「養液土耕栽培と汁液硝酸イオン濃度のモニタリングによるホウレンソウの硝酸低減化」(指導参考事項)
北海道農業研究センター 生産環境部 養分動態研究室 岡崎圭毅

 ホウレンソウを、窒素施用量8 g / m2で養液土耕栽培すると、汁液硝酸イオン濃度が播種後23日(5、6葉期)より徐々に低下するパターンで推移し、収量を落とすことなく硝酸イオン含有率の低い良質の収穫物が得られる。

1.試験目的
 硝酸イオンの過剰摂取が懸念されているが、ホウレンソウでは北海道の目標値(3000 mg / kgFW)を上回る場合もある。一方、硝酸イオンの低減のために窒素施用量をむやみに落とすと、収量が減少する。そこで、養液土耕法をホウレンソウ栽培に応用し、収量性や他の品質を維持しつつ収穫物の硝酸イオン含有率を低減化できる栽培技術を開発する。また、硝酸イオン低減化技術作成の指針となるよう、収穫期硝酸イオン含有率の簡易測定法と、ホウレンソウにおける硝酸イオン濃度の最適な推移パターンを明らかにする。

2.試験方法
(1)2002〜2004年に、ホウレンソウを春夏まき(図2の品種)、夏まきあるいは晩夏まき(同)で養液土耕法(窒素施用量4、8、12 g / m2)と全量基肥法(窒素施用量8、12、16 g / m2)で雨よけハウス栽培した。
(2)養液土耕は、栽培期間を播種後15日までの前期と、それ以降の後期に分け、後期の窒素施用量が前期の1.67倍になるように毎日の施用量を設定し(表1)、養液土耕3号(N:P2O5:K2O=15:15:15)を希釈して用いた。全量基肥は、硫安、過石、硫加を用い、各処理ともリン酸、カリウムを各15 、8 g / m2施用した。
(3)葉身、葉柄汁液は細断後ニンニク絞り器を用いて搾汁し、汁液、作物体、土壌の硝酸イオン濃度はイオンクロマト法で、全窒素含有率はオートアナライザー法で分析した。

3.試験成績

4.試験結果及び考察
(1)ホウレンソウの生育量、窒素吸収量は、生育初期では極めて小さいが、播種後23日目頃から急速に高まった。1日あたりの窒素施用量を表1のように設定した合計8gN/㎡区で、ホウレンソウの窒素吸収量は施用量に近い値であった(図1)。
(2)窒素を8 g / m2施用することにより、収量は低下することなく、硝酸イオン含有率の低いホウレンソウが得られた。全量基肥の8 g / m2施用によっても同様の効果が得られたが、養液土耕でさらに硝酸イオン含有率が低下する傾向があり、吸収量に近い窒素施用量で栽培する場合、養液土耕栽培がより安定した硝酸イオン低減効果を持つと考えられた(図2)。
(3)養液土耕のホウレンソウは、全量基肥のホウレンソウより全シュウ酸含有率が低く、糖含有率が高い傾向があり、総じて高品質なホウレンソウが生産された(表2)。
(4)作物体硝酸イオン含有率(Y)は、Y=0.493X(葉柄汁液硝酸イオン濃度)の式から推定できる。収穫期の作物体硝酸イオン含有率の目標値3000mg / kgFWに相当する葉柄汁液濃度は約6000mg / Lであった(図3)。
(5)養液土耕において、葉柄汁液の硝酸イオン濃度は播種後23日頃には処理に関係なく高いが、その後4g / m2区では収穫期に向けて急速に低下、8g / m2区でも緩やかに低下し、12 g / m2区では低下が起こらなかった(図4)。収穫前1週間の1日当たり変化量が0または負であると、収穫期の作物体硝酸イオン含有率は3000 mg / kgFW以下となり、このことは養液土耕と全量基肥のいずれにも当てはまった(図5)。
(6)以上より、葉柄汁液の硝酸イオン濃度が播種後28日頃(収穫1週間前)に、多くても6000 mg / L程度であり、なおかつ収穫前1週間に上昇に転じないことが、収穫期の硝酸イオン含有率を3000 mg / kgFW以下にする条件と考えられる。窒素8 g / m2施用の養液土耕栽培では、汁液硝酸イオン濃度が徐々に低下するパターンで推移し、収量を落とすことなく硝酸イオン含有率の低い良質の収穫物が得られた。

5.普及指導上の注意事項
(1)養液土耕は慣行栽培より灌水量が多くなりがちなので、播種前の灌水量を抑える必要がある。
(2)本成果は春夏まき、夏まきの作期で得られたものである。
(3)養液土耕は窒素放出の少ない土壌で行うのが望ましい。播種前土壌の硝酸態窒素が5mg/100g以上となった時は、養液土耕8g/ m2の窒素施用量は土壌診断に基づいて減肥する。
(4)収穫の何日か前に給液を切った場合の効果など、養液土耕の養分供給法についていっそうの検討が必要である。
(5)養液土耕の設備費が若干高価であるため、経済面の検討が必要である。