パン用秋まき小麦「キタノカオリ」に対する葉色診断と施肥対応
(普及推進事項)
北海道農業研究センター生産環境部養分動態研究室
執筆担当者 建部 雅子

 キタノカオリの子実タンパク質12%を目標とした葉色診断において、穂揃期の葉色が52以上の時はそれ以上の追肥は行わず、50〜52の時は穂揃期に3 kg / 10a、50未満の時は6 kg / 10a程度の追肥を行う。

1.試験目的
 パン用秋まき小麦「キタノカオリ」が2003年に北海道の奨励品種となり、同時に、道央、道東で栽培体系が確立された。キタノカオリはパン用のため、高い子実タンパク質が要求される。環境に負荷をかけることなくタンパク質12%以上の子実を生産することを目標として、葉色を用いた栄養診断の導入を検討し、診断基準値の設定とそれに基づく施肥対応を確立する。

2.試験方法
(1)キタノカオリを窒素施用量および施用時期を変えて、2000年播種から2003年播種の4年間、北農研圃場で栽培した。また、後半の2年間、北村で現地試験を行った。窒素処理は基肥を4 kg / 10aとし、追肥として起生期、幼穂形成期、止葉期、穂揃期における施用の有無、量を変えた。追肥には硫安を用いた。北農研圃場は淡色黒ボク土の転換畑で、直播水稲-春小麦の後である。現地圃場は高位泥炭土に客土をした転換畑で、北農研圃場より熱水抽出窒素が高かった。前作は大豆-小麦である。
(2)葉色は葉緑素計SPAD502を用い、展開第2葉身の中央部を中肋を避けて1区15〜20葉を測定し、平均した。子実収量は水分13.5%で表した。全窒素含有率はケルダール分解後、蒸留法またはオートアナライザー法で分析し、子実タンパク質含有率はそれに5.7倍して得た値を、水分13.5%で表した。

3.試験成績

4.試験結果及び考察
(1)止葉期までに窒素22 kg / 10aを施用しても高収量は得られるが、必ずしも12%以上のタンパク質含有率は得られなかった。そこで、止葉期までは16 kg / 10a程度の施用とし、あとは穂揃期追肥に回す必要がある。16 kg / 10aの窒素施用では熱水抽出窒素が4.1〜5.4 mg / 100gの北農研圃場では12%以上のタンパク質含有率は得られず、一方、熱水抽出窒素が6.0〜8.3 mg / 100gと窒素肥沃度の高い北村圃場では12%以上のタンパク質含有率が得られる場合もあった。従って、施肥と土壌からの窒素を吸収した結果としての小麦の窒素栄養状態を穂揃期の葉色で診断し、追肥の判断をするのが望ましい(表1)。
(2)穂揃期の葉色とタンパク質含有率との関係において、高収量の得られた2001年播種では同じ葉色値でタンパク質含有率は低かった。しかし、同年を除くと両者の相関は高く、葉色52以上のほとんどの処理でタンパク質含有率が12%を超えた(図1)。
(3)穂揃期の追肥によってタンパク質含有率はすべての処理で上昇した。上昇程度は穂揃期の葉色が低いほど大きく、また、追肥量が3 kg / 10aより6 kg / 10aで大きかった。葉色値が50未満では6kg / 10aの追肥で、また、葉色値50〜52では3 kg / 10aの追肥でタンパク質含有率は12%を超えた(図2)。
(4)本試験の範囲から穂揃期に施用窒素量の少なくとも6割の窒素を吸収していることが、その後の順調な窒素吸収に必要な条件と考えた(表1)。穂揃期までの窒素施用量16 kg / 10aの場合、その6割は9.6 kg / 10aであり、穂揃期の窒素吸収量と葉色の関係(図3)から、葉色値としては44.9と見積もられた。さらに、本試験の範囲の穂揃期茎数(表1)が確保されている場合に、穂揃期追肥を行っても良いと考える。
(5)以上より、穂揃期に展開第2葉の葉色を測定し、葉色値が52以上の時はそれ以上の追肥は行わない。葉色値が50〜52の時は3 kg / 10a、葉色値が50未満の時は6 kg / 10aの穂揃期追肥を行う。本診断を適用する範囲として、穂揃期の茎数が460〜690本/m2(収穫期穂数440〜640本/m2)の範囲で、さらに穂揃期の葉色45以上の場合とする(表2)。

5.普及指導上の注意事項
(1)この診断基準値は、道央の水田転換畑に適用する。
(2)穂揃期の3 kg / 10aの追肥は2日、6 kg / 10aの追肥は4〜5日程度、収穫日を遅らせる。
(3)病害虫発生圃場あるいは多発生が予想される圃場では、穂揃期の追肥は行わない。
(4)穂揃期の診断を確実なものにするため、止葉期追肥の時期が遅れないようにする。
(5)低収年の場合の検討が不十分である。