成績概要書                              (2005年1月作成)
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課題分類:
研究課題:乳牛の集団哺育施設および育成牛用飼槽設計のガイドライン
      (子牛の哺育育成部門専門分化による初産分娩までの育成期間短縮をめざした地域預託システムの確立)
担当部署:根釧農試 研究部 酪農施設科、乳牛飼養科
担当者名:高橋 圭二、堂腰 顕、上田 和夫
協力分担:根釧農試 研究部 乳牛繁殖科、経営科
予算区分:国費補助(地域基幹)
研究期間:2002〜2004年(平成14〜16年度)
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1.目的
 これまでの哺乳期の飼養施設はカーフハッチによる個別飼養が基本とされてきたが、預託牧場において自動哺乳装置の導入による集団哺育が試みられている。そこで、この集団哺育施設の計画時の留意点を明らかにするとともに、乳牛の体格を規準とした哺乳・育成牛用の飼槽形状及び寸法を明らかにする。

2.方法
1)集団哺育施設設計上の留意点
 (1)預託牧場の実態調査  ①調査牧場:預託事業を開始した13牧場を対象
                  ②調査項目:牛舎構造、寒冷・暑熱・風対策、飼槽構造等
 (2)集団哺育施設の構造と舎内環境
                  ①調査農家:自動哺乳装置利用農家3戸(中標津町)
                  ②調査項目:牛舎構造、収容頭数、外気温湿度、舎内温湿度等
2)哺乳、育成牛用飼槽設計資料
                  ①調査方法:根釧農業試験場内の哺育・育成牛の体格を測定
                  ②測定項目:体重、体高、腹囲、膝高、肩高、胸骨高、飼槽形状確認等
3.成果の概要
1)集団哺育施設設計上の留意点
 (1)預託牧場における集団哺育に必要な施設として、①哺乳期牛群施設(自動哺乳装置利用、一頭あたりの面積2.0〜5.8㎡)、②離乳期牛群施設のほか、健康状態確認と防疫上の理由から受け入れ後1日から1週間程度収容する③単飼飼養施設(カーフハッチほか)があげられる(表1)。
 (2)集団哺育施設における寒冷対策としては赤外線ヒータ、ビニール・コンパネ等の開閉式覆いや囲いの設置、カーテン閉鎖、断熱、日射利用がみられた。暑熱対策ではカーテン・吊り戸の開放、送風機、遮光施設の利用がみられた。風対策ではコンパネ等による囲い・覆いの設置がみられた。
 (3)日射が入る哺育施設では冬季の日中は+10℃程度で夜間は外気温よりも約10℃高く推移した。夏季の日中は外気温と同程度で、夜間は外気温より2〜3℃高く推移した。また、牛舎内設置の哺育施設では夏、冬とも、日中は外気温度よりも0〜5℃低く推移し、夜間は外気温よりも約10℃高く推移した。(図1)。
 (4)牛舎内設置の哺育施設は温度変動は少ないが、換気不良となりやすいので新鮮空気が確実に供給されるようにする。冬季間は日射が入らないため寒冷となるので赤外線ヒータや開閉式の覆いを設置して保温する。哺乳専用牛舎は日射を積極的に取り入れる構造とする。冬季間は日射により舎内温度を上げ換気をする。夜間は赤外線ヒータや開閉式の覆いで保温する。夏季間は暑熱になりやすいのでできるだけ開放し、遮光カーテン等で日射を防ぐようにする。ハウス利用牛舎の管理は基本的に哺乳専用牛舎に準ずるが、より換気不良となりやすく高湿度、結露発生、暑熱環境が懸念されるので、夏季間は遮光カーテンと開口部の開放、冬季間は被覆材を2重したり、日中は換気による湿度の低減、夜間は赤外線ヒータと開閉式の覆いで保温するなど環境管理に十分配慮する必要がある。
 (5)以上のように、集団哺育施設では冬季間の日射を有効に利用できる施設構造とし、赤外線ヒータと開閉式覆いを設置して保温に留意するとともに、日中は舎内温度を上げて換気を促進する。夏季間は壁面の0.9m以上をできるだけ開放し、遮光カーテンの利用など日射による暑熱を防ぐ構造とする。
2)哺乳、育成牛用飼槽設計資料(表2)
 (1)哺育牛舎の飼槽は、2〜4ヶ月齢までは箱形飼槽を40〜45cmの高さに設置して利用する。
 (2)4ヶ月齢以上の育成牛の飼槽壁の高さは育成牛の膝高よりも高く胸骨高以下とする。
 (3)採食通路からの飼槽面の高さが15cmで飼槽壁の厚さが15cmで上方を傾斜させた場合には、6ヶ月齢以上であれば飼槽壁高さ50cmでも採食姿勢に問題はなかった。飼槽柵(ネックレール)は飼槽壁の通路側内側から約20cm前方に出し、最大高さの目安を体高の平均値の85%程度として設置する。

