成績概要書(2005年1月作成)
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研究課題:転換畑における土壌物理性に起因した大豆生産阻害要因の解明と改善指標
      (輪換畑における作物生産阻害要因の実態解析と透排水基準の策定)
担当部署:中央農試 農業環境部 環境基盤科
協力分担:
予算区分:国費補助(地域基幹)
研究期間:2002〜2004年度(平成14〜16年度)
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1.目的
 粘質な転換畑では明・暗渠等の基盤整備を実施したほ場においても,表面停滞水による湿害等土壌物理性の不良により,転換作物の収量や品質の低下を招くことが依然として大きな問題となっている.そのため主要な転換作物である大豆を用いて,転換畑における土壌物理性の生育収量に対する影響程度を定量評価すると共に,現地で簡易に測定できる土壌物理性の評価手法を検討し,改善指標値を提示する.

2.方法
1)現地実態調査
調査ほ場:空知支庁管内における表層が粘質な低地土及び泥炭土26ほ場
調査項目:大豆の生育収量,現場透水試験(シリンダーインテークレート法),土壌断面調査,土壌理化学性,貫入抵抗
2)大豆の生産阻害要因解析試験
(1)出芽から苗立ち期間における阻害要因
①土壌クラストによる影響:低地土をプランターに充填し,播種後散水して土壌クラストを形成.クラストの硬度は軽石流堆積物を混合して調整.
②砕土性による影響:砕土率を調整した低地土を無底枠に充填し播種.
(2)苗立ち以降の期間における阻害要因
①耕盤層による影響:低地土を充填した無底枠に,深さ10,20cmに耕盤層を造成し播種.

3.結果の概要
1)大豆の出芽率を低下させ苗立ち本数の確保を阻害する土壌物理条件は,クラスト硬度10mm以上(4kgバネ使用),砕土率80%未満,平均土塊径では1.5cm以上であった(図1).
2)土壌クラストは国際法粘土+シルト含量50%以上(農学会法粘土含量40%以上)の場合に生じやすいが,国際法粘土+シルト含量50%以上においても強熱減量13%以上,全炭素量6%以上であるとクラスト硬度は全て10mm以下であった.また砕土性に関しては,腐植含量の多い土壌ほど塑性限界が高くなり,砕土可能な水分領域が広がった.これらのことから,粘質な転換畑では粗大有機物を含めた土壌中の有機物含量を高めることで,苗立ち本数の確保に対する阻害要因の影響を少なくする可能性が示唆された.
3)耕盤層の存在により乾物重などの生育量や根粒重,窒素吸収量が減少し,大豆の生育を阻害した(表1).またシリンダーインテークレート法によるIbが100mm/h未満のほ場では,個体あたりの子実重に影響を及ぼし,収量が300kg/10a未満に低下した(図2).これらのことから,苗立ち以降の大豆生育を阻害する土壌物理条件は,耕盤層の存在,およびシリンダーインテークレート法によるIb が100mm/h未満,であった.
4)現地ほ場の土壌断面形態および土壌物理性のデータを用いた解析の結果,Ibは孔隙や亀裂などの土壌構造の発達程度による影響を強く受けることから,大豆生育を低下させる要因は,土壌構造が未発達で亀裂や孔隙の少ない土壌環境であった.
5)以上をふまえ,シリンダーインテークレート法を転換大豆畑における土壌物理性の評価手法とし,望ましい土壌物理性改善指標値および改善策(表2)を示すと共に,シリンダーインテークレート法の測定時期と測定条件についてまとめた.


図1. 土壌クラスト・砕土性が大豆の出芽に与える影響

表1. 耕盤層が大豆生育収量に与える影響


図2. Ibが大豆生育収量に与える影響

表2. 転換大豆畑における望ましい土壌物理性改善指標値および改善策

4.成果の活用面と留意点
1)本成績での改善指標値は,転換大豆畑に対する指標値である.

5.残された問題とその対応
1)安定的な大豆生産のための耕起管理法の検討