成績概要書 (2004年1月作成)
課題分類:
研究課題:乳牛ふん尿の処理・利用過程における大腸菌の動態と低減技術
(予算課題名:家畜ふん尿循環利用システム開発事業 Ⅲ. 家畜ふん由来病原性微生物の動態解明と低減技術の開発 2. 処理・利用時の病原性微生物の動態解明と低減技術)
担当部署:道立畜試 畜産環境科
協力分担:なし
予算区分:道費
研究期間:1999-2003年度(平成11〜15年度)
1.目的
 牛のふん尿を介した病原性大腸菌の拡散が懸念されている。牛ふん中の大腸菌は、堆肥化処理やスラリーの曝気処理過程で死滅することが知られているが、十分な品温上昇の望めない高水分固形状ふん尿やスラリーの貯留過程での生残性、圃場還元後の動態、ならびに熱以外の殺菌方法に関する知見は極めて乏しい。本試験では一般大腸菌を指標に、それらについて検討した。

2.方法
1)貯留過程における大腸菌の消長:高水分固形状ふん尿およびスラリーについて検討。
2)圃場施用後の大腸菌の動態解明:土壌中での消長、下層土への浸透、牧草体の汚染等を検討。
3)牛ふん中大腸菌の殺菌条件の検討:アルカリ、アンモニアによる殺菌効果を検討。
4)消石灰の添加による大腸菌の殺菌:消石灰添加装置の開発および添加量の検討。


3.結果の概要
1)高水分固形状ふん尿やスラリー中の大腸菌は貯留期間中に減少し、バッチ処理(一括投入)では、温暖期では3~4ヶ月で検出されなくなり(図1,2)、寒冷期でも5~6ヶ月で顕著な減少を示した。スラリーの連続処理(連続投入)では、バッチ処理ほどの顕著な低減効果は見られなかったが、約6ヶ月間で2オーダー減少した(6ヶ月後:約104 CFU/g)。高水分固形状ふん尿からは最大で堆積重量の20%の排汁が発生し、堆積当初は高密度(105 CFU/ml)の大腸菌が検出された。
2)スラリー中の大腸菌は圃場還元後の土壌中ではしだいに減少し、3~5ヶ月で概ね検出されなくなったが、多量施用(10~20t/10a)区でやや長期間生残する傾向がみられた(図3)。下層土への顕著な移行はみられなかったが、低密度ながら下層土からも検出される例がみられた。スラリー散布草地の牧草からは、散布後2〜4週後まで大腸菌が検出された。
3)消石灰約1%以上の添加でアルカリ化(20℃:pH10<,4℃:pH11<)による大腸菌の殺菌が可能であった。また、非解離NH3-N 300〜500mg/kg以上で大腸菌の殺菌効果が認められた。ふん尿中にはアンモニア態窒素が多く含まれるため、高pH条件下では、アルカリとアンモニアの両者が大腸菌の低減に作用するものと考えられた。
4)バーンクリーナ上に設置して牛舎から搬出されるふん尿上に粒状消石灰を添加する装置を開発した(写真1)。本装置を用いてふん尿(麦稈混合:水分85%)に粒状消石灰を添加したところ、約2%以上の添加で速やかな大腸菌殺菌効果が認められた。スラリー中の大腸菌は、pH9.5〜10となるように消石灰を0.5〜0.8%添加すると6〜10日で検出されなくなった(図5)。
 以上の結果にこれまでの知見を合わせ、ふん尿処理・利用場面からの病原性大腸菌の拡散防止策を示す。貯留場面:①ふん尿・排汁はもらさず管理する。②堆肥化やスラリーの曝気処理、あるいは貯留処理(3~4ヶ月以上の貯留)等により大腸菌の低減をはかる。利用場面:①過剰量の散布をさける。②大雨の前の散布はさける。なお、緊急時は消石灰の添加によりふん尿の殺菌を行う。




図1高水分固形状ふん尿(麦稈混合:水分85%)の貯留過程における
大腸菌の消長切返しにより表層→下層,下層→表層に移動。
  最高品温:46.8℃(2.4ヶ月後)





図2 スラリー貯留過程における大腸菌の消長
  ①乾物10.4% ②乾物5.8%





図3スラリー施用圃場における表層土壌中(0〜5cm)
   大腸菌の消長(2002年)
①、②では、それぞれスラリーを5t,15t/10a表面施用し土壌と混和(植生無),
③は5t/10aをチモシー単播草地に表面施用





図4 消石灰添加ふん尿中大腸菌の消長(表層20cm深)
写真1の装置により、牛舎から搬出される高水分固形状ふん尿
(麦稈混合:水分86%)に対し、粒状混合消石灰を1,2,3%添加した。





図5 消石灰添加スラリー中大腸菌の消長
※凡例の括弧内は消石灰の添加割合,No1〜8は8戸の現地農家より採取した乳牛ふん尿スラリー




写真1 粒状消石灰添加装置


4.成果の活用面と留意点
1)病原性大腸菌の拡散防止のための予防的措置として利用できる。
2)粒状消石灰添加装置は実用新案登録第3088832号(バーンクリーナ設置式粒状物添加装置)を取得。

5.残された問題点とその対応