とうもろこし(サイレージ用)新品種候補「北交64号」(普及奨励事項)
北海道農業研究センター作物開発部トウモロコシ育種研究室
執筆担当者 濃沼 圭一

 寒地向きサイレージ用トウモロコシの新F1 品種「北交64号」は、“中生の早”の熟期で、道央北部、十勝中部および網走内陸部の気象条件が良好な地域を適地とする。本品種は、耐倒伏性が強く、多収で、収穫時の乾物率が高い。

1 試験目的
 十勝および網走地域に適する中生の耐倒伏性・多収品種を育成する。

2 試験方法
 (1) 育種方法 :自殖系統を用いた単交雑一代雑種
 (2) 育成経過:1998年に「Ho68」を種子親とし、「GY302」を花粉親として両親系統間の交配を行い、組合せ能力検定試験の後、2000年に「月交587」の系統名を付し、十勝農試での生産力検定予備試験を行った。その後、生産力検定試験、系統適応性検定試験および病害抵抗性と耐冷性の特性検定試験で有望と認め、2002年に「北交64号」の系統名を付した。さらに、これらの試験を継続するとともに奨励品種決定試験でその優秀性を確認した。

3 試験成績
( 1) 熟期は“中生の早”に属する。同熟期の標準品種「ロイヤルデント90H」に比べ、絹糸抽出期は4日遅いが、収穫時の乾物率はやや高い(表1)。
 (2) 平均の乾物収量は、「ロイヤルデント90H」に比べ、茎葉では13%高く、雌穂ではほぼ同等で、全体では約6%高い(表1、2)。
 (3) 耐倒伏性は“強〜極強”で「ロイヤルデント90H」並である(図1)。
 (4) 初期生育は“やや良”で「ロイヤルデント90H」並である(表1)。
 (5) すす紋病抵抗性は“中”で「ロイヤルデント90H」よりやや強く、本病抵抗性の基準品種「キタユタカ」より強い。ごま葉枯病抵抗性は“中”で「ロイヤルデント90H」および「キタユタカ」より強い。黒穂病抵抗性は“やや強”で「ロイヤルデント90H」並である(表1、3)。
 (6) 雌雄畦比3:1での採種量は48kg/a程度と極めて高い。採種栽培では、両親を同時播種して開花期を合致させることができる。

4 試験結果及び考察
 生育期間中の積算気温が制約される北海道では、地域ごとに黄熟期刈りの可能な熟期別のトウモロコシ優良品種が必要である。現在、トウモロコシの主要栽培地帯である十勝および網走地域に適する“早生の中”から“中生の早”の熟期の育成品種は無く、その開発が急がれていた。「北交64号」は、“中生の早”の熟期で耐倒伏性とすす紋病抵抗性が強く、収穫時の乾物率が高い特長をもち、道央北部、十勝中部および網走内陸部の気象条件の良好な地域での自給飼料の安定生産に貢献できる。

5 普及指導上の注意事項
 (1) 適地は、道央北部、十勝中部および網走内陸部の気象条件が良好な地域で、普及見込み面積は500haである。種子の供給開始は、平成19年度栽培用からの予定。
 (2) 密植適性は比較的高いが、栽植密度はアール当たり800〜850本程度とする。


図1 「北交64号」の耐倒伏性
注:2004年、北海道内の適地外を含む5場所5試験の平均
  LSD.05は倒伏と折損の合計個体率についての5%水準での最小有意差


写真1 「北交64号」の草姿(撮影:2004年8月29日、北農研)


写真2 「北交64号」の雌穂(撮影:2003年9月20日、北農研)