成績概要書(2005年1月作成)
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研究課題:休耕田等を活用した湿地ビオトープの環境教育の場としての役割
      (エコビレッジ創出試験 湿地ビオトープの多面的機能の評価と整備手法の開発)
担当部署:中央農試 農業環境部 環境基盤科、農政部 設計課
協力分担:
予算区分:道費
研究期間:2000〜2004年度(平成12〜16年度) 
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1.目 的
 休耕田等を活用した湿地ビオトープは多様な生物生息空間となるとともに水質浄化機能を持つ。これらの利活用の一つとして環境教育を取り上げ、湿地ビオトープへの環境学習・教育的ニーズおよび、農村部や都市部における湿地ビオトープの実態を調査し、休耕田等を活用した湿地ビオトープの環境教育の場としての役割を評価する。

2.方 法
1)農村地域の湿地ビオトープに対する環境学習・教育的ニーズ調査:札幌市内及び農村部小学校の3〜6学年の児童(合計7校、712名)、札幌市内の小学校教員(合計10校、50名)、環境教育団体(31団体)を対象にアンケート調査を行った(2004年)。
2)道央地域の湿地ビオトープの実態調査:既往の文献、現地聞き取り及び踏査。調査項目①成立年代と現存する経緯、②禁止行為、③分布と水生動物(指標生物としてトンボ類の幼虫、ゲンゴロウ、エゾアカガエルを設定し2004年に調査)。
3)モデル試験地での調査:谷津田地帯の一角に休耕田等を活用した湿地ビオトープのモデル試験地を設定し、総合的な学習の時間のなかで環境学習を行う地元の小学校3〜6学年の児童(約70名)と関係者(市民団体、土地改良区、学校等)を対象にアンケート法や観察法による調査を行った(2000〜2003年)。

3.成果の概要
1)多くの児童は農村地域への興味関心が高く、農村地域の様々なタイプの環境で生物を対象とした自由な活動を期待していた(表1)。また、都市部の教員と環境教育団体職員は、農村地域へ興味関心を持ち、児童より湿地への興味関心が高く、生物を対象とした観察や研究活動を期待していた。このことより、環境教育の場として、自由に活動できかつ生物が生息できる湿地ビオトープのニーズは潜在的に高いものと考えられた。
2)湿地ビオトープを自然環境型、中間型、新規創出型に分類した。いずれの場合も現状の湿地ビオトープの多くは、自由な出入りが限定されていた(図1)。新規創出型において、禁止行為が生じる背景の一つとして、生物生息の持続性が低下する懸念が挙げられた。
3)指標生物の生息環境から、農村部は都市部より、生息空間どうしのつながり(ビオトープのネットワーク)を確保しやすいことが示唆された(表2)。また、モデル試験地には指標生物のすべてが確認され、都市部の湿地ビオトープよりも、生物の多様性や生物生息の持続性を確保しやすいと考えられた。
4)モデル試験地は「生物個体の発見や捕獲の容易さ」、「生物多様性の確認の容易さ」、「川や周辺の林地や農地との生態系的および活動的連続性」を有しており、そこでの環境学習後の児童は、環境教育の到達段階であるレベル1または2から、レベル2または3へ移行した (図2)。この結果と関係者による評価から、モデル試験地は環境教育の拠点や生物とのふれあいの場としての役割を持っていた。
5)以上のことから、休耕田等を活用した湿地ビオトープは、自由な活動が可能でありかつ生物の多様性や生物生息の持続性を確保しやすいことから、ニーズに応えることが可能な環境教育の場としての役割を有している。

表1 都市部及び農村部の児童と都市部の教育関係者の興味 単位:%


図1 湿地ビオトープの特徴づけ(概念図)

表2 指標生物の生息環境からみた湿地ビオトープのネットワーク性


図2児童の環境教育の到達段階別分類と           学習前           学習後
                  学習前後の変化

4.成果の活用面と留意点
1)休耕田等の利活用に向け、農業者、地域住民、行政の参考となる。
2)都市農村交流推進や地域環境保全の手段として湿地ビオトープを活用・計画・運営する際や、農業体験学習等を受け入れる際の資料として活用できる。

5.残された問題とその対応