表1 預託牧場の哺育牛舎概要
No. 牛舎構造
(哺乳期・離乳期)
単飼
施設
牛房寸法
(m)
収容頭数
(頭/房)
面積*1
(m2/頭)
保温方法*2 暑熱対策 風対策
A ハッチ、個別   - 1 - ハッチに収容 開放 コンパネ利用
B 片流れ、哺育専用   7.2×9.0 25 2.6 H戸閉鎖 開放 戸を閉める
C ハッチ、個別   - 1 - H閉鎖 窓開、FAN 牛舎内収容
D パイプハウス   9.0×9.0 15 5.8 閉鎖 遮光、開放  
切妻、縦列   6.9×9.0 25 2.5 Hカーテン FAN コンパネ利用
G 切妻、縦列   7.2×7.8 20 2.8 Hビニール囲い 開放、断熱  
H 切妻、縦列   9.0×9.0 18 4.5 北側閉鎖 開放、FAN コンパネ利用
I D型、縦列 7.2×7.2 20 2.6 H FAN、窓開  
J 片流れ、哺育専用 8.1×9.0 20 3.6 H戸閉鎖 開放 コンパネ利用
M パイプハウス 4.5×4.5 10 2 閉鎖、コンパネ 遮光、開放 コンパネ利用
O 切妻、縦列 7.2×7.2 25 2.1 H 開放  
P 切妻、縦列 7.2×7.2 20 2.6 H、日射 未経験 カーテン閉鎖
Q 旧牛舎改造   - 30 1.8*3 H出入り口閉鎖 開放  
注1:最大収容頭数で算出した一頭あたりの床面積。 2:Hは赤外線ヒータの略 3:パドックの面積はのぞく


図1 集団哺育牛舎内の温度変化(左:寒冷期、右:暑熱期)

表2 哺育、育成牛の月齢別の平均寸法と採食可能範囲による飼槽寸法決定用資料
月齢
(月)
体重
(kg)
体高
(cm)
膝高
(cm)
胸骨高
(cm)
腹幅
(cm)
飼槽壁高
(cm)
飼槽柵高
(cm)
飼槽幅
(cm)
参考値(cm)
柵高 壁高
0〜<2 54.4 80.8 30.2 45.6 21.2 40〜45 - 25〜30 - -
2〜<4 105.2 92.6 30.5 45.7 30.7 40〜45 - 35 - -
4〜<6 161 103.7 32.2 54.6 33.5 45 90 35 - -
6〜<9 214.4 112.9 34.6 55.7 39.6 50 100 40 74 38
9〜<12 288.1 120.9 36.3 56.3 45.5 50 105 45 87 43
12〜<18 396.3 130 38.7 59.6 50.6 50 115 50 104 48
18〜<24 543.4 137.8 39.8 61 56.5 50 120 55 104 48
①飼槽面の高さは15cm、壁厚は15cmで上部は前方に傾斜した場合。0〜4ヶ月は箱形飼槽を上部高さ40〜45cmで設置する。②ネックレール高さ。飼槽壁の通路側内側から前方へ約20cm出す。③参考値はPRO-DAIRY、MWPS7

4.成果の活用面と留意点
1)飼槽設計資料作成に用いた数値は根釧農試の育成牛のみの計測値であるため、実際の設計時には体格を計測するとともに収容牛の月齢範囲によって調節する。
2)飼槽柵(ネックレール)は溶接等によって固定せず、高さ・位置が調節できる可動式とする。

5.残された問題とその対応
1)採食性から見た飼槽の最適構造
2)快適性を重視した育成牛の牛床構造・寸法