成績概要書 (2004年1月作成)
研究課題: 肉用牛ふん尿の処理過程における窒素揮散量とその低減策
        (肉用牛における窒素フローの解明と臭気・大気汚染物質の揮散防止技術)
担当部署: 畜試 環境草地部 畜産環境科、家畜生産部 肉牛飼養科
予算区分: 道費
研究期間: 1999〜2003年度  (平成11〜15年度)
1.目的
 肉用牛飼養における牛舎内および堆肥化過程のふん尿からの窒素揮散量を明らかにするとともに、その低減策を開発する。

2.方法
1)牛房内での窒素揮散量と低減策
(1)肉用牛を飼養している牛房において窒素収支を測定し(ふん尿排泄量は推定)、窒素揮散量を推定した。
(2)牛房内での窒素揮散は、おもに排泄尿中の尿素がアンモニア化し、高pHで揮散することによると想定される。実験室規模の模擬牛房においてアンモニア揮散低減のための資材として酸性化資材(重過石、硫酸バンドなど)、吸着資材(ゼオライトなど)、ウレアーゼ阻害剤(資材Sなど)、易分解性炭素源(糖蜜など)の敷料添加の効果を検討した。一部の資材の効果を実規模牛房で実証的に検討した。
2)堆肥化過程の窒素揮散量と低減策
(1)0.5〜0.8m3規模の牛ふん堆肥化試験において、窒素揮散量と原料性状、通気の有無との関係を検討した。
(2)多量のアンモニアが揮散する通気式堆肥化において、酸性化資材添加およびシート被覆による窒素揮散低減の効果を検討した。

3.成果の概要
1) 牛房内での窒素揮散量と低減策
(1) 肥育牛牛房において排ふん尿窒素量の平均28%(4〜47%)が搬出時までに減少しており、アンモニア揮散による窒素損失が示唆された。
(2) 模擬牛房において、資材無添加の場合、オガコふん尿混合物に添加された尿素(尿の代替)は、速やかにアンモニア化し、その半量以上が1週間以内に揮散した(図1)。これに対し酸性化資材・吸着資材の添加はアンモニアの保持量を増加させることで、ウレアーゼ阻害剤添加は尿素からのアンモニア生成を抑制することで、窒素揮散量を低減した。易分解性炭素源の効果は不明瞭であった。実規模牛房において酸性化資材、吸着資材、ウレアーゼ阻害剤の効果が確認された。各資材の窒素揮散低減量と留意点を表1に示した。
2)堆肥化過程の窒素揮散量と低減策
(1) 無通気での堆肥化試験において窒素揮散量は原料のC/N比が低いほど多くなる関係が認められた。通気により堆肥化過程のアンモニア揮散量が無通気に比べ顕著に増加した。
(2) 通気式堆肥化における多量のアンモニア揮散は原料への酸性化資材(過石3%)の添加により顕著に低減できた(表2)。シート被覆による揮散低減効果は認められなかった。
 温暖期における肥育牛の牛房と堆肥舎からの窒素揮散量の試算例(図2)によると、ふん尿窒素排泄量の28%が牛房内で、12〜19%が堆肥化過程で揮散することになり、環境負荷低減および資源有効利用の観点から揮散量の低減が望まれる。揮散低減手法として、牛房においては敷料へのウレアーゼ阻害剤、酸性化資材添加、堆肥化過程においては酸性化資材添加の効果が大きい。


図1 オガコふん尿混合物に添加した尿素態窒素の消長



図2 肥育牛ふん尿の牛房内・堆肥化過程における窒素揮散量の試算 (敷料=オガコ、温暖期。畜試の飼養条件を基に試算)




表1 敷料への添加資材による牛房からのアンモニア揮散低減量のまとめ




表2 通気式堆肥化における過石添加と窒素成分ガス揮散量



4. 成果の活用面と留意点
1) 肉用牛経営における窒素損失低減およびアンモニア由来の悪臭の低減技術として活用できる。
2) 堆肥化過程の窒素揮散低減技術は他の畜種にも応用できる。
3) 本試験はオガコを敷料とした温暖期の試験であり、他の敷料、寒冷期については未検討である。

5. 残された課題とその対応
1) 堆肥化過程で揮散するアンモニアの回収利用方法の検討。