成績概要書(2003年1月作成)
課題分類:
研究課題:環境保全を目指した酪農経営改善対策と地域への推進手法
       (酪農経営の環境保全行動の地域的誘導条件)
担当部署:根釧農試 研究部 経営科、(社)北海道地域農業研究所
担当者名:
協力分担:な し
予算区分:共 同
研究期間:2000〜2001年度(平成12〜13年度)

1. 目 的
 市町村自治体が、これからの酪農経営の環境対応の誘導に際し何を重視すべきか明らかにし、誘導の手法を提案する。

2. 方 法
 1)先駆事例における酪農経営の環境対応の分析
 2)本道酪農地帯の市町村自治体による、これまでの酪農経営の環境対応誘導事例の分析
 3)本道酪農地帯の市町村自治体による、酪農経営の環境対応誘導の萌芽的動向の分析

3. 成果の概要
 1)(1)強い環境圧力のもとにある奈良県のメガファーム・Jファームを分析した。
   (2)Jファームは、周囲の環境との調和を経営理念としている。開場時の投資の19%がふん尿処理施設に向けられ、環境コストにより経営規模が決定されている。
   (3)Jファームは、徹底して環境管理機能をはかる。①施設地の舗装による地下浸透回避、②雨水と汚染水の分離集水や雑排水のBOD低減処理による排水管理、③ふん尿の堆肥化と牛舎敷料としての循環利用、④換気扇や細霧装置による臭気対策である(表1)。
   (4)こうした取り組みは、住民との良好な関係の創出、従業員の就労意欲の向上、企業との有利な取引関係の構築、自治体からの積極的な支援の導出につながる。
   (5)本道の酪農経営では、①弱い環境圧力、②保守的な経営指向、③限られた環境コスト負担能力のもとで、こうした環境対応を率先してとることが難しい。
 2)(1)A町は、B町の水道水源となるH川流域の酪農経営の環境対応を誘導してきた。流域の酪農経営の、ふん尿処理施設の家畜排泄物法への適合率は町内で最も高い。
   (2)協議会・役場を中心とした「監視・指導」、農協・普及センターを中心とした「相談・支援」の連携した実施が、酪農経営の環境対応につながっていた(図1)。
   (3)酪農経営の環境対応は当面の経営存続のための窮迫的な対応としてなされる。さらなる環境コスト増大の懸念は酪農経営の将来展望を狭め、離農選択の一因となっている。当面の汚染発生の恐れが減ったとしても、長期的に酪農が衰退する恐れがある。
 3)(1)A町では、地域的に酪農経営の環境対応を進める萌芽的動きがある。町民参加により策定された総合計画では、環境保全的な酪農経営を核とした町づくりの方針が示される。
   (2)計画では、環境保全型酪農経営の推進のもとで、畜産物のブランド化、地産地消促進と農産加工推進、農村観光振興、新たな担い手形成など、多面的な機能の発揮をはかる(図2)。
   (3)背景には、環境対応の遅れと離農増大が地域の衰退に直結するとの危機意識がある。
 4)以上は、環境対応を後ろ向きに捉えるのでなく、これからの酪農経営の持続安定化の条件として積極的に受け止める「未来指向」の重要性を示している。このため、市町村自治体は、法規制等の遵守を求める規制的アプローチだけでなく、環境対応を地域振興や産地展開の必要条件として位置づけ、新たな体制への移行を率先して誘導する"自発的アプローチ"の担い手となることが重要となる(図3、4)。

表1 Jファームと本道酪農経営の環境対応
   Jファーム 本道酪農経営
行動の圧力 ○住民・従業員・関連機関の評価 ○家畜排泄物法
対応の基本 ○施設地の環境管理徹底 ○法律に適合した施設導入
主たる手法 ○雨水の分離排水、施設地の舗装 ○堆肥舎の導入
○堆肥の敷料利用(循環利用) ○不浸透性ラグーンの採用
○汚水の循環利用・浄化放水 ○野積みの回避
○臭気対策  
 評価の方法 ○モニタリングと環境基準適合 ○家畜排泄物法への適合
 安定化措置 ○地域等への環境情報開示  
 経済性対策 ○適切な規模確保 ○補助金、制度融資
○取引先・自治体から好条件獲得

 図1 酪農経営の環境対応を導いた組織間関係の枠組み(H川流域対策)



 図2 地域における環境対応の資源的利用



 図3 自発的アプロ−チと規制的アプロ−チ



 図4 自発的アプロ−チにおける環境対応の誘導手法

4. 成果の活用面と留意点
 -1)酪農地帯の地域的な環境対応誘導に際し活用する。
 -2)市町村、JA、普及センターのほか、酪農経営に対しても理解促進をはかること。

5. 残された問題とその対応
 -1)地域的な環境対応誘導の実践を積み重ね、具体的なノウハウを蓄積する必要がある。