成績概要書(2003年1月作成)
研究課題 : 改良型チゼルプラウシーダを用いた春まき小麦の初冬まき播種技術
担当部署 : 農研機構・北海道農研・総合研究部・総合研究第1チーム
担当者名 : 大下泰生・湯川智行・渡辺治郎
協力分担 : なし
予算区分 : 21世紀プロ1系、21世紀プロ7系
研究期間 : 2001〜2005年度(平成13〜17年度)

1. 目 的
 春まき小麦の初冬まき栽培は収量の向上と穂発芽や赤かび病の回避による品質の改善が期待できることから、導入地域や栽培面積が急速に拡大している。初冬まきでは越冬前に種子を発芽させないためにできるだけ根雪の直前に播種することが望ましい。しかし、この時期は天候や圃場条件が悪化しやすいことから、チゼルプラウシーダ(平成9年度指導参考)を用いて簡易に耕起して種子を表面散播する方式が空知や上川地方などで取り入れられている。そこで、改良したチゼルプラウシーダによる初冬まき播種技術の適応条件を明らかにする。

2. 方 法
 (1)チゼルプラウシーダの改良:水田用チゼルプラウをベースに播種装置を取り付けたチゼルプラウシーダを開発し、土壌含水比と砕土性および小麦の越冬性を調査した。チゼルプラウ:D社CSA−701、作業幅:2m、播種装置:電動繰出ロールによる地表面散播、供試圃場:北農研札幌(火山灰土)、美唄市・北村現地圃場(泥炭土)、士別市・美瑛町・栗山町現地圃場(沖積土)、試験年:1997〜2001年播種(ハルユタカ)、砕土率:土塊直径2㎝以下の重量割合、越冬個体率:播種時の発芽率で補正した越冬後の出芽割合
 (2)現地実証試験:チゼルプラウシーダを用いて現地実証栽培を行い、作業適応性、栽培適性を調査した。供試圃場は方法(1)に同じ、試験年:1997〜2001年播種、供試品種:「春よ恋」・「ハルユタカ」

3. 成果の概要
 (1)改良したチゼルプラウシーダ(図1)は従来使用していた畑用のチゼルプラウに比べてチゼル爪の強度を高めたため、水田転換畑などけん引負荷の大きい圃場で耕深の変動を少なくできた。
 (2)チゼルプラウシーダは土壌含水比の変化に対して砕土率はほぼ一定で、高水分条件ではロータリやパワーハローのような土壌の練り返しがなく、水分条件に対する適応範囲が広かった(図2)。
 (3)チゼルプラウシーダで表面散播した種子の越冬個体率は概ね30〜70%の範囲にあり、土壌含水比や土壌の種類による影響は明瞭ではなかった。しかし、積雪が10㎝以上あるときに播種すると越冬個体率が低下する場合があった(図3)。
 (4)チゼルプラウシーダの作業能率は約60a/hであり、1日当たりの作業面積は約5haであった。根雪の20日前から根雪直前までの期間内に稼働率50%で作業を行うと、チゼルプラウシーダ1台当たりの負担面積は約50haである(図4)。
 (5)現地実証試験では心土破砕や簡易耕起を行う圃場前処理や止葉期追肥の実施数が多くなった。これらの排水対策や肥培管理の励行により子実収量は年々増加した。また、一部の圃場で倒伏したが、いずれも軽微な倒伏であり、表面散播による影響は少なかった(表1)。
 (6)現地実証試験では、融雪水の滞水する排水不良圃場や水田転換1年目圃場では湿害により小麦の越冬個体数が減少した。また、砂質の多い粗粒沖積土では融雪後に降雨が少ないと水分欠乏により越冬後の生育が抑制されて収量が低下した。また多雪地帯でも軽い土壌凍結を伴う地帯では、種子の凍上により枯死し、越冬個体数が減少する事例があった。これらの不適要因のある圃場では対策を施すか初冬まき栽培の導入を避ける必要がある(表2)。









 図4 士別市周辺におけるチゼルプラウシ−ダの稼働状況(2001年)

 表1 初冬まき実証栽培圃場の年別平均値
収穫年 圃場数 圃場前処
理実施数
越冬個
体数
本/㎡
越冬出芽率
% 
越冬個体率
% 
追肥実施
圃場数
追肥窒
素量
㎏/10a
穂数
本/㎡
子実収量
㎏/10a
千粒重
倒伏発生
圃場数 
1999 3 1 158 32.2 49.2 1 4.2 367 336±46.6 40.1 1
2000 5 1 222 42.7 46.7 1 6.3 511 394±39.8 37 2
2001 11 2 188 37.4 46 11 3.9 480 410±30.1 39.4 3
2002 13 12 210 35.9 45.9 12 5.7 588 572±50.4 40.9 2
  注)子実重の範囲は標準誤差


 表2 チゼルプラウシーダを用いた初冬まき栽培の不適要因
不適要因 原  因 生育等への影響 対  策
水田転換1年目
等排水不良圃場
融雪時期に滞水して
窒息
越冬個体数の減少 暗渠、心土破砕、明渠の作溝などの排水
促進対策
砂質の多い粗粒
沖積土圃場
土壌の保水性が乏しく、
干ばつを受けやすい
生育抑制による収量減 初冬まきに適さない
道央の土壌凍結
を伴う地帯
種子が凍上して枯死 越冬個体数の減少 初冬まき(表面散播)に適さない
雑草の多い圃場 チゼル耕起では前作
の雑草が残りやすい
雑草との競合 雑草の少ない圃場を選ぶか、播種前に雑草
を処理する

4. 成果の活用面と留意点
 (1)道央の多雪地帯での初冬まき栽培に適用する。
 (2)積雪が10㎝以上で播種すると越冬後の出芽数が低下する場合がある。
 (3)播種後、ロータリ等による表層撹拌覆土は行わない。
 (4)チゼルプラウシーダ(特許第2896506号)は2002年より市販化された。
 (5)装着トラクタはクローラ式で、作業幅2mのチゼルプラウシーダには70PS以上、作業幅2.5mには90PS以上の機種とする。

5. 残された問題とその対応
 新品種に対応した高品質・多収栽培のための施肥法の検討