成績概要書(2005年1月作成)
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課題分類:
研究課題:「WILIS」を用いたダイズわい化病高度抵抗性育種素材
担当部署:植物遺伝資源センター 研究部 資源利用科
     中央農試 作物開発部 畑作科
担当者名:
協力分担:十勝農試 作物研究部 大豆科 上川農試 研究部 畑作園芸科
予算区分:国費受託(21世紀プロ)
研究期間:1999〜2002年度(平成11〜14年度)
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1.目的
 北海道における大豆の最重要病害の一つであるダイズわい化病について、植物遺伝資源センターにおいて見いだした新規抵抗性遺伝資源の中から高度な抵抗性を持つ母本を選定し、高度抵抗性の育種素材を作出する。

2.方法
 (1)わい化病高度抵抗性遺伝資源の選定
 植物遺伝資源センターにおいて過去に見いだされた多数の新規わい化病抵抗性遺伝資源の中で最も発病が低い「WILIS」について、抵抗性の確認と一次特性の調査をおこなった
 (2)「WILIS」を交配母本に用いたわい化病高度抵抗性育種素材の開発
「トヨコマチ」の早生遺伝子のソースである極早生の「樺太一号」を母親に、「WILIS」を父親に平成11年に交配を行い(植交9901)、F2で熟期による個体選抜、F3でわい化病抵抗性の系統選抜をおこない、その後熟期・草型による系統選抜とわい化病抵抗性検定を繰り返し、系統育成をおこなった。平成16年における世代はF6である。
 
3.成果の概要
 1)「WILIS」は複数年の試験において既存の抵抗性品種および遺伝資源より常に発病が低く抑えられていた(図1)。抵抗性の機作と遺伝様式は明らかにできなかった。
が、抵抗性の機作と遺伝様式が不明であった。
2)「WILIS」は圃場では開花にも至らず、主茎長が150cmを超えるなど一次特性が北海道の大豆品種とは大きく異なり(表 1)、実用品種育成に交配母本として直接利用することは困難と考えられた。
 3)植交9901の後代から「植系32号」を育成した。同系統は伊達現地圃場のわい化病激発条件下においても病徴がほとんど認められず(表2)、十勝のわい化病現地多発圃場でも発病が低く抑えられており(成績省略)、抵抗性「強」のツルコガネより高度な抵抗性を示した。
 4)「植系32号」は粒大が小さく臍が暗褐色であるが、熟期が「トヨコマチ」と「トヨムスメ」の間で主茎長は両品種より短く、収量性は「トヨコマチ」と同等であり(表3)、「WILIS」と比較して著しい特性の改善が認められた。


図1 「WILIS」と比較品種の伊達現地圃場における発病率、発病程度の推移

表1 「WILIS」の一次特性(平成16年度)
品種名 開花期 成熟期 主茎長
(cm)
主茎節数 分枝数
(本)
百粒重
(g)
粒形 種皮色 臍色
WILIS (10/4未達) (10/4未達) 158.8 29.7 10.7 11.5 扁楕円 黄白くすみ 暗褐
トヨコマチ 7月15日 9月16日 46.9 10.2 4.4 26.5 扁球 黄白
  注 「WILIS」は伊達現地圃場、「トヨコマチ」は遺伝資源センター圃場での調査

表2 「植系32号」の伊達のわい化病現地圃場おける発病率・発病程度
系統名 平13年(F3) 平14年(F4) 平15年(F5) 平16年(F6)
発病率
(%)
発病
程度
発病率
(%)
発病
程度
発病率
(%)
発病
程度
発病率
(%)
発病
程度
植系32号 0 0 21.4 0 0 0 0 0
ツルコガネ(強) 60.5 2 40.7 2.2 72.1 2 30 1.5
ツルムスメ(ヤヤ強) 67.5 2.7 60.1 2.8 85.9 2.2 61.2 2.9
トヨコマチ(弱) 94.8 3.2 74.5 3.3 100 3.8 92.5 3.9
注)発病率はわずかでも発病が認められた個体の割合、発病程度は観察により0(無)〜4(甚)の5段階評価による。

表3 植物遺伝資源センターにおける一般農業特性と収量調査結果(平成16年度)
品種系統名 開花期
(月.日)
成熟期
(月.日)
主茎長
(cm)
子実重
(kg/10a)
トヨコマチ比(
%)
百粒重
(g)
種皮色 臍色 粒形
植系32号 7.18 9.21 57 328 100 15.4 黄白 暗褐 扁球
トヨコマチ 7.16 9.14 61.4 328 100 27.1 黄白 扁球
トヨムスメ 7.18 9.24 61.4 291 89 24.5 黄白 扁球
樺太一号 7.17 9.3 55.1 253 77 29.8 黄白 暗褐 扁球
注 5月28日播種、畦魔6cm、株間18.5cm1本立ちその他遺伝資源センター慣行栽培による

4.成果の活用面と留意点
 1)「植系32号」はわい化病高度抵抗性の実用品種育成に交配親として直接利用できる。
 2)「植系32号」は今後のわい化病抵抗性育種において、現在「強」の標準品種である「ツルコガネ」より高度な抵抗性の標準系統として利用できる。

5.残された問題とその対応
 1)「WILIS」の高度抵抗性の機作と遺伝様式の解明
  (「高度抵抗性遺伝資源の利用による難防除ウイルス病(ダイズわい化病・コムギ縞萎縮病)抵抗性育種素材の開発」において実施)
 2)「WILIS」由来のわい化病高度抵抗性を持つ実用品種の育成
 3)「WILIS」由来高度抵抗性系統を視野に入れたわい化病抵抗性の評価基準の見直し