成績概要書(2003年1月作成)
研究課題:難消化性成分からみた北海道米の機能性解析
       (難消化性成分の機能性を活かした北海道米の新規用途技術開発)
       (北海道米の機能性探索と個別ニ−ズ対応米飯製品の開発)
担当部署:中央農試産工学部農産質科、作物開発部稲作科、衛生研究所健康科学部健康増進科
予算区分:受託(国費補助)、道費(重点領域)
研究期間:1998〜2000年度(平成10〜12年度)、2001〜2002年度(平成13〜14年度)

1. 目的
 難消化性成分の特徴を活かした北海道米の機能性解析・評価をおこない、機能性米としての北海道米の優位性を見出すとともに、高機能な遺伝資源素材を探索し、新規用途開発の可能性を示す。さらに、「機能性」を北海道米の新たな差別化戦略の一つとして位置づけるために必要となる課題を明らかにすることを目的とした。

2. 方法
 1)難消化性成分から見た北海道米の評価
  品種・産地の異なる多数の北海道米と府県米について、食物繊維(TDF)含量、難消化性蛋白質含量および難消化性澱粉(RS)含量を測定し、難消化性成分から見た北海道米の機能性評価をおこなった。
 2)高アミロース米を用いた生理的機能性解析
  RS高含有系統として有望な高アミロース米を用いて、ラットを用いた食餌試験および健常人による食後血糖値上昇の比較試験を実施し、新たな機能性食品素材としての可能性を検討した。
 3)新たな機能性米の開発・流通に関するニーズ調査
  病態食用途としてのニーズ調査として、栄養士および医療・栄養系大学の研究者を、また、健康食用途の調査として、米穀業者および一般消費者を対象にしたアンケートおよび食味試験を実施した。

3. 成果の概要
 1)難消化性成分から見た北海道米の評価
  (1)北海道米のTDF含量は府県米より全般的に高かった(図1)が、効率的な食物繊維摂取源としての優位性を活かすためには、TDF含量2.50%の品種開発を目標にすることが重要であると考えられた。
  (2)低グルテリン米の病態食用低蛋白米としての利用には、70%以上の高度精白米で蛋白質含量4.5%以下の条件が一定の目安となる(図2)。今後は、個別の病態ニーズに対応した低蛋白レベルを明確化した上で、さらに高機能な品種開発を進める必要がある。
  (3)米のアミロースとRS含量には正の相関関係があり、高アミロース米は特異的に多くのRSを含むことが示され(図3)、食物繊維と類似の機能性を備えた食材として有望であることが示唆された。
 2)高アミロース米を用いた生理的機能性解析
  (1)高アミロース米は、in vivo 条件でもRSが特異的に多く生成することが示され、ラットへの継続的投与では、腸内発酵が旺盛となり一般品種に比較して糞便重、盲腸重、盲腸内容物および盲腸内短鎖脂肪酸生成量が増加する効果が明らかとなった(図4)。
  (2)高アミロース米は一般米に比較して、ヒトに対する食後の血糖値上昇が緩慢で積算上昇量も極めて低い事が明らかとなり、過剰な血糖値上昇抑制を目的とした機能性食品素材として極めて有望であることが示された。(図5)。
 3)新たな機能性米の開発・流通に関するニーズ調査
  (1)実需者要望の最も高い機能性米は、血糖上昇抑制効果を期待した高アミロース米であったが、実用化には食味の向上が必要であり、「ゆきひかり」程度の食味レベルが要望されるものと考えられた。
  (2)米の実需では、「生活習慣病の予防を考えた日常的健康食材」の差別化商品アイテムの一つとして、新たな機能性米製品の開発が強く期待されている。また、病態食用途しての機能性米には、医学的な効果だけではなく、長期的に継続可能な食味や価格を備えた製品であることが求められ、流通形態としては、個別ニーズに対応できるように「個食単位の米飯あるいは精白米」が要望されていた。
  (3)消費者は「健康食用途」ではあっても、機能性に関するデータや栽培履歴の明示を求めており、それらの条件が備えられれば付加価値に見合った、差別化商品としての価格設定も可能になるものと考えられた。以上のニーズ調査を総合的に考察し、機能性米の開発と流通の実用化技術開発に向けた方向性と指針を整理した(表1)。


 図1 食物繊維(TDF)含量の北海道・府県米比較


 図2 低蛋白米原料として必要となる低グリテリン特性の試算


 図3 アミロ−ス含量と難消化性澱粉(RS)含量の関係


 図4 ラット盲腸内での短鎖脂肪酸生成量の品種比較(各年次コシヒカリに対する指数)
    *棒グラフは左からコハク酸、乳酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ桔草酸


 図5 食後血糖上昇の品種間比較
     ■:コシヒカリ  ●:イシカリ  ▲:高アミロ−ス米  *:コシヒカリの積算上量に対する指数

4. 成果の活用面と留意点
 1)北海道米の差別化を目指した新たな育種目標設定の参考となる
 2)機能性米流通の実用化に向けた具体的な技術開発の指針となる

5. 残された問題点とその対応
 1)機能性米実用品種の育成
 2)小ロット・多品種に対応した生産・流通システムの導入