成績概要書(2003年1月作成)
研究課題:ばれいしょ形質転換法の確立と導入した耐病性遺伝子の評価
       (遺伝子導入によるばれいしょ新育種素材の開発)
担当部署:中央農業試験場 農産工学部 細胞育種科、遺伝子工学科
協力分担:
予算区分:国補(地域先端)
研究期間:1997〜2002年度(平成9〜14年度)

1. 目  的
 1)ばれいしょ優良品種にポリフェノールオキシダーゼのアンチセンス遺伝子を導入することにより、褐変抵抗性ばれいしょの新育種素材を開発する。
 2)ばれいしょ優良品種に耐病性遺伝子を導入することにより、ばれいしょの黒あし病、乾腐病などの難防除病害に対して耐病性の新育種素材を開発する。

2. 方  法
 1)アグロバクテリウム感染方法の確立
 感染方法:チューバーディスク法、葉片培養法、注射法の感染条件、品種間差を検討する。
 導入する遺伝子
  キチナーゼ遺伝子:菌類の主要構成成分であるキチンを分解する酵素で、菌類の増殖を抑制する事が出来る。イネ・キチナーゼ遺伝子(RCC2、生資研より分譲)及びアカザ・キチナーゼ遺伝子(CAP9、宮城県農業センターより分譲)を使用。
  リゾチーム遺伝子:細菌の細胞壁を構成する多糖に含まれる2種類の糖を結びつけている化学結合を切断する酵素で細菌を溶解する。ニワトリ(白色レグホン)の卵管から採取、クローン化したL23Lysを使用。
  ポリフェノールオキシダーゼ遺伝子:ポリフェノールオキシダーゼはポリフェノールを黄色のクロロゲン酸キノン(重合またはアミノ酸と反応して褐変)に酸化する酵素で、アンチセンス遺伝子により本酵素の発現を抑制し、褐変を防止する。塊茎肥大中期の「男爵薯」から採取、クローン化したPA2を正方向(センス)、逆方向(アンチセンス)に使用。
 2)導入した遺伝子の確認
 PCR法、ウェスタンブロッティング法等により遺伝子の導入を確認する。
 3)導入遺伝子の効果確認試験
 形質転換個体を閉鎖系温室、実験室レベルで実施できる黒あし病、乾腐病、灰色カビ病などの耐病性検定試験に供試する。

3. 成果の概要
 1)チューバーディスク法の条件を明らかにし、「男爵薯」、「メ−クイン」、「根育31号(スタークイーン)」にキチナーゼ遺伝子、リゾチーム遺伝子を導入し、抗生物質耐性の258個体を得た(表1)。
 2)葉片培養法、注射法の条件を明らかにし、「花標津」にポリフェノールオキシダーゼのセンス、アンチセンス遺伝子を導入し、抗生物質耐性の114個体を得た(表1)。
 3)PCR法などによりリゾチーム遺伝子では74、イネ・キチナーゼ遺伝子では13、アカザ・キチナーゼ遺伝子では22、ポリフェノールオキシダーゼのアンチセンス遺伝子では5個体で導入した遺伝子を確認した(表1)。
 4)リゾチーム遺伝子導入系統の黒あし病耐病性検定試験により、原品種 「男爵薯」に比べて明らかに耐病性が高い系統「R93」を得た(図1)。
 5)アカザ・キチナーゼ遺伝子導入系統の乾腐病耐病性検定試験により、原品種「メークイン」に比較して明らかに耐病性が高い系統「EC100」を得た(図2)。
 6)黒あし病耐病性系統「R93」、乾腐病耐病性系統「EC100」は各々の原品種と外観上は同様の生育を示した(図3、4)。





 図1 黒あし病菌を接種した塊茎
 注. 括弧内は罹病程度(0〜4)



 図2 乾腐病菌を接種した塊茎
 注.「EG3」はGUS遺伝子を「メークイン」に
    導入した系統


図3 黒あし病耐病性系統「R93」


図4 乾腐病耐病性系統「EC100」

4. 成果の活用面と留意点
 1)ばれいしょ形質転換試験の参考になる。
 2)黒あし病、乾腐病耐病性の検定は実験室レベルで行っているため、圃場における耐病性とは必ずしも一致するものではない。

5. 残された問題点とその対応
 1)ポリフェノールオキシダーゼのアンチセンス遺伝子を導入した個体の褐変程度の調査。
 2)葉片培養法の条件の再検討。