゴールド、ハブソウを休閑緑肥とした場合は、センチュウ密度抑制効果が長く維持されるため、根菜類の前々作に導入できる可能性も高い。
提案モデル2
     てん菜 ばれいしょ 小麦 えん麦野生種 根菜類
1.後作緑肥としては、対抗植物であるえん麦野生種が利用できる。十分なセンチュウ密度低減効果を得るためには、えん麦野生種の生育量が十分確保できる小麦と組み合わせることが望ましい。
2.小麦の前作としては、ばれいしょ、菜豆、スイートコーンなどが考えられる。しかし、菜豆やスイートコーンではセンチュウ密度が高まるため、小麦の前作としてはばれいしょが適当である。
3.ばれいしょの前作は、センチュウ密度を増加させる豆類よりも増加させないてん菜が適当である。
4.豆類と根菜類は同じ輪作体系に組み込まない方がよいが、豆類が輪作に加わる場合は3作以上離すことを目標とする。

4. 成果の活用面と留意点
 1.本成績は、畑作地帯における根菜類のキタネグサレセンチュウ被害軽減対策として活用する。
 2.対抗植物を導入した圃場においても、その効果を確認する意味も含めて、作付け前の土壌検診によるセンチュウ密度の把握に努める。
 3.農薬Aはにんじん、ごぼうのキタネグサレセンチュウに対して未登録である。

5. 残された問題とその対応
 1.各種対抗植物の栽培法確立  2.新たな殺センチュウ剤の探索と登録促進