成績概要書(2005年1月作成)
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研究課題:農耕地土壌の化学性からみた作物のカドミウム汚染リスク評価法
       (農用地土壌のカドミウムによる農作物汚染リスク予測技術の開発に関する研究)
担当部署:中央農試 農業環境部 環境保全科
協力分担:
予算区分:受託(国費・研究領域)
研究期間:2002〜2004年度(平成14〜16年度)
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1.目 的
カドミウム(Cd)の存在形態に影響を与える土壌の化学性と作物(大豆,小麦およびほうれんそう)によるCd吸収との関係を検討し,作物のCd汚染リスク評価法を確立する.

2.方 法
1)化学肥料および有機物を長期連用した土壌の化学性と作物中Cd濃度との関係
 ①供試土壌:火山性土(5),台地土(残積3,洪積2),低地土(2)
 ②施肥処理:無窒素,標肥,化肥3割増,麦稈鋤込(500kg/10a),堆肥施用(1.5t/10a)
 ③分析項目:[作物]部位別生育量,Cd濃度.[土壌]pH(H2O,KCl),Y1,CEC,交換性塩基,P吸,可給態P,熱抽N,T-C,T-N,EC,Cd(酸分解,0.1および0.01N-HCl抽出).
2)土壌の化学性を指標とした作物のCd濃度推定式の作成とその検証
 ①推定式の作成:1)で得たデータセット(作物,土壌)にCd濃度幅の広い土壌で得たデータセットを加え,大豆(67),小麦(63)およびほうれんそう(29)を供試した.
 ②推定式の検証:新たに収集した大豆(166),小麦(338)およびほうれんそう(51)のデータセット(作物,土壌)を供試して推定式を検証した.

3.成果の概要
1)大豆および小麦子実,ほうれんそうの生育量およびCd濃度は土壌の種類や施肥処理によって大きく変動した.土壌の化学性に関連する項目のうち,いずれの作物Cd濃度とも高い正の相関関係を認めたのはY1および0.01N-HCl抽出Cd,逆に高い負の相関関係を認めたのはpH(KCl),T-NおよびT-Cであった.
2)土壌の0.1N-HCl抽出Cd 濃度と作物Cd濃度の相関係数は低く,土壌Cd濃度だけを指標にCd汚染リスクを評価するのは困難であることが示唆された(図1).
3)大豆および小麦子実,ほうれんそうのCd濃度を目的変数,土壌の化学性〔pH(KCl),T-C(%)および0.1 N-HCl抽出Cd(mg/kg) 〕を説明変数として重回帰分析を行い,log(作物Cd)=a+b・pH(KCl)+c・log(T-C)+d・log(Cd)の式を得た(表1).
4)水田転換後2年以内の低地土では,大豆子実のCd濃度が理論値を大きく上回るため,
推定式によって得られた理論値を2倍して補正する必要がある.
5)道内の圃場で収集した土壌と作物のデータセットにより,各作物のCd濃度推定式を検証した結果,いずれの作物も概ね適合した(図2).リスク区分を3段階〔高:≧0.2mg/kg,0.2>中≧0.1,0.1>低〕とした場合,正しく判別された割合は大豆76%,小麦89%,ほうれんそう94%と高く,作物のCd汚染リスクを評価するうえで有効と考えられた.
6)作物のCd汚染リスク低減のための優先対策は,pH改善であり,長期的に作物のCd汚
染リスクを低減するには圃場への有機物還元も推奨される.
7)土壌の化学性を説明変数とした作物Cd濃度推定式に基づき,作物のCd汚染リスクを区分(高〜低)した.基準値を同じにした場合,同一の土壌条件でも作物の種類によってリスクは異なり,大豆>ほうれんそう>小麦の順に高かった(表2).
以上のことから,土壌の化学性を指標とした作物Cd汚染リスクの評価が可能である.


図1 土壌の0.1N-HCl抽出Cd濃度と大豆子実Cd濃度との関係


図2 大豆子実Cd濃度の実測値と推定式による理論値の関係

4.成果の活用面と留意点
1)作物のCd汚染リスク評価に用い,リスクの高い圃場では作物のモニタリングを行う.
2)コーデックス委員会による食品中Cd濃度の基準値は現在検討中である.
3)土壌診断基準値に基づき適正なpHの維持に努める.
4)リスクの高い圃場では,Cd負荷を高めるような有機物の施用を避ける.

5.残された問題とその対応
1)他作物に対するリスク評価手法の確立.
2)食品中Cd濃度の基準値に対応した農作物栽培指針の策定.
3)農耕地における重金属濃度のマッピング.